『オール・カインズ・オブ・ピープル ~ ラヴ・バート・バカラック ~ 』 2010年
2023年2月8日、バート・バカラックさんが94年の人生を終えたとのニュースがありました。
またひとつの時代が幕を閉じました。
ご冥福をお祈りします。
洋楽を聴き始めた頃にはすでに高い評価を得ていた方でしたので、若い頃の私はバート・バカラックに対して古い時代の音楽家のような先入観を持ってしまい、あまり積極的に聴こうとは思いませんでした。
それでも、彼の作曲した曲は、そうとは知らなかったものも含めて、自然と耳にしていました。
カーペンターズやB.J.トーマスの歌った曲が有名ですが、個人的には、ディオンヌ・ワーウィックに提供された曲が好きで、『Always Something There To Remind Me』や『I Say a Little Prayer(小さな願い)』は特に気に入っていました。
それまで、特別な思い入れの無かったバート・バカラックですが、大人になってから聴いた3枚のアルバムがそんな意識を変えてくれました。
『Painted from Memory』(1998年)
バート・バカラックへの意識を変えてくれた1枚目は、エルビス・コステロとのコラボ作品『Painted from Memory』(1998年)でした。
リリースされたタイミングで買いました。
当時私は30代半ばでしたが、何度もこのCDをかけながら、ひとりでお酒を飲んだものでした。
良い曲を変にこねくり回さず淡々とした演奏と歌で聴かせる、いぶし銀のアルバムです。
『Here I Am -Isley Meets Bacharach』(2003年)
2枚目は、ロナルド・アイズレー(アイズレー・ブラザーズ)とのコラボ作品『Here I Am -Isley Meets Bacharach』。
こちらもアイズレー・ブラザーズのベビーなメロウさを抑えて、曲の良さに集中しています。
有名曲のカバーもあり、聴きやすいアルバムです。
両者のアルバムからは、自分の個性以上にバート・バカラックへのリスペクトを最優先してアルバム制作したことが感じられます。
エルビス・コステロもアイズレー・ブラザーズも、どちらも大好きなので、そのアーティストが私をバート・バカラックに導いてくれたというわけです。
『オール・カインズ・オブ・ピープル ~ ラヴ・バート・バカラック ~ 』(2010年)
そして今回聴き直した『オール・カインズ・オブ・ピープル ~ ラヴ・バート・バカラック ~ 』は、ジム・オルークがプロデュースした企画盤です。
内容は、彼が日本とアメリカのアーティストを選んで、各アーティストの色でアレンジしつつ、独自の世界観で統一したバート・バカラックのベスト盤という感じです。
1曲目の細野晴臣の「Close to You(遥かなる影)」から、坂田明やカヒミ・カリィなど、無駄な力が入っていないリラックスした演奏が楽しめます。
BGMのように聴き流してしまっても、ヘッドホンでしっかり向き合っても、どちらでもアリでしょう。
今日のような寒い日に、ひとりで部屋にいるときにはピッタリです。
伊坂芳太郎のイラストが印象的で、このあたりにもこだわりを感じます。
ジム・オルークは、伊坂さんを知っていたのでしょうか。
アーティスト選定からジャケットのアートワークまで、さすが日本オタクのプロデュースという作品です。
CDは、おそらく日本でしか売れなかったでしょうから、逆に今となっては貴重かもしれません。
このコラムを書くきっかけは、バート・バカラックさんのご逝去にあたり、ジム・オルークの編集盤を聴いたのがきっかけでしたが、執筆中にエルビス・コステロとロナルド・アイズレーのアルバムも聴き直していたら、これがまた良くてリピートしそうです。
今夜は、バート・バカラックさんを偲んで、ゆっくり音楽に耳を傾けて過ごします。
2023.2.10