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『BAT OUT OF HELL』 Meat Loaf

『地獄のロック・ライダー』 ミート・ローフ 1977年

アルバム全体をひとつの作品として構成したものを、コンセプト・アルバムと呼んだりします。
個々の楽曲をまとめてひとつのアルバムに編集するというよりも、まず最初に物語があり、そのドラマを音楽化し、演者となって歌うわけです。

こうした作品を作り上げるには、アルバム全体を制作できる力量のあるプロデューサーと、役を演じきれるタイプのアーティストが必要です。
ミュージシャンとして活動しながらも、名前が売れたきっかけが役者だったミート・ローフは、この試みにピッタリのアーティストだったと言えます。

この「地獄のロック・ライダー」は、ジム・スタインマンという優れた音楽家とミート・ローフが出合い、鬼才トッド・ラングレンをプロデューサーに迎えたことで完成した、傑作アルバムです。

私の手元にあるCDは、2007年に再編集された2枚組(ボーナストラック付きリマスター+DVD)なのですが、その解説によると、このオリジナル盤は発売された1977年からの30年間の世界セールスが推定3700万枚で、ロック・ポップス史上5番目に売れたアルバムだったそうです。(1位はマイケル・ジャクソンの「スリラー」だとか。)
当時の記述なので今はどうなのか分かりませんが、たいした記録です。
ただ、改めて聴いていても、ヒット曲らしきものは見当たらず、シングル・ヒット無しでこうした記録を打ち立てるというのは、アルバム全体として高く評価されているということなのでしょう。流石、ロック・オペラです。

一貫した物語があるのがロック・オペラとだとしたら、コンセプト・アルバムやロック・ミュージカルと言われるような作品とは、どこで線引きされるのでしょう?
自然と使い分けていたので今まで意識したことがありませんでしたが、この機会に考えてみたところ、私の中では、こんな感じで分類されていました。

コンセプト・アルバムは、一貫したテーマで編集されていますが、そのテーマは物語性を持つ必要はなく、ミュージシャンはストーリーを演じることなく、その世界の当事者でなくても成立します。
そして音楽の世界観は、比較的、統一されたものになりがちです。
イエスムーディー・ブルースなど、プログレ系のアルバムに多く見つけられます。

ロック・ミュージカルというのは、ミュージカルが先にあるので、曲によって演者が何人も変わり、ひとりのアーティストが全体を統括していません。
音楽的には、ストーリー展開に応じてバラエティに富んだ様々な曲が用意されます。
「ヘアー」や「ザ・ロッキー・ホラー・ショー」、「ジーザス・クライスト・スーパースター」などはこっちの分類かと。

ロック・オペラと呼ばれる作品が、ロック・ミュージカルと異なるのは、こちらは音楽が先にあり、アーティストが演者(主人公)として物語を展開してゆくところです。
ザ・フーの「トミー」、ジェネシスの「幻惑のブロードウェイ」、ピンク・フロイドの「ザ・ウォール」など、有名な作品が数多く思い浮かぶと思います。

サブスクで音楽を聴くような時代になって、こうした作品作りは廃れてゆくのかもしれません。
でも、私としては、これらコンセプト・アルバム、ロック・オペラ的な音楽が大好きなのです。

「的な」と書いたように、カテゴリーとしての線引きが明確にあるわけではないので、プログレはもちろん、ルーリードの「ベルリン」から、グリーン・ディの「アメリカン・イデオット」、マイ・ケミカル・ロマンスの「ザ・ブラック・パレード」、ドリーム・シアターの「メトロポリス・パート2」などなど、様々なジャンルから「的な」ものと出会うことができます。
こうした作品で、アーティストがアルバムを通して創造した世界観に浸れるのは、音楽鑑賞の至福のように感じているわけです。

このままどんどん脱線させていきたい気持ちになってきましたが、ミート・ローフに戻します。

ミート・ローフと言えば、私にとっては「ザ・ロッキー・ホラー・ショー」のエディ役の印象が強く残っているのですが、このアルバムはまさにエディのソロのようでした。

1曲目から、約10分のドラマチックなタイトル曲。
40年以上前に作られたアルバムですが、今聴いてもあまり古さを感じさせないのは、オーソドックスな音楽を土台にしているからでしょう。
ロックン・ロールをベースに、若い苛立ちや恋心を熱く朗々と歌い上げるミート・ローフに合わせて、演奏もコーラスもガンガン盛り上げてきます。

続く軽快なポップ・ロックから、3曲目はピアノの美しいバラード。
軽快なビートの4曲目。
海外ではシングル・ヒットもしたというポップ・バラードの5曲目。

そしてライブで盛り上がりそうな6曲目はロック・オペラらしいストーリー展開が楽しめるロック・ナンバー。
ミート・ローフの上手さは際立っていますが、彼と掛け合いで歌う、エレン・フォーリーも気合が入っていて迫力があります。

オリジナル・アルバムでは最後の曲になる7曲目は、静かな歌い出しから徐々に情感が高まり、バンドが加わってからはさらに抑揚が大きくなり、演劇的な演出がこれでもかと展開して大団円を迎えます。

トッド・ラングレンをはじめとするユートピアや、ブルース・スプリングスティーンE・ストリート・バンドのメンバー、さらにはエドガー・ウィンターまで名前が挙がるバンドの演奏には安定感があります。

アレンジも含めて全てがクオリティの高い音楽と言っていいと思いますし、何よりベースとなる楽曲が良くできています。

作詞・作曲を手掛けたのは、音楽家のジム・スタインという方ですが、そう言われても、あまりピンとこないかもしれません。
でも、ボニー・タイラーの「愛のかげり」や「ヒーロー」、エア・サプライの「渚の誓い」を作った人だと言えば、なんとなく傾向が見えてくるのではないでしょうか。
そう、盛り上げ上手なのです。

「地獄のロックライダー」は、ジム・スタインにとってはキャリアの初期の作品ですが、90年代にセリーヌ・ディオンがカバーしてヒットした「イッツ・オール・カミング・バック・トゥ・ミー・ナウ」も彼の作品ということで、これをロック・アレンジした感じだと言えば、なんとかく掴めるかと・・・。

ただ、悪く言えば垢抜けず、大仰すぎる演出過多で、ダサい作りでもあり、
聴いていて気恥ずかしくなったり、音楽の本質的な良さとは違う作為的な味付けを嫌う人も多いと思えます。
まあ、正直なところ、私も少々胃もたれしました。

でも、こういう芝居がかったものは、入り込んだ方が楽しめるのです。
ディズニーランドに入ったら、インテリを気取ってしらけているよりも、その世界のルールに従った方が何倍も楽しめるように、自己陶酔的な世界であれ何であれ、浸ったもん勝ちです。
どうか胸やけ覚悟でお楽しみください。

ロックという音楽には、こういう形での完成形もあるのだと思える名盤です。



投稿:2020.7.12
編集:2023.11.4

Photo by Maura Nicolaita – pxabay

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