『ブラック・シー』 XTC 1980年
XTCを他のニュー・ウェーブのバンドとは違う特殊なバンドだと認識したのが、このアルバムでした。
この頃、ステーブ・リリーホワイトというプロデューサーは大人気で、多くのアーティストがトレンド最先端の音を求めて彼と仕事をしていました。
XTCとしては前作に続いてスティーブ・リリーホワイトとの制作となり、お互いの良いところが発揮された傑作アルバムとなりました。
トレンドを代表するような音楽の弱点として、それゆえに音が古びてしまうということがあります。
いつまでも色あせないスタンダード・ナンバーや時代を超越する王道ソングと違って、その時代の空気感を敏感に反映してしまっているせいなのですから仕方ありません。
このアルバムも当時は”これぞポスト・パンク”と崇めていたのですが、今改めて聴くとちょっと頑張ってる感が強くて、軽い気恥ずかしさを感じてしまいました。
過去の記憶だけですと、私の中でXTCのNo.1はこの『Black Sea』だったのですが、ちょっと修正が入りそうです。
と厳しめの感想から入りましたが、1980年にリアルタイムで聴いた時は、タイトで切れのいいサウンドや、ひねくれたメロディ、ギター・サウンドがカッコいいのにニュー・ウェイブっぽさもあって、”このサウンドこそが世界最先端だ”と憧れたものです。
このアルバムがリリースされた年は、トーキング・ヘッズが『Remain in Light』をリリースした年でもありました。
こちらはブライアン・イーノがプロデュースしたアルバムですが、ファンキーで第三国風味で、こちらも時代の先端を行く作品でした。
つまり、そんな年だったわけです。
そしてこうした音の傾向は多くのフォロワーを生みましたので、後年のリスナーにとっては、リリース当時の新鮮さは想像しにくいでしょう。
ただ、リアル・タイムでこの音楽を体験した者としては、あの”新時代感”は特別な感じだったのです。
たしかAC/DCの『Back in Black』やモーターヘッドの『Ace of Spades』も同じ頃ですが、当時は時代に合っていないと感じていました。
今となってはこちらの方がエバー・グリーンですね。
ちょっと脱線しました。『Black Sea』に戻します。
聴きながらコレを書いているのですが、シングル・ヒットした『Generals and Majors』以外の曲も覚えているものが多く、やっぱり何度も聴いていたんだなと思いました。
特に1曲目の『Respectable Street』、2曲目の『Generals and Majors』、3曲目の『Living Through Another Cuba』と、さらに中盤へ続く流れはバンドの勢いが感じられます。
このアルバムは彼らの4枚目の作品で、ここへ来てついに他のバンドとは一線を画す個性が存分に発揮されたと言えます。
本国では歌詞に込められた知的なウィットが人気のポイントだったようですが、当時はそんな英語の歌詞を理解できていないままノリノリで聴いていました。
学生時代の空気感がなんとなく蘇ってきて懐かしい気持ちになりますが、聴いているうちにだんだん気恥ずかしさも無くなってきました。
やっぱ、良くできたアルバムです。
XTCというのはどんなバンド?という方には、やっぱりこのアルバムをおススメしたいと思います。
バンドの個性、曲作りのアイデア、ポストパンクの時代感などを感じることができる傑作です。
投稿:2020.4.21
編集:2023.10.28