『ブランダ―バス』 ジャック・ホワイト 2012年
ホワイト・ストライプスが活動を終了してしばらくして届けられた、ジャック・ホワイトのソロ・アルバムです。
ツーピース・バンドではなく、楽曲に合わせて必要なミュージシャンを起用していて、聴きやすくなったという言い方ができるかもしれません。
抑え難い情動のようなものは影を潜めて、落ち着いた大人のジャックがいます。
1曲目の出だしから、エレクトリック・ピアノの音で始まって驚きました。キーボードはアルバム全体で活躍しています。
続く曲では歪んだギター・サウンドも聴かせてもらえますが、楽曲としてまとまりがあり、激しい曲でも安心して聴いていられます。
アルバムの中には、女性ボーカルとデュエットしている曲まであります。
どの曲も比較的に攻撃的ではなく、素直な心情を吐露しているような印象です。
ジャックの音楽的ルーツであるブルースやカントリー・ミュージックへの愛情を、隠すことなく自由に表現できたのかもしれません。
メグという起爆剤のようなパートナーを失ったことで、常にバチバチと火花を散らさなくても良くなったということであれば、他のミュージシャンとの仕事は彼の音楽に成熟と安定をもたらしたと言えるでしょう。
このスタイルの方が多くのリスナーを獲得できそうです。
一方で、彼の狂気を引き出せる唯一の存在であったメグを失ったことで、エッジが丸くなって、個性が潰されてしまっているとも言えます。
これでは熱狂的なファンは獲得できません。
ホワイト・ストライプスのブランド・カラーが赤・白・黒だったのに対して、ソロのイメージは青・黒になっています。
強烈な自己主張が魅力だったホワイト・ストライプスに対して、ソロでは自分自身を俯瞰して見ることができているのかもしれません。
ひょっとしたら、ジャックはもともとこういうアーティストなのに、こういう音を出そうとしたときにメグがドドンとバスドラを鳴らすものだから、ギュィーンと呼応しちゃっていたのかもしれません。
だとしたら、見事な姉さん女房だったというところですね。
このアルバムでメグの不在を嘆くより、ジャックがジャックらしく演ってるならそれでいいか、と楽しめばよいと思います。
ただ、個人的には、なんだか生気が足りないと感じてしまいました。
大人しくなったとか、エッジが丸くなったようなことを書きましたが、あくまでジャック・ホワイトとしたら、ということです。
前情報なしでフラットにこの音楽に接したら、キテルなぁと思うことでしょう。
投稿:2020.5.14
編集:2023.11.2
Photo by Nick Kwan – Unsplash