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『A CURIOUS FEELING』TONY BANKS

『ア・キュリアス・フィーリング』 トニー・バンクス 1979年

トニー・バンクスは、モンスター・バンド、ジェネシスのオリジナル・メンバーで、どれだけスタイルが変わっても一貫してジェネシスらしい音を形作ってくた大貢献者です。
派手なパフォーマンスをせず、淡々とした演奏をしているだけなので目立ちはしませんが、実はバンドにとって他には代えがたい最も大切なメンバーだと思います。

このアルバムは、そんなトニー・バンクスの最初のソロです。
時代背景的に、いわゆるプログレッシブ・ロックのアプローチで商業的な成功を得ることが難しくなっていた現状分析から、ジェネシスのメンバーはバンド以外の活動で自分の音楽と向き合う時間を作ったのではないでしょうか。
そして、それは結果的にとても良い結果をもたらしたと言えます。

ジェネシスは1978年に『…And Then There Were Three…』という、過去を振り切ろうとしながらも断ち切れていないような作品を発表しています。
そして1980年『Duke』では、3人ジェネシスが目指すのはコレだと示します。
トニーバンクスの『A CURIOUS FEELING』が発表されたのは、まさにこの間でした。

もう少し脱線を続けると、1980年前後は、ベースのマイク・ラザフォードも『Smallcreep’s Day』という奥深い作品を発表し、”内容が良くても、今はこの方向では売れない”ということを痛感しました。
ドラムのフィル・コリンズは、ブランドXをはじめ様々なセッションに参加して視野が大きく広がり、1981年に発表した『Face Value』の大ヒットで、”今の時代はコレだ”と確信したのではないかと思います。
その後、マイク・ラザフォードも 1985年のソロ・プロジェクトでは、過去を思いっきり振り切ったポップ・ロックでヒットを生み出しました。
また、ジェネシスから離れたギタリストのスティーブ・ハケットは、1978年に『Please Don’t Touch ! 』、1979年に『Spectral Mornings』、1980年に『Defector』というアルバムを出していました。
ちなみに、初期メンバーであるピーター・ガブリエルは、1978年に『Ⅱ』、1980年に『Ⅲ』という名盤を出しています。これは大傑作です。
ジェネシス好きには、けっこう大漁の時期だったのですね。

同じ頃、イエスキング・クリムゾンは、メンバー・チェンジやソロ活動がバンドに良い影響を与えることができずにいたように思えます。
一方でジェネシスの3人は、他のバンドのように「メンバーの仲が悪いのかな?」と疑われるようなことも無く、自分の音楽的探究心と音楽トレンドの変化に向き合い、そこで得たものを成功も失敗も含めて、ちゃんと自らのバンドに持ち帰ったと言えるのではないでしょうか。
なので、ソロは売れなくても良いのです。
ま、今になってみれば、ということですが。

長い言い訳をしているようですが、この『A CURIOUS FEELING』は、おそらく商業的には失敗したのではないかと思います。
しかし、それはこのアルバムからソロでやる意味があまり感じられなかったからだったのでは無いでしょうか。
逆に言えば、ジェネシスを音楽的に特徴づけているのは、やっぱり彼のキーボードなのだと再確認させてくれたとも言えます。
音色は美しく、速いリズムの上にゆっくりとしたメロディをかぶせる感動技も聴かせてくれています。

ただ、トニー・バンクスのファンなのにおかしな話ですが、正直なところ、これをピータ・ガブリエルフィル・コリンズのボーカルで聴きたいと思ってしまったのです。
実際のところアルバム制作にあたっては、マイク・ラザフォードがベース、フィル・コリンズがドラムス、スティーヴ・ハケットがギターで協力したようですから、ほぼジェネシスです。

このソロの結果を受けて、その後のジェネシスのアルバムではキーボードの音色は湿度が抑えらえ、カラっと爽やかでカラフルになってゆきます。
ジメジメした英国から、爽やかなアメリカに移住したかのようです。
ただ、私自身は意外なことに、この変化が嫌ではありませんでした。
イエスキング・クリムゾンの変化を受け入れ難かったにもかかわらず、ジェネシスの変化は受け入れられたのです。
このアルバムは、そんなプログレ好きオヤジにとって、さまざまな考えるきっかけを与えてくれる地味な良盤なのです。

投稿:2020.4.8 
編集:2023.10.26

poto by Pexels – Pixabay

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