『地底探検』 リック・ウェイクマン 1974年
クラシック音楽と親和性のあるプログレッシブ・ロックに限らず、ハード・ロックなどのミュージシャンも、オーケストラとの共演をやりたがるのは何故なのでしょう。
古くはムーディ・ブルースやディープ・パープル、新しいところでもメタリカ(新しくない?)などの例がありますから、取り立てて珍しい試みとは言えないのでしょうが、数多くのキーボードを駆使して様々な音を制御していたキーボードの魔術師にとっても、大編成のオーケストラとの共演は魅力的なことだったようです。
ただ、この「地底探検」はリック・ウェイクマンの曲をオーケストラ・アレンジで展開したものではなく、この編成で作られたオリジナル作品だったのです。
リック・ウェイクマンは、幼少期からピアノを習い、王立音楽アカデミーに進み、学生時代から数々のセッションに参加するような優秀なピアニストでした。
ちゃんとした音楽の素養があった彼が、オーケストラを率いてみたいという希望を持っていたとしても、不思議ではありません。
この「地底探検」は、彼の愛読書だったジュール・ヴェルヌの小説を音楽化したもので、ロンドン交響楽団を従えて好きなようにやっています。
自分のアイデアが実現できて、気持ちよかっただろうなぁと思えます。
後で知ったことですが、このアルバムは売れたらしく、来日公演まで行っていたそうです。
このアルバムを聴いていた中学生の私は、ロックという音楽の自由さを感じて、ただただ崇め奉っていたものです。
あれから約45年。今、改めて聴いてみた「地底探検」は、なかなかに感慨深いものがありました。
楽曲は悪くありません。
曲の冒頭や要所で物語を解説するナレーションが入る演出は、コンセプトを強化していて良いと思えます。
ただ、ナレーションではなく、歌で表現されるところもあり、ここに関してはもう少しヴォーカリストを選べなかったのかなと思わなくはありません。
どうにも歌だけがアマチュアくさいのです。
(ヴォーカルのアシュレイ・ホルトは、他の作品でも起用されているのですが、後の作品でも、なぜ彼を使い続けたのか疑問です。)
そして、意外と短いと感じてしまいました。
昔、これを聴き通すには、けっこうな集中力が必要だったのかもしれませんが、今となっては、気軽に聞き流してしまえます。
ロックのあり方として、こういうものもアリなのだと耳を開かせてくれる作品として優れていると思えます。
バンド用に作られた曲にオーケストラの音を加えたものでも、すでに有名になった曲をオーケストラ編成でアレンジしたものでもなく、最初からオーケストラと自分のキーボードでショーを演るという意図で作られていますので、ちゃんといいところをリック・ウェイクマンが持っていきます。
オーケストラをバックに、彼が思いっきりソロを弾くのを気持ちいいと感じられるなら、このアルバムは最高です。
私は持っていないのですが、1999年には続編「地底探検/完結編」、2014年には「地底探検(再録盤)」が発表されています。
リミックッスではなく、再録音ということで、けっこう違いは感じられます。
子供時代によく聴いた思い入れがあるので初回盤を否定できませんが、今の耳で聴くと、正直なところ新しい作品の方が良いと思ってしまいました。
他の再録ものも出ているようです。
リック・ウェイクマンは、こういうのをいろいろ出し過ぎなので、ファンでも買う気が失せてしまいます。。。
Spotifyには、初回版、再録版に加えて、1999年の完結版「RETURN TO THE CENTRE OF THE EARTH」(1999年)もあがってます。
どちらにしても、45年近く前に作られたものを聴き直して、改めて良いと感じられるほどの作品だったということです。
時間が経っても演奏者が変わっても、音楽の素晴らしさを楽しめる作品です。
投稿:2020.9.13
編集:2023.10.31
Photo by Manuel Nägeli