還暦を迎えるオヤジが「昔好きだったアーティストを今の感覚で聴き直す」というテーマで、これまで好きなプログレ・バンドを取り上げてきましたが、今回はハードロックからキッスです。
何故かというと、最近はじめた筋トレのBGMにしているからです。燃焼系です。
キッスは 1973年から昨年(2023年)まで、半世紀にもわたって活動を続け、試行錯誤を繰り返しながら様々な変遷を経てもオリジナルであり続けた希有なバンドです。
ハードロックを代表するバンドですが、もうキッスというバンドの音楽がひとつのジャンルのようです。
以前から「キッスの様式は歌舞伎などの伝統芸能と同じく『型』として成立し得るので、メンバーが入れ替わっても継承していけばいいのだ」と主張していたのですが、解散後はデジタル・キャラクターがアバターで活動すると言うのですからお見事です。
スタジオ・アルバムは20作品ほどで、これにライブ盤やベスト盤などが加わるとかなりの作品数になります。
今回はスタジオ・アルバムからのセレクトですが、ライブ盤は名作がありますし、ベスト盤もお買い得なので、初めてキッスを聞くという方は、そちらから入るのもアリだと思います。
キッスが他のバンドを凌駕して今のポジションを獲得したのは、彼らが「ロック・ショウ」を最初に確立したバンドだったからでしょう。
「You Wanted The Best, You Got The Best!!」のキャッチ・フレーズは、彼らのライブを体験した人なら心に焼き付けられていることでしょう。
キッスは、常に同じようなことをやっているようでいて、アルバム毎に試行錯誤して時代のトレンドを意識した音楽作りをしていた真面目なバンドでした。
売れるために戦略的であったという面は否めませんが、ロック・ビジネスの大道を行き、外連味が有り有りです。
彼らのアルバムを追うことは、1970年代から2000年代のハードロックのトレンドを巡ることにもなりそうです。
以下は、キッスのファンを公言するオヤジ世代が選ぶ、キッスらしい、好きなキッスのアルバムのランキングです。
キッス聴くなら アルバム・トップ10
1.『地獄の軍団/Destroyer 』(1976年)
キッスの4作目。
カルト的な人気を得ていたとはいえ、どこかキワモノ扱いだったキッスを、メジャーな存在に引き上げた名盤です。
当時の日本で、クィーン、エアロスミスと同等か、それ以上の人気を獲得したのも、このアルバムの成果でしょう。
女子はベイ・シティ・ローラーズ、男子はキッスが洋楽への扉を開かせてくれたと言えるほどの人気でした。
ハードな曲からメロディの美しい曲まで、どれもがキャッチーでポップ。それでいて、ちゃんとロックで分りやすい。
楽曲の魅力を補強する演出音など、アルバムとしての完成度的にも大満足の一枚でした。
2.『地獄からの使者/KISS』(1974年)
最後のライブまで長年演奏され続けた定番曲が目白押しのデビュー・アルバム。
演奏や録音は荒削りなので、今の人が聴くと雑な印象を持ってしまうかもしれませんが、それでも曲の良さが補って余りある魅力盤です。
ギター・ロックは、やっぱりリフの良さが重要だと改めて思います。
個人的に好きな名曲揃いのアルバムです。
3.『地獄への接吻/Dressed To Kill 』(1975年)
激しさよりもポップさが増した印象の3作目。
デビュー時からのスタイルは踏襲しているものの、マーケットでの受けを狙ったのか、メロディアスな曲が増えた感じがします。
永遠のロック・アンセム「Rock and Roll All Night」が入っているので、下位にはできません。
4.『地獄のロックファイヤー/Rock And Roll Over』(1976年)
前作『地獄の軍団/Destroyer 』の勢いに乗って制作された、自信が漲る5作目。
余韻に浸ったり、変な迷いを持たずに、粛々と成功要因を繰り返す愚直さは上手く機能しています。
少し肩の力が抜けた余裕のようなものが感じられる点で食い足りなさを覚える方もいると思いますが、そんなリラックスしたバンドからは、ミディアム・テンポの名バラード「Hard Luck Woman」が生まれます。
全体には薄口ですが、メジャーなバンドとしてのキャパを広げることになった、キーポイントのアルバムです。
5.『サイコサーカス/Psycho Circus』(1998年)
ジャケットのアートワークから期待感が高まり、最初のタイトル曲で「22年前の『地獄の軍団/Destroyer 』が還ってきた!」と舞い上がりました。
年を取って、いつしかキッスを聴かなくなってしまったオールド・リスナーには、ぜひ聴いて欲しい。
この冒頭の高揚感でアルバムの最後まで聴けてしまうのですが、冷静になってみれば名曲揃いというわけでは無く、アルバムとしての統一感もイマイチです。でも、そんなところも彼ららしくて微笑ましい。
もしかすると、今の若い方が最初に聴くなら、このアルバムからが良いかもしれません。
6.『ソニックブーム/Sonic Boom』(2009年)
前作『サイコサーカス』が、これまでのキッスの集大成的だったので、いよいよこれで最後かなと思っていたのですが、約10年の時を経て新作が届けられました。
『ソニックブーム』は、2000年代に入って若返ったのかと思えるようなフレッシュなサウンドで驚かされました。(悪魔は年を取らないなぁ・・・。)
ちょっとデビュー時のキッスらしさを感じるところもあって、オールド・ファンには受けるのではないかと思えます。
7.『地獄の獣神/MONSTER』(2012年)
キッスのアルバムでなくても、普通に良いロック・アルバムでしょう。
キッスの20作目で事実上のラスト・アルバムです。
前作『ソニックブーム』が「原点回帰」だったとしたら、このアルバムは「集大成」と言えるかもしれません。
彼らの良いところがうまく詰め込まれています。
順位が7位なのは、個人的な思い入れが強くないからという理由なので、アルバムの出来として評価すれば、もっと上位でしかるべき作品です。
8.『ラブ・ガン』(1977年)
キッスは「売れる」ということを否定しなかった商業色の強いバンドでした。
戦略的だったのは外見やステージングだけで無く、音楽性に至っても「売れ筋」を狙っていたと感じられる節が数々あります。
でも、だからクオリティが低かったかと言えばそうでは無く、常にキッスらしさというクオリティを保っていたのですから頭が下がります。
70年代末に発売されたこの「ラブガン」からは、早くもシリアスでヘビーなロックからポップでライトな音楽への転向を模索しているのが感じ取れます。
だから嫌い、という方もいるでしょうが、これもまたキッスであり、それぞれの曲の出来は悪くないのです。
9.『地獄の回想/LICK IT UP』(1983年)
メイクを落として、80年代のLAメタルっぽくなったキッスですが、キャリア10年のバンドとは思えないほどの若々しい元気な演奏を披露しています。
ギターのサウンドがこの時代によく耳にした感じなので、キッスっぽいかと言われると微妙ですが、ポールのヴォーカルは冴えています。
このアルバム以降、ノー・メイクのキッスはサウンドも試行錯誤しながら良い作品を残すのですが、それらのどれもが「キッスじゃ無くてもいい」と感じてしまう点で、こういうランキングだと上位に挙げにくいのです。
10.『地獄のさけび/HOTTER THAN HELL』(1974年)
何度もランキングから外したり戻ったりさせながら、結局この位置にしました。
キッスは、なんだかんだ言っても、どのアルバムからもシングル・ヒットを出している人気バンドですが、このデビュー2枚目のアルバムはファースト・アルバムのB面集かと思えるくらい地味な仕上がりでした。
でも、噛めば噛むほど味が出る、良い曲が詰まっているのです。
キッスはロックにキャラクターという要素を持ち込んでステージ・ショウを繰り広げて成功した特別なバンドです。
仮装したりステージの演出に凝るのはプログレッシブ・ロックのバンドやアンダーグラウンドなバンドでは行われていましたが、エンターテインメントとして様式化できたのは、ベースとなっている音楽がロックンロールだったからでしょう。
決して難しいことをせず、シンプルにカッコイイを追求し、なりきり、やりきる。
この潔さには時代を超える原理原則のようなパワーを感じます。
今後はアバターとして活躍を観られるようですが、モノマネのバンドでも観たいと思ってしまうショー・ロックのモンスターでした。
悪魔よ永遠に!
2024.7.10
jonathan-borba-unsplashの写真に感謝します。