『メトロポリス・パート2 シーズン・フロム・ア・メモリー』 ドリーム・シアター 2002年
私がドリーム・シアターを別格扱いするきっかけになったのが、このアルバムです。
「ドリーム・シアターのベストはどれだ」という話しは、人によって意見が分かれることでしょう。
キャリアの長いアーティストでも、その代表作はけっこう絞られるものですが、ドリーム・シアターの場合は、デビューアルバムからから最新作まで全て評価が高く、特に1992年『Images and Words』から2009年『Black Clouds & Silver Linings』までの約20年間は名作揃いで、どれをトップに挙げてもおかしくないほどです。
そして、その中で私がベストに推すのが、この『Metropolis,Pt2/メトロポリス・パート2』です。
全体を通してひとつのストーリーが展開されるコンセプト・アルバムで、2幕、9場、12曲、約1時間20分のボリュームです。
哲学的なコンセプトを音楽で表現するというよりも、しっかりした物語に沿って楽曲が進行します。
ある前世の記憶に悩む男と催眠療法士のストーリーで、いわゆるロック・オペラというやつです。
こうしたアイデアでアルバムを作るというのは他に例が無いわけではありませんが、『メトロポリス・パート2』は音楽だけ、ストーリーだけをそれぞれ切り出しても秀逸な出来なのです。
ドリーム・シアターというバンドは、その楽曲構成力の高さは言うまでもなく、テクニックも秀でたものですが、このアルバムではコンセプトを重視した抑制の効いた演奏をしているように感じられます。
全体を重視したために個々の楽曲の魅力や演奏の迫力に欠けるとの指摘は受けるとして、それでも”超”が付くほど最上級の曲と演奏です。
ヘビーでありながら高速に走り回るエレキ・ギター、ブレなく安定感のあるリズム隊、リリカルなキーボード、パワーのあるボーカル。
個々の演奏力の高さに加えてバンドとしての統率が取れています。
ひところのイエスに、彼らの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいほどです。
あえてバンドとしての難を言えば、全員が優等生的に上手すぎて、この音はこの人だというような突出した個性が弱い点でしょうか。
ただ、そんな弱点もこうしたコンセプト・アルバムでは、強みとして活きていると思います。
書きながら聴き直してきたこのアルバムもいよいよ終盤、『Scene8:The Spirit Carries On』です。
歌も演奏も素晴らしく、ギター・ソロはロック史に残る名演でしょう。
涙なしには聴けません。
先に「楽曲の魅力に欠ける」と書きましたが、間違いでした。
この曲だけでも、アルバムを買う価値があります。
私の葬式で流して欲しいと思うほどの名曲です。
最後の曲になりました。
物語は幕を閉じますが、最後に意外な謎解きが示され、さらなる深みに感服させられるという仕掛が待っています。
このアルバムは、ロックという音楽が表現しうる、ひとつの完璧な姿をしていると言えるほどです。
決して、ベスト盤などで編集できない、アルバムとしての芸術品です。
聴き通すのは大変なので、誰にでもお勧めできるというものではありませんが、個人的には大切な一枚であることを再認識しました。
このアルバムを完全再現した2000年のライブがDVDになっています。
ライブでは、女性のバック・ボーカルが強調されて大仰に感じられるところもありますが、ライブの演出としては理解できます。
DVDは、このアルバムで展開されるストーリーを理解するのに役立つので、気に入った方はぜひこちらも観ていただけたらと思います。
投稿:2020.3.29
修正:2023.10.28
Photo by Andrey Zvyagintsev – Unsplash