『モンスター』 R.E.M. 1994年
前作とはうって変わってエレキギターをフューチャーした9枚目です。
エレキギターが大活躍するロック寄りのアルバムと言っても、ハードロックのようなギターリフと様式美で聴かせるタイプではなく、やはり歌を聞かせるタイプではあります。
前作「オートマチック・フォー・ザ・ピープル」は、非常に内省的なアルバムでした。
ニルヴァーナのカートコバーンがこの世を去る前に最後に聴いていた、という逸話がありますが、実際、そんな時に鳴っていて欲しいと思えるような作品でした。
サウンドは、アルバムを通して静かでアコースティックでした。
非常に良いアルバムではありましたが、ロックの激しさを求めるファンにとっては、どこか不完全燃焼の思いがあったかもしれません。
ですから、この「モンスター」が強力なエレキサウンドだったのは、驚きと喜びをもって受け入れられたのではないかと思います。
1990年代のアメリカは、非常に乱暴な言い方をすると、3つのロックがありました。(異論があるのは、ごもっともなので、最初に謝っておきます。)
ニルヴァーナを筆頭とする、グランジ一派、ガンズ・アンド・ローゼスをヘッドとするヘビメタ族、そしてR.E.M.たちのカレッジ・ロック団です。
グランジ一派は、ソニック・ユースからバトンを託されたニルヴァーナが急成長しますが、1994年にバンドの要であるカート・コバーンの自殺でムーブメント自体が終息へ向かいます。
ヘビメタ族は、いつの時代にも一定のパワーを維持しているのですが、肝心のガンズはデビュー作以上の作品を作れず、1993年のスパゲッティのアルバム以降は、オリジナル・アルバム作りに意欲を示さなくなってしまいます。
R.E.M.の「モンスター」は、そんな時期に届けられたロック・アルバムでしたので、カレッジ・ロック団以外のロック・ファンも注目する作品となりました。
1曲目の「ファッツ・ザ・フリークエンシ―、ケネス?」で、冒頭、ギターがジャンと鳴る瞬間から、R.E.M.のファンは「お!」と思い、口元がゆるんで、にやけ顔になったことでしょう。
ギターが弾ける人なら、手に取ってコピーしたかもしれません。
この曲はシングル・ヒットしたので、にわかファンの獲得にも貢献したのではないかと思います。
その後もエレキギターは各楽曲の重要な音であり続けるのですが、その極みとなるのが、10曲目の「レット・ミー・イン」です。
この曲は、ノイジーなギターとボーカルだけ(曲の後半からはキーボードが入りますが)でできていて、自殺したカート・コバーンに敬意を表して作られた曲と言われています。
今回、改めてこのアルバムを聴き直して、私にはこの「モンスター」というアルバム自体が、カート・コバーンを失ったグランジや、硬直化した様式美から抜け出せないヘビーメタルに対する、R.E.M.のロック宣言のように感じられました。
失われた仲間への追悼と、これからのロック・シーンを担ってゆく決意、それが全曲エレキギターをフューチャーしたアルバムに現れているのではないかと。(なんか、大袈裟ですが。)
そんな思いがそうさせたかのように、バンドはアルバム発表後に大規模なツアーに出ます。しかし、長期に渡った世界ツアーで、ドラムスのビル・ベリーが倒れてしまいます。
ロックを背負って立つ決意を現したR.E.M.自身が、まさかの事態に見舞われてしまうとは、アルバム発表時には想像もしていなかったことでしょう。
人生とは、皮肉なものです。
その後のことは、後のアルバムに合わせて書くとして、「モンスター」は、この時代のロック・ミュージックの流れの中で、R.E.M.が男気を示した骨太のロック・アルバムであり、多くのリスナーに聴かれた人気アルバムです。
ついでに、ここで書いたバンドのこの時期の作品も紹介しておきます。
投稿:2020.5.29
編集:2023.10.30
Photo by Keyur Nandaniya – unsplash