2023年のGWに観たアマゾン・プライム・ビデオ
このGWは自室に籠って過ごします。
プライムビデオの「ウォッチリスト」に溜めたまま、観られないでいたものを観るのです。
もうすでに最新作や話題作では無くなってしまったものもありますが、観て良かったものについてコメントしておこうと思います。
鑑賞を検討されている方に、少しでも参考になればと思います。
『映画大好きポンポさん』2021年放映された劇場アニメ
公開時には映画館に足を運んで観ました。
小冊子をいただいたのですが、冊子は前・後編の前編だけだったので、これはファンに”後編が読みたければ複数回観ろ”ということなのかなと少し嫌な気持ちになりました。
でも、映画自体は最高でした。理由は単純にアニメ作品として面白かったからです。
原作は「Pixiv」に投稿されたマンガ作品ということですが、その原作は未読です。スイマセン。
映画は当初2020年に公開予定だったものが、コロナ禍の影響を受けて2021年公開になったとか。
公開後は好意的なコメントを見かけることもありましたが、いわゆるメジャーな作品では無かったと思います。
私が観たのは、初回公開時の評判が良かったということで、夏に再上映されていた時でした。
同じ日の午後に別の映画館で『竜とそばかすの姫』を観てがっかりしたので、余計に『映画大好きポンポさん』に良い印象を持ったのかもしれません。
どちらの映画も架空の世界の物語です。
『竜とそばかすの姫』はデジタルな仮想空間と現実世界を行き来する話しなのですが、素晴らしい歌と映像で圧倒される仮想空間に対して、現実世界の描かれ方にはリアリティが無くて、興ざめしてしまいました。
一方で『映画大好きポンポさん』は、そもそもが架空の町「ニャリウッド」でのファンタジーなので、フィクションに浸ることができました。
どちらも現実に忠実である必要はないのですが、そこで描かれる”作られたリアリティ(ホントっぽさ)”の成否が、映画を楽しめたかどうかに影響したのです。
今回、その時の良いイメージを持って『映画大好きポンポさん』改めて見直してみました。
以下、ネタバレを含みます。
設定
舞台はハリウッドのパロディで「ニャリウッド」という架空の町。
天才的なプロデューサーであった祖父から映画会社を引き継いだポンポネット(通称ポンポさん)は、映画制作者の狂気じみた思いを理解しつつ、映画制作の現実的なビジネス感覚も持つ、敏腕プロデューサーであり原作者であり、経営者です。
登場人物の中で最も重要な存在ですが、彼女だけはキャラクターとしての設定が曖昧で、等身やビジュアルが誇張されたアニメ絵になっています。
本来なら何人もの配役が必要な役割を彼女一人に担わせるには、現実感を曖昧に(漫画チックに)した方が受け入れやすいという配慮でしょう。
ポンポさんは映画作りの神の象徴的な存在で実際には存在しない、と論じても通じるような立ち位置です。
そして、これは上手く機能していると思えました。
この街で映画製作アシスタントをしている主人公のジーン・フィニは、ポンポさんに可能性を見出されて、ある作品を監督をするチャンスをもらいます。
そこに失敗と挫折というドラマは無く、小競り合いや葛藤や人並外れた努力はあるものの、彼の鬱屈した思いと経験は都合よく転がって見事な成果を出します。
女優を夢見ていた少女もまた、ポンポさんに導かれて主演に抜擢されます。
二人とも好きなことに向かって純粋に頑張っている姿は好感が持てますが、他の下積み製作者や俳優候補者たちとの違いはよく分かりません。
ポンポさんが才能を見極める目とチャンスを提供できる権力を持っていた、ということでしょう。
成功を得るには運も大切ですし、主人公の成長物語ではないので、この設定が全体をダメにしているということではありません。
「こんなの実際の映画作りではありえない」という観点で違和感を覚えてしまった方は、残念ながらこのニャリウッドにシンクロできなかったということですから仕方ありません。
そもそも”映画作りを学ぶ”ドラマを期待してはいなかったので、私は大丈夫でした。
クリエイトするという病
ものを作り出す人というのは、常識的な社会生活を送っている人とはズレた価値観を持っている、もしくはそうでなければ生きられなかった人なのでしょう。
この映画の主人公であるジーン・フィニは、偏執的に映画が好きだということでポンポさんに気に入られます。
それは生半可な”好き”ではなく、他の何もかもを失っても手放せない命綱のようなものです。
余談ですが、昔、海洋堂の造形作家さんに「フィギュアの制作に疲れた時は何をしていますか?」と聞いた時、「別のものを作ります」と答えられたのを思い出しました。
映画の中でジーン・フィニは、先人に学び、自ら考え、チャンスを得て実践します。
その中でさらに新たな葛藤を乗り越えて、作品作りに没頭します。
制作には多くの仲間の協力が必要であること、ビジネスとして成立することの大切さも学びますが、フォーカスされているのは彼自身がどこまで作品を追い込めるかの純度でした。
彼が自らフィルムをカットして編集するという設定は、クリエイターの狂気を描くうえで必要だったのです。
これは映画作りという設定を借りて語られる、ものを作らないといられないバランスの悪い人と、そんな生きるのが苦手な人に助けられる人々と、それを支え見守る人々の織りなすファンタジーです。
残念なことも少しは起こりますが、悪人は登場しません。
”大切なものを残すためには他の多くのものを手放さないといけない”という主張は現代的ではないかもしれませんが、それは原作者のひとつの思いでしょうから、同意するかどうかはさておいても価値のあるものですし、この映画の中ではちゃんと説得力がありました。
予定調和的なストーリー進行はむしろ好ましく思え、観終わった後の気持ちはサッパリと清々しいものでした。
作り手の熱意と愛情を感じる良作
この『映画大好きポンポさん』は、巨額の制作費と制作協力に名を連ねる大企業が無くても、良い作品が作れた好例だったと思います。
原作者の熱い思いと、それに賛同した人たちの力で作り上げられたピュアな作品という感じがして、まるでこの映画ようでもありました。
テーマは限定的でしたし、大型プロモーションが無かったこともあって、公開時には興味を持てなかった人も、配信でなら観やすいと思います。
大人も子供も、ものを作るのが好きな人もそうでない人も、皆が様々な角度から楽しめる作品だと思います。
上映時間は、90分です。
2023.5.2
Photo by denise jans on unsplash