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『REVEAL』 R.E.M.

『リヴィール』 R.E.M. 2001年

R.E.M.は、常に自分たちの創造性を優先して、変化を恐れずに音楽と向き合ってきたバンドです。
ところが、この12枚目のアルバムはどうしたことでしょう。
発売当時、前作「UP」より聴きやすくなった、とは思ったものの、それでも、時代は21世紀に入り、R.E.M.の影響を受けた後輩バンドが意欲的な音楽を作っているというのに、地味で新鮮味が足りないというのが本音でした。
今改めて聴いてみても、(「UP」は評価が改まりましたが)これはあまり印象が変わりませんでした。

常に変化を恐れずに予想を裏切るレベルで創造性を発揮する、ということが彼らの魅力のひとつなのだとしたら、今回は、あまり変わらないことで予想を裏切られた、というのは逆説的でしょうか。

良い曲はあります。これはもう、職人芸の域です。
ビーチボーイズサイモンとガーファンクルのように、歌心が最優先されているようで、いわゆるロック・バンドというカテゴライズや演奏形態は意味が無くなったようです。
アコースティックと電子音の組み合わせは継続されていて、今作では特にアコースティック・ギターの音が印象的です。
前々作ではエレクトロへの接近にゾクっとするものを感じたのですが、アコースティックへの傾倒は違和感が無さすぎて新しい挑戦と感じるものではありませんでした。

シングル・カットされた「Imitation Of Life」は、テーマも音楽も類型的でした。
誰からも否定されないでしょうが、誰かの特別な一曲にもならないというのは厳しすぎるでしょうか。
ドライブ感のある曲調で「おいおい、誰もキミがそんなに頑張ってたとか、泣いてたなんて知らないさ」と歌う優しさは彼ららしいと感じます。
成功や笑顔の陰で、人知れず努力したり泣いたいりている人の心に刺さります。
「誰もキミの影の努力なんて見てない」ということを彼らは「見ている」のです。
細かいですが、サビで繰り返される「C’mon no one can see you cry」の歌詞が、一度だけ「no one can see me cry」と歌われるところにキュンとなります。
ただ、普通に良い曲というレベルでは、R.E.M.は褒められない・・・。
皆、それぞれに人生を生きていて、それぞれにいろいろあって忙しいのです。
まさに歌詞の通りかもしれません。

このアルバムは、全体を通して「夏のはじまり」と「盛夏」と「夏の終わり」を表しているようです。
曲のタイトルや歌詞の中でも、具体的に「夏」という言葉が出てきます。

8曲目に配置された「Imitation Of Life」から9曲目の「Summer Turns To High」以降へ続く流れは、ひとつの物語のように連なって感じられます。

今、ラストから2曲目「I’ll Take The Rain」から最後の「Beachball」に曲が変わりました。
このアルバムのハイライトは、この「I’ll Take The Rain」でしょう。
雨を浴びながら、ひとつの季節の終わりを感傷的に噛み締めます。

そして続く「Beachball」は、過ぎた季節を冷静に見つめる姿が浮かびます。
1980年代のチェリーレッド・レコード(大好きなイギリスのインディーズ・レーベル)を思い出すような曲で、個人的には「Summer Turns To High」と並んでお気に入りです。

これを書きながらアルバムを聴いているのですが、すでに4周目になりました。
そして、困ったことが起こっています。
冒頭で「地味で新鮮味が無い」と、評価の低いコメントを書いてしまいました。
しかし今、前言を撤回したい気持ちになっている自分がいるのです。
確かに音楽的な挑戦は見られず、前作の延長線上にあるように思えるのは事実なのですが、やはり胸を締め付ける切なさは特別で、聴き込むほどに深く沁みていきます。
前のアルバムのコラムで「心を痛めた人の発する声は、耳をそばだてて無いと聞き洩らす」というようなことを書いたのに、またも私は聴き洩らすところでした。

CDのジャケットは、撮影者のシルエットの写り込んだ何気ない景色です。
遠方がぼやけているのは、夏の草いきれのせいでしょうか。
それとも、過去の記憶が霞むようにシルエットは曖昧になり、逆に思い出の陰影は濃くなっているということなのでしょうか。色もどことなく黄色く褪せています。
タイトルの「REVEAL」は、物事をクリアに明らかにするというよりも、これまで秘めていたものを解放してやる、くらいの意味で受け取れました。
これらは、アルバム発表から20年も経った今になって改めて捉え直しているものです。

季節は夏を迎えていますが、自分はもう若くはありません。
いつしか、太陽の眩しさそのものではなく、強い日差しのせいで濃く落ちた影に夏を感じるようになってしまいました。
人生の盛夏を過ぎたオヤジの心に、やっぱりR.E.M.は沁みるのでした。
(さっきから、後半ばっか聴いてる・・・。)

投稿:2020.8.11
編集:2023.11.3
 

Photo by Ales Krivec

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