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『The Snow Goose』CAMEL

『白雁(スノー・グース)』 キャメル 1975年

5大プログレ・バンドに次ぐ、などと評されがちなバンドの中にキャメルは位置しています。
5大プログレ・バンドと言えば、キング・クリムゾンイエスピンク・フロイドELPジェネシスが一般的だと思います。
そして、その後に挙がるのがキャメルムーディー・ブルースなどでしょうか。
この後というのは、ジャズ・ロック系やカンタベリー系、クラシック系、ニューウェイブ系、アンビエント系と、様々なジャンルに素晴らしいバンドが存在していて、リスナーの好みによっても推しが異なるので、序列をつけることはできないのですが、そんな中でも比較的に上位にキャメルが挙がるのは、ひとえにこの『Snow Goose』があるからでしょう。

キャメルのベスト・アルバムはどれかという話しになると、別のアルバムを推すファンも多いと思います。
なぜならこの『Snow Goose』は、当時のロックシーンの中において、またバンドの歴史においても少々変わったアルバムだからです。

『Snow Goose』は、そのタイトルにもあるように、ポール・ギャリコの小説からインスパイアされて作られたキャメルのサード・アルバムで、楽曲は小説のストーリーに沿う形で展開されます。

怪我をした白雁を助けた少女と心の優しい男。
男は傷の癒えた白雁が飛び立つと、ダンケルクの戦場に兵士を助けるために船で出かけて帰らぬ人となる。
男を見守っていた白雁は、彼の死を少女に伝えるように舞い戻ると、再び飛び去って行く。
と、簡単に触れたのは、歌詞を追うことができないからです。
約40分、ボーカル無し、オール・インストゥルメンタルです。
(改めて曲名を眺めていて、ダンケルクという曲名に、少し前に観た映画を思い出しました。)

キャメルはインスト・バンドでは無く、前2作ではちゃんとボーカルの入った曲を演っていましたし、その後のアルバムでも良い歌を聴かせてくれています。(確かに他のアルバムでもインスト曲はありますが、当時、歌無しで演奏時間が長いバンドは多くいました。)
小説の言葉を使うと権利関係が面倒だったから、という現実的な問題があったのか、あくまで芸術性の問題なのかは分かりませんが、この試みは成功したと思えます。
その昔、このCDを買って全てを聴き終えた時、私は歌が無いことに気が付きもしませんでした。
今改めて聴いても、何も足りないものは無いと思えます。

このアルバムが発売された1975年は、先の5大バンドがひとつのピークを迎えてしまい、プログレッシブ・ロックが終わった、もしくは形が変わることを余儀なくされていた時期でした。
キング・クリムゾンは『Red』から『Discipline』、ピンク・フロイドは『The Dark Side Of The Moon』『Wish You Were Here』の過程にあり、イエスも『Relayer』『Going for the One』へ至る途中にありました。ジェネシスは、『The Lamb Lies Down On Broadway』発表後で、ピーター・ガブリエル脱退の対策を練らねばならず、ELPは『Ladies And Gentlemen』という総括的なライブを出した後、活動停止していました。
そんな時に届けられた、物語性に満ち、抒情的で感動的なこのアルバムは、多くのプログレ・ファンの心を打ったことでしょう。(私自身は、同時代に聴いたのではありませんでしたが。)

『Red』『The Dark Side Of The Moon』『The Lamb Lies Down On Broadway』『Brain Salad Surgery』という、神経症的な世界(いずれもロックの頂点を極めた名盤!)にあって、このアルバムは癒しをもたらしてくれました。
そして、プログレッシブ・ロックは、静かに息をひきとったのです・・・。
(余談ですが、1975年前後は、大きな変革期で、ロック史に残る名盤が、これでもかと発表された、たまらない時代ですね。)

メンバーのロックな風貌からは想像しにくいほど、清らかで優しさに満ちた美しいアルバムです。
キャメルというバンドは、楽曲の良さは間違いが無いのですが、他のプログレ系のバンドと比較して個性に乏しく、演奏技術が特別に高いと思えない、というところがあったと思います。
ただ、確かに難しいことをしているわけでは無いのかもしれませんが、ここで鳴っている音はどれも素晴らしく魅力的です。
もともとの魅力である管楽器は、このアルバムでも十分以上にその持ち味が発揮されています。
さらにオルガンやピアノなどの鍵盤楽器、ギターの調べにも心がふるえます。
アルバムとしての完成度は完璧でしょう。

5大バンドが大きすぎることと、ヒット曲が無いせいで地味なバンドになってしまっていますが、音は垢抜けていて、今聴いても古さを感じることは無いと思います。
他のアルバムも含めて、多くの人に聴いてほしいバンドです。

投稿:2020.4.15 
編集:2023.10.26

Photo by Paul Trienekens on Unsplash

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