『ザ・ギース・アンド・ザ・ゴースト』 アンソニー・フィリップス 1977年
アンソニー・フィリップスは、昨年(2022年)最後のツアーを終えたモンスター・バンド、ジェネシスの創設メンバーでした。
彼はバンドのデビューからわずか2作でバンドを離れてしまうのですが、初期のバンドが持っていた英国の田園的な寓話の世界観作りに貢献したギタリストでした。
このアルバムは、彼がソロになって最初の作品です。
ジェネシスを離れてから、なんと7年も経っていました。
ジェネシスはアンソニー・フィリップス脱退後に、スティーブ・ハケット(G)、フィル・コリンズ(Dr)が加わり、パワー・アップします。
さらにピータ・ガブリエルの創造性が発揮された作品は高い評価を得て、人気プログレ・バンドに成長します。
しかし、確実に実績を積みつつ成長していたにもかかわらず、急にバンドの要であったピーター・ガブリエルが脱退するという危機に直面します。
アンソニー・フィリップスのファースト・ソロがリリースされたのは、そんなタイミングでしたので、古くからのファンは非常に期待しました。
そしてこのアルバムは見事に期待に応えてくれる内容でした。
アルバムに収録されている曲はジェネシス在籍時から構想があったようで、脱退後にコツコツと自分でアレンジなどを繰り返していたようです。
ライブでメンバーと一緒に曲を完成させてゆくギタリストというよりも、曲全体を自分のイメージで作り上げてゆくスタジオ・ワークが好きな人だったのかもしれません。
アルバム制作には、ジェネシスのマイク・ラザフォードやフィル・コリンズも協力していて、随所にジェネシスっぽさを感じることもできます。
ピーター・ガブリエルの毒気が無いので、心穏やかに安心して聴いていられます。
ジャケットのアート・ワークに表されているイメージの通りに展開されるアコースティックな響きと優しく穏やかな世界観は、いわゆる大仰で哲学的なプログレとは違っていて、伝統的な民族音楽やフォーク・ミュージックのようでもあります。
パンク・ムーブメントの中にあって、このアルバムは商業的には成功しなかったことでしょう。
でも、ファンは分かっています。
アンソニー・フィリップスに作って欲しかったのは、まさにこういうアルバムだったのです。
決してヒット曲があるとか有名曲が入っているわけではありませんが、大満足の一枚なのです。
投稿:2023.4.14
編集:2023.10.27
photo by cory – unsplash