『ヴルーム』 キング・クリムゾン 1994年
キング・クリムゾンが、プログレッシブ・ロックを代表するバンドであることに異論を挟む人はいないでしょう。
1960年代末から70年代に生み出されたアルバムは、どれもが奇跡のように素晴らしく衝撃的でした。
1970年代中頃『RED』という破壊的なアルバムでバンドを一旦解散させた後、1980年代前半にニューウェイブ系の音で復活したものの、また地に潜り、三度目に姿を現したのが1990年代中頃のこのミニ・アルバムでした。
『VROOOM』は、翌年に発売される『THRAK』というフル・アルバムのリハーサルを録音したような内容で、新たな編成のバンドで起こった化学反応の衝撃性をそのまま閉じ込めた内容になっています。
このメンバーでキング・クリムゾンを名乗って良いものかどうか、実験的に演奏したところ、想像以上の感触を得てしまったので世に問うてみたくなったのか、『THRAK』へ至るティザー的なマーケティング戦略だったのか分かりませんが、ここで鳴り響いた音は、70年代のキング・クリムゾンのファンも思わず唸るヘビーなものでした。
80年代のキング・クリムゾンは、今改めて聴くとそんなに悪くないと思えるのですが、それでもこれはキング・クリムゾンを名乗るべきでは無かったと思ってしまいます。
音数は多くても、軽くて密度がありません。真剣にやっていてもシリアスさが無く、胸に響いてきませんでした。何より、エイドリアン・ブリューの声が個人的にはダメでした。
90年代、新たに蘇ったキング・クリムゾンの編成は、変則的なものでした。
バンドは、2ギター、2ベース、2ドラムという今まで聞いたことのない構成だったのです。
トニー・レビンとトレイ・ガンの演奏するチャップマンスティックという楽器は、これまでのベースの概念を変えて、リード楽器であるかのように振る舞い、重さと速さを両立させています。
ビル・ブルーフォードとパット・マステロットのドラムも、しっかり自己主張してきます。
エイドリアン・ブリューは、このアルバムでもギターで変態的な音をかき鳴らし、作詞をし、ボーカルを取っています。(個人的に、歌だけは別の人にお願いしたかったですが、、、。)
ロバート・フリップのギターには、多少湿気が戻ったようにも感じられます。
『VROOOM』に収録されている全6曲は、4曲が録音を変えて『THRAK』に再収録されます。このアルバムでしか聴けないのは、2曲だけなのです。
とは言っても、ここでは、凄い技術を持ったアーティスト達が「せーの」で出した、緊張感のある初期衝動的な演奏を聴くことができます。
重厚で硬質なメタル・クリムゾンの再来を心して聴くべし、ということころです。
残念ながら、Spotifyでは聴くことができないようです。
『THRAK』を聴いて興味を持った方は、ぜひ『VROOOM』もCDで聴いてみてください。
『THRAK』未収録の2曲は、あくまでリハーサルとは言え、挑戦的でアバンギャルドな演奏でした。
上のリンクは、今回書いた『VROOOM』ではなく、ずいぶん後になって出された『VROOOM VROOOM』というライブ・アルバムです。どういう意味があってリリースされたのか理解しにくいのですが、録音された時期は『VROOOM』と近くて内容は良いので参考まで。
投稿:2020.4.18
編集:2023.10.22
Photo by Aurélien Lemasson-Théoba