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『AROUND THE SUN』 R.E.M.

音楽

『アラウンド・ザ・サン』 R.E.M. 2004年

前作「REVEAL」を発表した年(2001年)の秋に、アメリカ同時多発テロが発生。
イラク戦争に突入する世界で彼らは怒りの感情を持ちます。

もとから、過去のヒット曲を繰り返し演奏したり、年相応の歌心を切ないメロディに乗せて歌うことで活動を続けてゆくということができるバンドではありません。

こうしたあまりに強大な悲劇が起こる時、無力感に苛まれるアーティストは多いと思います。
彼らもおそらく、自分たちができることは何かと葛藤したことでしょう。
そして、そこで感じたことをそのまま形にしたのがこのアルバムなのだと私は受け取りました。

歌詞には政治的なメッセージが織り込まれ、表現は直接的だったり具体的なワードが使われています。
音楽的にはエレクトロの要素が失われて、ベーシックなバンド・サウンドになっています。
楽曲にはラップを取り入れた曲(3曲目「The Outsiders」)があって驚かされますが、こうした試みも、歌詞をストレートに表現したいというあらわれだったのでしょう。
当時のアメリカの政策に対する反意がベースにありながら、初期の作品のような衝動性はおさえられ、テンポは遅く、ノイズは少なめです。
ヴォーカルも感情に任せてシャウトしたりはしません。
こういった面は、彼らが十分すぎるほど大人になったということもあるでしょうし、「キング牧師の言葉を広めたい」という歌詞の言葉を実践しているとも取れます。

ただ、ちょっと距離を置いて捉えれば、作品としてのクオリティはこれまでのものとは少々違っているように感じられます。
英語が分からないままで曲だけを聴いても、特に思い入れを持つことは難しそうです。

大仰さの無いシンプルなサウンドに乗せられる重い言葉。
制作の背景を知り、細部まで歌詞カードと向き合いながら聴くことで、より理解が深まるアルバムです。

近年の日本政治のデタラメさには、腹が立ち、飽きれ、絶望的な気分になります。
歴史を振り返ったときに、私の世代や、そのまた上の世代は何をやらかしてしまったことでしょう。
時代も場所も違うところで作られたアルバムを聴きながら、そんなことを考えてしまいました。

現状を嘆き、怒りをコントロールしながら歌われたアルバムでしたが、最後の曲、アルバムのタイトルでもある「AROUND THE SUN」では、「Hold on World, ‘couse you don’t know what’s coming」と歌われます。
そして「Hold on World, ‘couse I’m not jumping off」と。
私も希望を持って「まだ、これから」と心に刻もうと思います。

投稿:2020.8.14
編集:2023.11.3
 

Photo by GoaShape 

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