PR

キング・クリムゾン聴くなら、このアルバム10選

音楽

今となってはもう漫画『ジョジョ』に出てきたスタンドの方が検索上位にあがる名前かもしれません。(ちなみに額の『エピタフ』は、キング・クリムゾンの有名な曲名ですね。)
しかし、スタンドの能力で時間が飛んでしまっても、キング・クリムゾンはロック史において絶対に無視することができない最重要バンドですし、音楽好きを自称する方なら必ず聴いておくべき音楽です。

そこで、そんなキング・クリムゾンを現代の方は何から聴くべきかという観点で再評価してみました。
半世紀以上前にデビューしたバンドですが、個人的な好みや自分への影響度だけではなく、今の耳で聴くならコレというセレクトです。

1.『ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ』 – The Power to Believe(2003年)

バンドとしては最後のスタジオ・アルバムです。
昔からのファンの方は意外に感じるかもしれませんが、今回の選出コンセプトから1位にしました。
この音楽を60歳手前のオジサン達が作って演奏しているわけです。
狂暴すぎです。

2003年にリリースされたアルバムですが、COVID-19を予言するかのようなジャケットと、「信じる力」という前向きなタイトルの違和感も強烈です。
「混乱こそ我が墓碑銘」と歌ってデビューしたバンドが35年近い活動期間を経て未来への希望を歌う、と捉えることは私にはできませんでした。
私の中では、しりあがり寿の名作漫画『方舟』にある「この期におよんでまだ希望だと」のセリフがぐるぐるしています。

生命をつなぐDNAの使命としては、人類が今の姿や今の価値観で生き続けなくても、とにかく生き残りさえすればいいのです。ここで暗示される”信じた先にある未来”に、どうしても今の人類の姿は見えてこない、というのは悲観的過ぎるでしょうか。

*少し別のコラムで書いています。

このアルバムを推した理由は、大きく2つ。

1.音が良くて現代的。古さを感じない。
当然、50年前とは音質も演奏もアレンジもスピード感も違っています。客観的にとらえれば、現代の耳には、こういう音の方が入りやすいと思えるのです。

2.世界観がキング・クリムゾンらしい。
キング・クリムゾンは長い活動期間中、頻繁なメンバーチェンジを重ねることで、音楽性を変化させてきました。
ロバート・フィリップの独裁的なバンドであることは間違いないのですが、それでも彼とバックバンドという関係ではなく、バンドとしての化学反応によって奇跡を起こしてきたわけです。
70年代、80年代、90年代と、即興的な創造性、重厚で暴力的なサウンド、抒情的なメロディ、ポリリズムとビートなどなど、ファンによってキング・クリムゾンの好きな要素はいろいろだと思いますが、それらが溶けて新しい音楽を構築しているのが、2000年代のキング・クリムゾンであり、その集大成がこのアルバムなのです。

「バンド名と赤い顔のジャケットは有名だけど知ってる曲は無い」という若い方はもちろん、80年代に聴くのを止めてしまった方にも聴いてもらいたいアルバムです。
うーん、それでも20年も前なのかぁ・・・。

2.『レッド』 – Red(1974年)

第一期(いろいろな意見があると思いますが)の終わりを告げた傑作アルバムです。
ロック史に残る名盤であり、ロックという表現が到達したひとつの頂点と言える作品です。
というわけで、文句なく上位です。

ロバート・フィリップ(G)、ビル・ブルーフォード(Dr)、ジョン・ウェットン(B)という天才の脂の乗った時期の奇跡的な音楽を聴くことができます。
キングクリムゾンを象徴する暴力的な激しさとメロディアスな抒情性、予測不能な緊張をもたらす即興性などが全てレッド・ゾーンを超えて表現されています。

3.『クリムゾン・キングの宮殿』 – In the Court of the Crimson King(1969年)

キング・クリムゾンのデビュー作であり、プログレッシブロックを代表する作品であり、こちらもロック史に残る名盤です。
50年以上前に作られた音楽ですが、おそらく次の50年も聴き継がれる普遍的な芸術作品でしょう。
自分の人生でこの音楽に出会えて良かったと思います。

初期のキング・クリムゾンは、必ずしもヘビーなギターを主体とはしておらず、他のメンバーの音楽的嗜好が色濃く出ている詩的なバンドでした。
美しくメランコリックなメロディや音色、幻想的な世界観などの面で好きになったファンも多いのではないかと思います。私もそのひとりです。
デビュー・アルバムにして、すでに他を寄せ付けない孤高の位置にいます。

4.『太陽と戦慄』 – Larks’ Tongues in Aspic(1973年)

タイトル曲のギター・サウンドで、その後のバンドの音楽性を方向付けたアルバムです。
狂暴な牙を隠し切れなくなったバンドですが、胸を打つ美しい旋律を持つ曲もあります。
こんなバンドが現代に現れたら絶対に話題になるでしょう。

このアルバムからメンバーとなったビル・ブルーフォード(Dr)の貢献が大きく、これ以降、演奏力という魅力がバンドに加わりました。
タイトル曲は、この後、何度もバージョン違いが作られることになる名曲です。

5.『アイランズ』 – Islands(1971年)

キング・クリムゾンは、デビュー当時は暴力的な音楽と同時に情緒的なメロディと詩的世界を持つバンドでした。
その後、バンドは感傷的な情緒を徐々に失って硬く激しく研ぎ澄まされて行くのですが、このアルバムはそうなる前に作られた静の面にフォーカスした作品でした。
そのため一般的な評価はあまり高く無いようですが、本当に美しく心に沁みる音楽です。

6.『ビート』 – Beat(1982年)

古いファンの方からは驚かれるセレクトと順位かもしれません。
第二期のキング・クリムゾンは、暴力的な狂気や抒情性からダンス・ビートとポリリズムに音楽的な関心を移してしまい、プログレッシブ・ロックを愛するファンの失望を買いました。
これは悪名高い80年代キング・クリムゾン3作の2作目。
個人的には、エイドリアン・ブリューの演奏や歌が苦手なので、彼が目立つ作品は全部ダメなのですが、これは今の感性で聴けばアリなのではないかと思えたのです。

前作『ディシプリン』を再評価する声もあるようですが、それよりも『ビート』です。
正直なところ、この順位に80年代のどれかを入れるべきだと思ったというところなので、『ディシプリン』でも『スリー・オブ・パーフェクト・ペア』でも良かったのですが、身体性という点で『ビート』が一番吹っ切れている気がするのです。次が過渡期的な雑然とした魅力がある『スリー・オブ・パーフェクト・ペア』でしょうか。おススメしにくいのですが、これはこれで狂ってます。

私の今後の人生で聴き直すことはあまり無いと思いますが、先入観やバンドへの期待値を抜きにして聞けば間違いなくカッコいいです。

7.『暗黒の世界』 – Starless and Bible Black(1974年)

キング・クリムゾンはアルバムの1曲目の掴みが格段にうまいです。
バンドの核融合が頂点を迎えようとしている緊張感に満ちたアルバムです。
第一期を集大成するかのように良いところが詰まっているのですが、その分、他のアルバムに比べると個性が弱いかもしれません。
即興的な演奏が多い前衛芸術的な作品で、今回改めて聴き直して、やっぱり凄いと思いました。

8.『リザード』 – Lizard(1970年)

『アイランズ』と同じく、静的で美しい面が印象的なアルバムです。
ジャズの要素が取り入れられて、他とは趣の異なる作品になっています。
2020年に亡くなったキース・ティペットのピアノが強い印象を残すアルバムですが、中でもイエスジョン・アンダーソンをゲスト・ヴォーカルに迎えたタイトル曲が白眉です。

これもまたキング・クリムゾンの世界なのだという、音楽性の幅を示す作品としてセレクトしました。
古いファンの中には、実はコレが一番好きなんだという方もいらっしゃいますね。

9.『スラック』 – Thrak(1995年)

90年代のキング・クリムゾンは、抒情性や身体性を廃して、演奏技術の高いヘビーなサウンドを追及します。
短い曲で構成されていて聴きやすいのかと思っていると、トリプルトリオ(ギター・ベース・ドラムが二人ずついる編成)の音圧に圧倒されます。
硬くて、重くて、分厚い、恐怖を感じるほどヘビーでメタルな音楽ですが、演奏技術は高く構成は緻密です。

この年の来日公演には行きました。ただ、この頃の自分が求めていたものとはギャップがあったせいで、その真価を受け止められなかったことを覚えています。
エイドリアン・ブリューが半笑いでステップ踏みながら歌うのが今でもちょっとダメなんです。ファンの方にはスイマセン。

それにしても、マーズ・ヴォルタがデビューする5年も前にこんな破壊的なロックを演っていたとは、改めて聴いて驚いています。

10.『ポセイドンのめざめ』 – In the Wake of Poseidon(1970年)

良いアルバムとか好きなアルバムを選ぶなら、間違いなくもっともっと上位に入る作品です。
是非、多くの人に聴いて欲しい。
今回この順位だったのは、基本的に『クリムゾン・キングの宮殿』と同じ作りだったからです。
「宮殿」を聴いて気に入った人は、コレも好きになるはずです。

実は直前まで『ザ・コンストラクション・オブ・ライト』(2000年)が10位で、『ポセイドンの目覚め』を番外として紹介しようと思っていました。
音そのものの持つパワーは50年前と今とでは差がありますし、音響的な魅力は圧倒的に現代の録音の方が優れていることは間違いありません。自分の中で過去の作品を嵩上げして評価しているのではないかという意識も働きました。
でも、この機会に全てのスタジオ・アルバムを聴き直してみて、楽曲の良さという点で70年代の作品はどれも素晴らしいと再認識させられて、こういう結果になりました。

他の作品の芸術性が凄すぎるので、どうしても二番手で語られてしまいがちですが、親しみやすく聴きやすいうえにキング・クリムゾンらしいオリジナリティも発揮されている、プログレッシブ・ロックの名盤です。

キング・クリムゾンは、長い活動期間の中で何度もメンバーを変え、音楽性を変化させてきました。
デビューと同時に大きな評価を得たにもかかわらず、音楽性を変化させることを恐れず、常にアグレッシブでありつづけました。

ロバート・フィリップという奇才のもとで、コンセプトを実現できる技術を持ったメンバーがその都度集められますが、そこでは単なるミュージシャンとしてではなくバンドとしての創造性をもたらすことも重視されていたようです。
決して、ロバート・フィリップ・バンドでは無いのです。

時代とともに変化し続けるバンドの作品を、その時期を考慮せずに評価することは意味が無いかもしれませんが、作品の優劣ではなく、今の方々にこのバンドを知る入り口を紹介できたらという気持ちで書いてみました。

音楽の聴き方自体が変わった現代では難しいかもしれませんが、ぜひ一度、ただキング・クリムゾンの音楽を聴くだけ、という時間を作ってみてもらえたらうれしいです。


2023.2.5

jr-korpa-RADGP-unsplashの写真に感謝します。

コメント

タイトルとURLをコピーしました