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『The Resistance』 MUSE

音楽

『ザ・レジスタンス』 ミューズ 2009年

前作「Black Holes and Revelations」の路線をさらに進めた、聴きやすいサウンドになっています。
演奏は洗練され、デビュー時に比べると歌はかなり上手になりました。
アルバムはトータルのコンセプトを持っているものの、統一感はあまりありません。コンセプト云々と構えずに、各曲を楽しめます。
個々の楽曲はそれぞれに魅力的なのですが、このアルバムの印象や評価を決定づけるのは、アルバム最後の組曲「Exogenesis:Symphony Pt.1.2.3」でしょう。
様々なレジスタンス(抵抗)をテーマにしたアルバムの最後は、西洋の世界創造の物語へも抵抗してみせるのですから壮大です。(Exodas+Genesis と勝手に解釈しました。)

デビューからの3作品「Showbiz」「Origin of Symmetry」「Absolution」は、行き場のない感情を剥き出しでぶつけてくるような危険性をはらんだサウンドで、決して万人受けするタイプの音楽とは思えませんでした。
それでも、メロディの美しさ、楽曲の良さ、演奏やアーティストとしての魅力でファンを獲得し、彼らはスターダムへ駆け上がって行きました。
この頃のサウンドからは、レディオヘッドラッシュマイブラクリムゾンなどに通じるものが感じられましたが、それでも彼らのオリジナリティは失われず、むしろ際立っていました。

前作「Black Holes and Revelations」は、3ピースバンドとしての躍動感よりも音楽的な完成度を大切にしたようで、楽器編成や楽曲のバリエーションが豊富になりました。
エレクトロ、オーケストラ、アコースティック・ギターやピアノは、彼らの美しいメロディを彩るのに貢献しましたが、一方で一触即発の危うさは影を潜めました。

この5枚目の「ザ・レジスタンス」は、前作の流れを踏襲しています。
4曲目「Unaited States of Eurasia」での、ショパン「夜想曲」の挿入は見解が分かれそうですが、客観的には、聴きやすく欠点の無いアルバムと言えるでしょう。
全体に、「切なさ」を感じるメロディは相変わらずでしたが、感情を揺さぶる「切実さ」は弱まった印象です。

しかし、このアルバムがどうしても特別に感じられてしまうのは、冒頭でも触れた「Exogenesis:Symphony Pt.1.2.3」の最後の曲のせいです。
そして、それはイコール、鉄拳のパラパラ漫画「振り子」によるミュージック・ビデオのせいなのです。
日本人で無宗教の私には、「Genesis」と言われても「ピーター・ガブリエル以降のもけっこう好きです」というくらいで、いわゆる聖典といわれる「創世記」については見識がありません。
西洋の方にとって、神の作ったこの世界を「もう一度最初からやり直そう(Let’s start over again) 」と歌うことがどのような想いを抱かせるのか、想像もできません。
なので、この壮大なテーマを、あえて「人の生涯」という身近で僅かな時間に引き寄せて制作された「振り子」の方が、直接的に私の心を刺激してきたのです。
初めてテレビで紹介された時、リアル・タイムでその番組を見ていました。
ありがちな話しと言ってしまえばその通りなのですが、それでも、このパラパラ漫画のために曲を作ったのではないかと感じるほどマッチしたミュージック・ビデオは、何度観ても涙があふれてしまいます。
(正確には、鉄拳が勝手に制作したものがメンバーにまで届き、後から公式ミュージック・ビデオとして採用されたそうです。ここには貼りませんが、Youtubeで探していただければ、見つけられると思います。)

純粋にアルバムを評価すると、実は前作あたりから個人的には思い入れが薄くなっているわけですが、鉄拳で加点されてしまうという点でミューズの作戦勝ちです。

鉄拳のパラパラ漫画は、この後、「The 2nd Law」で「Follow Me」、2015年のアルバム「Drones」で「Aftermath」という曲でも採用されています。

*ミュージック・ビデオと言えば、2012年のアルバム「The 2nd Law」からのシングル「Panic Station」は、東京で撮影されたユニークなものでした。

切実さが失われて、ダンス・ミュージック、エレクトロ・ポップな曲が耳に入って来たせいで、いつの間にか聴くのを止めてしまったミューズですが、改めてSpotifyで聴いてみると、その後のアルバムも流石の出来です。
やっぱり、いいバンドです。

投稿:2020.9.28
編集:2023.10.31 

Photo by  John Schaidler

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