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2023年にリリース40周年を迎えたアルバム・私的TOP50

音楽

1983年リリースの名盤

今年の春に、2023年に50周年を迎えるアルバムから思い入れの強いものを50枚選んでみた後に、「30周年、40周年っていうのもあるよなぁ」と思って書き始めました。
気がつくと書きかけで止まっているのを発見。
なるほど、さすがに途中で挫折したらしいです。
でも、もうすぐ今年も終わってしまうので、なんとか最後までたどり着かせてアップしようと思います。

50周年、30周年の記事はこちら。

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40年前というと、私は19歳から20歳になった年でした。
一浪して美術大学に入り、カルチャーショックを受けながらも、新しい美術表現を吸収していました。
美術や音楽はもちろん、その頃はビデオ・アートやパフォーマンス、演劇などに勢いがありました。
ファッションや広告もアートと強い関係性を示していて、芸術を学ぶことはトレンドの近くにいることに直結していた刺激的な時代でした。

ざっと思い浮かべても、多くの音楽に接していて、どれも思い出深いので、50枚に絞るのは難しいのですが、悩みながら、楽しみながら、懐かしみながら選んでみます。
(やり始めてみたら、50に絞るのが難しすぎて最後に増やしました・・・。)

一般的な人気や評価ではなく、かなり個人的な思い入れで独断的にセレクトしていて順不同です。

1983年を代表するメジャーなロック名盤 20

1.DAVID BOWIE – Let’s Dance

ベルリン3部作、「スケアリー・モンスターズ」を経て、次は何をしてくれるのか期待値が高まっていたボウイが届けてくれたのは、ダンス・ビートでした。
少々困惑しましたが、共同プロデューサーにはシックのナイル・ロジャース、バックのメンバーも流石の布陣です。ギターには、ナイル・ロジャースに加えてスティーヴィー・レイボーンの名前までありました。
音楽は、ダンス・ビートに揺られながらも、どこか知性と無国籍な空気感が漂っていました。
ダンスのステップと、格闘技のステップをかけたのかもしれませんが、ジャケットのアート・ワークはいただけませんでした。

アルバム・タイトル曲他、「チャイナ・ガール」「モダン・ラブ」も大ヒットしました。
個人的には、ボウイの作品の中では上位に上がらない作品なのですが、今聴くと、そんなに嫌わなくても良かったと思えます。
来日もして、「シリアス・ムーンライト・ツアー」(1983年)と「サウンド+ビジョン・ツアー」(1990年)は行きました。

2.Eurythmics – Sweet Dreams (Are Made of This)

圧倒的なオーラを放つ歌姫アニー・レノックスと、音楽オタクのデイヴ・スチュワートが組んだ男女ユニット。
エレクトリックなサウンドと、ソウルフルなボーカルの相性が素晴らしく、この時代を象徴する音楽となりました。
余談ですが、この頃、こういう異質な取り合わせにトレンドを感じることが良くありました。
ボールショップのジーンズに皮のローファー、フリルいっぱいのワンピースに革ジャンなどなど。
美術大学に入学したばかりの私は、シュールレアリスムの概念としてよく引用されていたロートレアモンの「ミシンと蝙蝠傘との解剖台の上での偶然の出会い」(マルドロールの歌)を思い浮かべたりしていました。

3.THE POLICE – Synchronicity

ポスト・パンクの潮流のひとつとして、レゲエやスカのビートを持ち込むアーティストがいました。ポリスも、最初はそういう新規性が他のバンドに対する差別的優位性になっていました。
しかし、彼らが只者では無いことは直ぐに誰もが理解するところとなります。
そして、ロック・バンドとして圧倒的な格の違いを示したのが、この5作目のアルバムでした。
残念なことに、このテンションは継続できず、バンドはこのアルバムを最後に解散してしまいます。
メンバー間は不仲だったようですが、ここで聴ける音楽は素晴らしい完成度です。
1983年を代表するだけでなく、ロック史に残る名盤です。

4.Duran Duran – Seven and the Ragged Tiger

1980年代のデュランデュランは、何をしてもカッコ良くて、お洒落で、とにかく大人気でした。
ビジュアルが超イケていて女性からはモテモテ。その上サウンドまで最高なのですから、ケチのつけようがありません。嫉妬心すら沸かないレベルです。
前作「リオ」の大成功を受けて、自信が漲っている中で制作された良作です。

5.Culture Club – Colour by Numbers

LGBTQという言葉が無かった頃、奇抜な女装姿でソウルフルな歌を歌うボーイ・ジョージは、ちょっとキワモノ的な扱いでした。
しかし、音楽は別です。
どのような外見をしていようと、素性や信条がどうであろうと、その歌声を聴いた途端に誰もが彼(彼女)は特別な存在なのだと気づかされるのです。
ポップなヒット曲はもちろん素晴らしいのですが、スロー・ナンバーでの説得力は最高です。

6.U2 – WAR

1980年代をトップで走り続けたロック・スターが放った3作目。
この時代のU2は、全てのアルバムが最高級なので優劣を付けられませんが、「WAR」はバンドの性格を方向付ける重要なアルバムでした。
人気が高まり、商業的な成功も得る中で、発言力の増したU2は、社会・政治に対する態度を明らかにすることを恐れなくなります。
このアルバムが発売されて40年も経ったのに、人類は戦争を終わらせることができず、平和な国でさえ政治が腐敗しています。
日本にもこういうバンドが出てきて欲しいと願い続けています。

7.Echo & the Bunnymen – Porcupine

個人的にはU2よりもエコバ推しでした。同じ年にデビューしたはずですが、いったいどこでこんなに差が付いてしまったのでしょう。ジャケット写真のような冷たい空気感を感じられて、スタジアム系のロックでは無いアート感がありました。
ポスト・パンクの中では、イギリスらしい正統派なロックです。

8.R.E.M. – Murmur

R.E.M.の歴史は、ここから始まりました。
ポスト・パンクの流れで多くのバンドが登場する中で、ニューウェイブに寄りすぎず独自性が感じられた新人バンドでした。
実は、この時期には今ほどは評価していなかったのですが、90年代を経て再評価できたので、ランクインです。

9.The Stranglers – Feline

パンク・バンドとして成功していたにもかかわらず、ポスト・パンクの時代へもしれっと適応した珍しいバンド。
この頃は、パンクの衝動を内に秘めることでゴシックな凄みに転換したようで、これもまたヨーロッパ的だと、とても気に入ったのでした。
シングル曲のヒットがあれば、もっと世界的に評価されていいバンドです。

10.The Rolling Stones – Undercover

80年代のロックは、ダンス、エレクトロニクス、ワールドミュージックなど、様々な音楽のクロス・オーバーが進んだ混沌の時代を迎えていました。
そうした潮流はベテラン勢にも否応なく襲いかかっていましたので、トレンドに敏感なトップ・スターは真面目に取り組んで時代に適応していました。
ストーンズも様々にトレンドを取り入れてクオリティの高いアルバムを作ったのですが、個人的にはオジサンが頑張ってる感じがして関心がありませんでした。今思えば、当時ミック・ジャガーは、まだ40歳だったのですね。

11.Paul McCartney – Pipes of Peace

前年にリリースした傑作「タグ・オブ・ウォー」に続く作品で、安心して聴けます。
「タッグ・オブ・ウォー」には、スティービー・ワンダーとデュエットした名曲「エボニー・アンド・アイボリー」がありましたが、今作ではマイケル・ジャクソンと「セイ・セイ・セイ」で共演しています。
良い曲を良いアレンジで聴かせるだけではなく、購買意欲の刺激も忘れない戦略性は流石。
いや、本当は戦略などでは無くて、純粋な好奇心と創作意欲のなせる技なのでしょう。

12.Elton John – Too Low for Zero

1969年にデビューして以来、息をするように名曲を作り、アルバムを制作し、コンサートを行っていたエルトン・ジョンは、80年代に入ると悩ましい状況になってきます。
アルバム制作は続けていましたが、全盛期のようなわけにはいきません。
このアルバムは、そうした陰りをみせる直前の輝きが残る佳作です。
「アイム・スティル・スタンディング」「ブルースはお好き?」というヒット曲を、あたりまえのことのように収録しています。

13.Yes – 90125

70年代末にバグルスとの合体に失敗したまま活動を停止していたイエスは、トレバー・ラビンという南アフリカ出身のマルチ・プレーヤーの加入で息を吹き返します。
このアルバム収録の「オーナー・オブ・ロンリー・ハート」はどういうわけか世界中で大ヒットしてしまい、これがまた新たな悲劇(?)を生みます。
まあ、売れてなによりではありますが、これ以降、さらに頻繁になるメンバー・チェンジや音楽性のブレにはついていけませんでした。
なんであんなに売れたんだろう?

14.Journey – Frontiers

デビュー時は腕利きミュージシャンが自己満足なロックをやっていた感じでしたが、数年後にスティーブ・ペリーという稀代のボーカリストを迎えたことで急激にポピュラリティが高まってヒットを連発するようになります。
このアルバムは、前々作「デパーチャー」(1980年)、前作「エスケイプ」(1981年)に続く傑作。
(出かけたり、逃げたり、新天地へ向かったり、さすがジャーニー。)
素晴らしい時期ではありましたが、一方で、ここがキャリアのピークでもありました。

15.Styx – Kilroy Was Here

70年代のプログレッシブ・ロックがパワーを失う中で、歪んだロック・サウンドをキャッチーでメロディアスなメロディに乗せてライブ演奏できるバンドが多く現れます。
日本では「産業ロック」などと括られていました。
スティックスは個性的なプログレ・ハード・ロックのバンドでしたが、産業ロックへの切り替え対応に成功します。
彼らの場合は、前々作「コーナー・ストーン」(1979年)、前作「パラダイス・シアター」(1981年)での成功がピークで、このアルバムはその残り香のようなものでした。
ただ、「ドモアリガット、ミスター・ロボット」と日本語で歌った曲は、子供でも口ずさめるほどヒットしました。

16.XTC – Mummer

いかにもイギリスのバンドというシニカルな諧謔性を持ったバンドの6作目。
当時は前作、前々作の評価が高かったせいで、地味で期待外れというように受け止められていたようですが、これはこれでXTCらしいと思えます。
特別に推せないところはありますが、異国情緒の取り入れなど、この時代らしさも感じる良作です。

17.Tears for Fears – The Hurting

ポスト・パンクの大混乱で様々なアーティストがデビューして椅子を取り合っていた中にあって、ティアーズ・フォー・フィアーズは妙に骨太な音楽性を持って現れました。
このアルバムは彼らのデビュー作。
音作りこそニューウェイブの作法でされていますが、変に浮かれておらず、誠実に音と向き合っている感じがして好感が持てました。
次作、次々作で彼らの才能は爆発します。

18.Talking Heads – Speaking in Tongues

70年代末のアメリカのアンダーグラウンド・シーンで始動したトーキング・ヘッズは、第三世界の音楽を大胆に取り入れる手法で頭角を現し、1980年の「リメイン・イン・ライト」でビッグ・スターとなります。
このアルバムでは、大成功の後も飄々と独自の世界で創作を続ける彼らを確認できます。
映画「アメリカン・ユートピア」での演奏が印象的だった「バーニン・ダウン・ザ・ハウス」は、このアルバムに入っています。

19.Frank Zappa – The Man from Utopia

選外にしてもいいかもと思ったのですが、発売当時のバカげた戦略が印象的だったので選んでしまいました。
時話題になっていた殺虫剤のキャッチコピーをパクってつけられた「ハエハエカカカ、ザッパッパ」という日本盤タイトルにはじまり、各曲にも悪ふざけした邦題が付けられていました。
ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」の歌詞に登場するほどのアーティストですから、タダモノでは無いと思っていたのですが、このアルバムで「もしかするとコミック・バンドなのか」との疑いが生まれます。結局、未だに彼の音楽が何なのかは理解が及ばないままですが・・・。
比較的、聴きやすい短めの曲で構成されているものの、聴かなくても大丈夫です。

20.Bonnie Tyler – Faster Than The Speed Of Night

ジャニス・ジョプリンを彷彿とさせる歌いっぷりからアメリカ人だと思っていましたが、実はウェールズ出身でした。
このアルバム収録の名曲「トータル・エクリプス・オブ・ザ・ハート」だけでも価値がありますが、他の曲での歌唱も素晴らしい。CCRの「雨を見たかい」のカバーも必聴もの。

20+1.Eurythmics – Touch

前作がリリースされたのは同年の年初で、年末に出されたのがこのアルバムでした。
同じアーティストの作品を2つランクインさせることは迷いましたが、外すことができませんでした。
アーティスト性、音楽の時代性、作品のクオリティ、どれを取っても、もうこの二人の才能を疑う人はいませんでした。
アニー・レノックスが注目されるのは当然ですが、実はデイヴ・スチュワートは侮れない感性を持っていて、ソロの作品でも良い仕事をしています。

これが選外?

Eric Clapton – Money and Cigarettes

Crosby, Stills & Nash – Allies

Lou Reed – Legendary Hearts

Tom Waits – Swordfishtrombones

Stevie Nicks – the wild heart

Bryan Adams – Cuts Like a Knife

Robert Palmer – Pride

Cheap Trick – Next Position Please

Robert Plant – The Principle of Moments

Billy Idol – Rebel Yell

Run-D.M.C. – Run-D.M.C.

Japan – Oil on Canvas

PIL – Live In Tokyo

ヒット性で言えばブライアン・アダムス、時代性ではビリー・アイドルもランクインさせたくて迷いました。
その後の重要度なら、トム・ウェイツ、ルー・リードも上位なのですが、よく聴いたのは後になってからだったことが、この時代を代表するというという実感が持てませんでした。

ジャパンとPILは個人的に思い入れが深いのですが、スタジオアルバムではなかったので泣く泣く選外です。

The Tubes – Outside Inside

編集していた時点で取りこぼしていたので追記しますが、ザ・チューブスもこの年にアルバムを出していました。日本で言えば、米米CLUBのようなバンドでしたが、当時は情報に乏しく、日本では知られることはありませんでした。コンセプトが破天荒だったことよりも、私としては純粋に楽曲が好みでした。

ポスト・パンク、ニューウェイブの重要作品 10

1.The Pale Fountains – Pacific Street

一般的な重要度ということでは上位に挙がらないバンドだと思います。それでも、ネオアコというジャンルにおいては評価されているハズですし、私個人としては気に入って本当によく聴いていました。
ジャケットの写真からアグレッシブで攻撃的な音楽なのかと想像してしまいますが、実は写真の彼が撮影直後に亡くなっているという背景があるらしく、制作側としては若い命の儚さを刻みつけるような意図があったのかもしれません。
音楽はギター・サウンドに拘らず、管楽器や弦楽器も自由に使って、洗練された音楽を作ろうとしています。
「作ろうとしている」という言い方になるのは、それがどうしても未成熟な若さを感じさせるものだからで、逆に言えば、そこが最大の魅力でもあるのです。
捨て曲無し。胸がキュンとなるエバー・グリーンな青春ギター・ポップの超名作です。

2.New Order – Power, Corruption & Lies

これはあの時代において衝撃的なアルバムでした。
イアン・カーティスの死によってジョイディビジョンを継続できなくなったメンバーが作ったバンドということで、ファンの期待感は高くなっていました。
ジャケットのアート・ワークも芸術的で、これからの音楽の主流は彼らが担ってゆくのだろうと感じました。
しかし、流れてきた音楽は、クリアなギターや聴き馴染みのあるキーボードの音色、軽快なビートでした。
好きなタイプの音楽では無かったので、どう評価して良いか分からず困惑しました。
唯一、彼らの音楽が主流になってゆくという予感だけは当たりました。
好き嫌いを超えて、この時代を代表する作品であることは間違いありません。

3.Depeche Mode – Construction Time Again

電子楽器の発達とこの時代の音楽は、切り離して考えることはできません。
デペッシュ・モードは、シンセサイザーを巧みに使いこなしていると同時に、ミュージック・コンクレートの要素を楽曲に取り入れて、特殊な立ち位置を獲得します。
このジャンルには、ものすごく多くのバンドが参入してきたので、そうした中で個性を出せていたのでランクインです。

4.Spandau Ballet – True

欧州側の音楽は聴かないという人も好きだった、オシャレでモダンなスパンダーバレエの大ヒット作です。
収録曲の半分くらいはシングル・カットされましたが、中でも「ゴールド」「トゥルー」は売れました。
ニューウエイブには、こういうソウルやR&Bを現代的に展開するバンドがいくつかありました。
ビジュアル戦略は上手かったと思いますが、曲と歌声の良さは間違いありません。
80年代の音楽は先鋭的だった分、今聴くと古さを感じてしまうものが多いのですが、スパンダーバレエは今でも気持ちよく聴けます。

5. Cocteau Twins – Head Over Heels

4ADというレコード・レーベルがあって、常に先進的な音楽を送り出していたので注目していました。コクトー・ツインズはこのレーベルに所属していて、特定の熱心なファンをつかんでいました。私もそのひとりでした。
焦点の定まらないぼんやりした音像の先にファンタジックな世界が広がっているような、夢の世界で鳴っているような音楽は、シューゲーザーとはまた似て非なるもので、独自性がありました。

6.Ben Watt – North Marine Drive

この時代、新しい音楽が次々と出てくる背景に、メジャー系ではない、独自の感性を持ってアーティストを支援するレコード・レーベルの存在がありました。
私もいくつか追いかけたレーベルがありましたが、チェリーレッド・レーベルはそのひとつで、ベン・ワットのこのアルバムもチェリーレッドから出されました。
混沌とする音楽トレンドの中で出会った清涼剤のような音楽で、本当によく聴いていました。
同時期に同じレーベルに所属していたトレーシー・ソーンとユニットを組んで、エヴリシング・バット・ザ・ガールとして活動を始めるのは、このすぐ後のこと。
この一連の作品はどれも素晴らしく、心に残っています。

7. Aztec Camera – High Land, Hard Rain

ニューウェイブの中で、ネオアコ(ネオ・アコースティック)にカテゴライズされていたバンドのデビュー・アルバム。
こちらも注目のレーベル、ラフトレードからでした。
フロントマンのロディ・フレイムが線の細いアイドルっぽさがあり、明るめの曲調もあって、人気もあったと思います。
もちろんメジャー・レーベルからビッグ・プロモーションをかけられているスター・プレイヤー達とは大きな差がありますが、それでもこの時代特有の輝きは目映かったのです。

余談ですが、この時期に私が気にして追いかけていたレーベルは、ラフトレードチェリーレッド4ADと、クレプスキュールでした。

8.Eyeless in Gaza Rust Red September

チェリーレッドから発売されたアイレス・イン・ギャザの5作目は、静かさとポップさをエレクトロなサウンドでバランスさせた名品でした。
彼らもまた、ネオアコとカテゴライズされていたと思います。
ペイル・ファウンテンズになれなかったマイナーなバンドという見方もできますが、私の中では独自の音楽性を保っていた禁欲的なバンドという印象です。
フラ・リッポ・リッピやドゥルッティ・コラムなど、イマイチのラインに良いバンドや良い作品があった時代でした。

9.Simple Minds – Sparkle in the Rain

リリース時期が曖昧なのですが、Spotifyでは1983年と出るのでランクインさせておきます。
ニューウェイブにカテゴライズされますが、ピコピコ・サウンドというよりも、どこか産業ロックやスタジアム・ロックのような大胆なサウンド。
当時、引っ張りだこだったスティーブ・リリーホワイトがプロデュースしたこともあって、なんとなく似た作品が思い浮かんだりしてしまいます。
でもこの音作りは大成功して、このアルバムで彼らはスター・バンドの仲間入りを果たしました。

10.Big Country – The Crossing

イギリスと日本ではヒットしたデビュー作。
この時代はスティーブ・リリーホワイトにプロデュースをお願いすれば、だいたい上手くいくのです。
下手をしたらスコットランドの田舎バンドで終わりかねないところを、ちゃんと時代に合ったロックに仕立て上げられています。

10+1.The Waterboys – The Waterboys

ニューウェイブの中では、オーソドックスなロックを演奏するバンドだったので、メディアなどで取り上げられることは少なかったと思います。
また、実際に傑作と言えるのは、もう少し後の作品になることも否めません。
ただ、イギリスのフォークロアの風味のある骨太なロックに本物感がありました。
無視できないデビュー作です。

これが選外?

The Cure – Japanese Whispers
日本のバンドにも多大な影響を与えたであろうザ・キュアーの、この時期にシングルでリリースされたものをまとめた編集盤。

Klaus Nomi – Encore!
クラウス・ノミが亡くなったのが、1983年でした。

Kajagoogoo – White Feathers
「君はTOO SHAY」は、日本でヒットしました。

The Human League – Fascination!
時代を代表する音ではあるものの、前作を超えられず。

Men at Work – Cargo
良いアルバムなのですが、前作のようなヒットに恵まれず。

Yazoo – You and Me Both
高く評価された前作の良いところ取りをしているものの、インパクトに欠けて薄味。

Altered Images – Bite
クセが凄いんじゃ。レコード探しに苦労した思い出が。

Gary Numan – Warriors
コレではなくて、少し前のレプリカントのような時期が好きでした。

WHAM!‐Fantastic
この時点ではスルーしていましたが、次作で無視できなくなります。

The B-52’s – Whammy!
人気なのは分りますが、レコードの所有欲がわきにくかった。

Level 42 – Standing in the Light
なんか軽薄な感じが丁度良かった。

Nena – Nena
「ロックバルーンは66」は世界中でヒットしました。

Gazebo – Gazebo
日本でカバーされた「雨音はショパンの調べ」の原曲はこちら。

Orchestral Manoeuvres in the Dark (OMD) – Dazzle Ships
1980年に「エノラ・ゲイの悲劇」がヒットして独特のポジションを獲得した重要バンド。

China Crisis – Working with Fire and Steel
これはランクインを迷いましたが、やっぱりマイナーなままだったので。

The Fixx – Reach the Beach
この時代らしい音なのでランクインしても良かったのですが思い入れが少なくて。

Nick Lowe – he Abominable Showman
名盤として挙げられるものの、正直なところリアル・タイムで聴いていませんでした。

Marianne Faithfull – A Child’s Adventure
選外ながら、女優さんの歌には好きなものが多いです。

The Chameleons – Script Of The Bridge
実力ありそうだったのに、たぶん戦略ミスで売れ無かった惜しい人たち。

MALCOM MCLAREN – Duck Rock
今なら良さが分るものの、今更高く評価すってのも違う感じなので。

The Church – Séance
良いと思ったのに、なぜかのめり込まなかったオーストラリアのオルタナ・バンド。

Violent Femmes – Blister In The Sun
こういうフォーキーなロックは好きなのですが、知ったのがリアル・タイムでは無かったので。

Billy Bragg – Life’s A Riot With Spy Vs Spy
これも同様に好きなのですが、1983年という時代とリンクしないので。

The Replacements – Hootenanny
こうしてパンクは終わってゆくのでした。

Gang of Four – Hard
パンク時代が最高だっただけに、ピックアップできず。

世界中を席巻した北米エンターテインメント 5

1.Madonna – Madonna 

「ラッキースター」「ボーダーライン」「ホリデイ」とヒットを飛ばしたデビュー作。
下積みも経験していたが、この1作でアメリカン・ドリームを体現してみせた。
今聴くと、若々しさが微笑ましい。

2.Cyndi Lauper – She’s So Unusual

「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」「タイム・アフター・タイム」「シー・バップ」「オール・スルー・ザ・ナイト」などのヒット曲を収めた、ソロ・デビュー作。
またマドンナが「マテリアル・ガール」を歌う前にこのアルバムで「マネー・チェンジ・エヴリシング」と歌っています。
意外と言ったら失礼ですが、この段階ですでに歌は上手いです。

3.Billy Joel – An Innocent Man

1970年代を代表するアーティストだったビリージョエルが、最後の輝きを放った名作。
自分の音楽的ルーツに戻って制作したような各曲は、懐かしさとトレンディさがうまくかみ合っています。
アルバム収録の10曲から「イノセント・マン」「ロンゲスト・タイム」「今夜はフォーエバー」「あの娘にアタック」「アップタウン・ガール」「夜空のモーメント」「キーピン・ザ・フェイス」の6曲がシングル・カットされ、ほぼ全部がヒットしました。

4.Huey Lewis and the News – Sports

疾走感とポジティブなオーラが半端ないパワー・ポップ・ロックを代表する名作。
1983年のアメリカのチャートでは、マイケル・ジャクソンの「スリラー」に次いで2位だったアルバムですが、「スリラー」のリリースは1982年の12月でしたから、この年に発売されたアルバムとしてはトップだったかもしれません。
アルバム収録されている9曲中、6曲がシングル・ヒットしました。
でも、どこかオッサン臭いんですよ。いや、イイ意味で。

5.Lionel Richie – Can’t Slow Down

イギリスでは激しい世代交代が進む中で、アメリカでもベテラン達は新しい時代にどう適応していくか試行錯誤していました。
コモドアーズからソロに転身したライオネル・リッチーは、持ち前の甘い歌声をダンス・ビートに乗せることでポジションを確立します。
ブラコン(ブラック・コンテンポラリー)というカテゴリー名で呼ばれることもありましたが、今の時代だと逆にダメそうですね。アーバン・ポップとかAORとかでしょうか。
大ヒットした「All Night Long」「Hello」

5+1.Flashdance – Original Soundtracks

ランキングに入れるか迷いましたが、1983年を代表する作品であることは間違いありません。
タイトルの「ホワット・ア・フィーリング」以外にも、「マニアック」などの曲がヒットしました。

5+2.The Pointer Sisters – Break Out

キャリア10年のベテランが、この時代らしいディスコ・サウンドで躍動していました。
前々作から今作までの3作は本当に良くできています。

5+3.STRAY CATS – Rant N’ Rave With The Stray Cats

ストレイ・キャッツは、いつ出た作品かとか関係ない感じがします。
いつ出たどの作品も最高です。
「セクシー&セブンティーン」「涙のリトルガール」は、このアルバムに入っています。

これが選外?!

Donna Summer – She Works Hard For The Money
この時代、アメリカの音楽のメインストリームは、ディスコ(ダンス)・ミュージックでした。アルバム・タイトル曲が大ヒット。「TOKYO」という曲もありますが、アルバムとしてはイマイチ。

AL Jarreau – Jarreau
超うたウマ歌手のアル・ジャロウが自分の名前をタイトルにした作品。
何の問題もありません。良質なボーカル・アルバムです。
でも、ベスト盤がいちばんです。

Cool & The Gang
「ジョアンナ」はすごく聴きました。このアルバムでは無く、ベスト盤で聴きがちなので。

Womack & Womack – Love Wars
名盤なのですが、このアルバムを知ったのはずっと後だったので1983年と重ならなくて。

Stevie Nicks – The Wild Heart
これも随分後になってから聴いたのですが、あまり印象に残らず。

Dolly Parton – Burlap & Satin
キャリアが長い上に多作で活躍の幅も広かった大人気タレントがリリースしていた地味なアルバム。

Bob Dylan – Infidels
当時の音楽的混沌の中にあっては、このアルバムでボブ・ディランは何がしたいのか分らず、聴き込むことがありませんでした。

Neil Young – Everybody’s Rockin’
なんでこうなった?選外はやむなし。

変化するハードロック 10

1.DEF LEPPARD – PYROMANIA

ハードロックの変化を捉えて、“NWOBHM(ニューウェイブ・オブ・ヘビーメタル)”という言葉が生まれました。
日本ではイギリスのバンドかアメリカのバンドかをあまり意識していなかったので、あまりこの言葉が浸透した感じはしませんでしたが、要するに、ハードロックは古いというイメージを払拭したかったのだと思います。
デフ・レパードは、そのカテゴリーに入るバンドで、ラジオ向きの爽快なサウンドはシングル・ヒットも生みました。
中でも「フォトグラフ」は世界中で売れて、ハードロックのリスナーで無くても好きな曲に選ぶほどでした。

2.Mötley Crüe – Shout At The Devil

アメリカの西海岸側で台頭してきたハードロックは、独特のファッションとノリの良いキャッチーさで人気を獲得します。(一方でダサいと笑われてもいましたが。)
こうしたビジュアルとキャッチーさはMTV時代にはマッチして、戦略的には成功でした。
日本のビジュアル系と言われるバンドにも少なからず影響を与えたと思えます。
モトリー・クルーは、その代表的なバンドで、このアルバムでもほどほどの激しさとキャッチーさで,良いバランスを保っています。
ムーブメントとしては“LAメタル”などとも呼ばれますが、そこまで硬質ではありません。

3.QUIET RIOT – Mental Health

パンク登場以降に、より硬質でストイックなハードロックを指したロックを“ヘビーメタル”と呼ぶようになります。
クワイエット・ライオットはその代表格に分類されていますが、このアルバムからシングル・カットされた「カモン・フィール・ザ・ノイズ」は、グラム・ロックのスレイドのカバーでした。
しかも、これがヒットしてしまいます。
明るくキャッチーなロックで、どこがメタルやねんと思って聴いていました。

4.Iron Maiden – Piece of Mind

1980年代から現在に至るまで絶大な人気と影響力を持つロック・バンド。
NWOBHMの筆頭に挙げられるだけでなく、様々なハードロックの代表格として名前を使われています。
ポップさやビジュアルで老若男女に好かれようとせず、無骨にヘビーで硬質なロックを展開しています。
これぞ、ヘビーメタルです。

5.Metallica – Kill ‘Em All

ヘビーメタルと言いながら、堅くも重くも無いバンドが乱立する中で、アングラ的なハードコア要素を強く押し出したものが“スラッシュメタル”と呼ばれるようになります。
このアルバムでデビューしたメタリカが、そうした名付けを生んだきっかけだったかもしれません。
メロディアスなキャッチーさを捨てて、工業機械のような重さと速さでリフを刻み続けるサウンドは、陶酔感さえ感じるものでした。
これは凄いことが起こるような予感が走りましたが、それは当たっていました。
彼らはその後、このジャンルの支柱となってゆきます。
粗いながらもパワーが漲っている名盤です。

6.Ozzy Osbourne – Bark At The Moon

1970年代はハードロックに悪魔崇拝イメージを持ち込んで人気を得たブラック・サバスを率いていたオジー・オズボーンがソロになって制作された3枚目。
優秀なアーティストを起用して作品のクオリティを担保しつつ、自分は偶像化されたシンボルとして演じきることのできるアーティストでした。
この演目にハマれば楽しめますし、我に返ってしまうと距離を置きたくなります。
私は若干、後者でした。

7.Dio – Holy Diver

ハードロックの様式美は、ともすれば大げさで芝居がかっていて恥ずかしさを感じることがあります。
あんな音で大声出して歌っている内容はチープな恋愛がテーマだったりすると、あまりインテリジェンスも感じられません。
そこで、神話の世界や、悪魔が出てくると、架空の物語における戦いや恋愛という筋ができて、気恥ずかしさを回避することができるようになります。
レインボーでもブラック・サバスでもヘブン・アンド・ヘルでも確認できたとおり、ディオの声はこうした世界観にピッタリでした。
ハードロックのボーカリストとしては、トップ10に入る実力者だと思います。
クセが強いので、どうしてもファン層が限られるところはあると思いますが、しっかりとコンセプトを練って作られている佳作です。

8.KISS – Lick It Up

ベテランの悪魔バンドは、女性人気を獲得している若いロック・バンドを羨ましく思ったのか、メイクを落として素顔で勝負に出ます。そしてこれがまさか当たりました。
もともとキャッチーな作風でしたが、シングル・カットした「Lick It Up」はノリが良くて新しいファンの獲得につながったようです。
他の曲はけっこうハードめで、良質なロック・アルバムという出来です。

9.Europe – Europe

北欧メタルの代表格となるスウェーデンのロック・バンド。
メロディの美しさとポップさが持ち味で、日本ウケしそう。そう言えば、どことなくアルフィーっぽい。
数年後の「ファイナル・カウント・ダウン」でスター・バンドとなるバンドのデビュー盤ですが、この時点ですでにバンドのコンセプトは固まっています。

10.ZZ TOP – Eliminator

「ロックのカテゴリーだのファッションだの世界観だの、洒落臭いぜ」とばかりに自らのスタイルで突き進むベテラン・バンドの8作目。
文句なしにカッコイイ。
同時期にAC/DCとモーターヘッドの新譜も出されましたが、己の道を貫いたZZ-TOPの圧勝でした。
無骨で愚直ながら、良い音。

これが選外?!

RAINBOW – Bent Out of Shape
アメリカ市場を狙って迷走したレインボー(実際にはシングル・ヒットを出して売れました)が限界を迎えたアルバム。あまりにも普通。

SLAYER – Show No Mercy
スラッシュメタルをさらに過激にしてエクストリームメタルなどと呼ばれていましたが、さすがにここまでくると音楽的なものが弱くなっている感じがして距離を置いてしまいました。

Hanoi Rocks – Back to Mystery City
北欧系メロディック・ハードとも言えず、アイドル風でした。
なんだかコンセプトが定まっていない感じだったので、ほぼスルーでした。

Saga – Heads or Tales
カナダのプログレ・バンドとして紹介されることが多いかもしれませんが、このアルバムはハードロックでいいと思います。
他にもメロディックな曲作りや技巧的な演奏をするバンドが台頭する中では、彼らの個性が際立つことはありませんでした。
私は好きなタイプなのですが、シングル・ヒットがあればもっと良かったかなと。

Thin Lizzy – Thunder And Lightning
ギターキッズの早弾き熱を刺激したバンドのラスト・アルバム。
古さを感じさせてしまったのか、NWOBHMの流れに乗せてもらえず残念。
全然ダメじゃないのに。

Lita Ford – Out For Blood
元ランナウェイスのギタリスト。ジョーン・ジェットとは違ってメタル志向で流行に乗ろうとしたようでしたが、刺さりませんでした。

ACDC – Flick of the switch
私の周囲では話題にならず評価もされていなかったせいで、ほぼ聴きませんでした。
今もほとんど聴きません。スイマセン。

Motörhead – Another Perfect Day
一度聴いただけで繰り返し聴くことはありませんでした。
なんだかこの当時は、こういうのは違う気がしていたのだと思います。

MSG (Michael Schenker Group) – Built to Destroy
大好きなギタリストなのですし、収録曲の「キャプテン・ニモ」は聴いてたはずのに、なぜかアルバムの記憶が無く・・・。

Gary Moore – Victims of the Future
このアルバムもリアルタイムの記憶がありません。というのも、この頃はあまりハードロック系の音楽は流行では無く、聴く機会が少なかったのです。

Triumph – Never Surrnder
カナダの3人バンド。テクニカルでハードな演奏が持ち味で、ラッシュと並んで人気もあったと思います。記事を挙げてから思い出したので選外としていますが、これは良いアルバムです。

重厚長大なプログレや大げさなハードロックは、時代の空気と合わなくなっていました。
いわゆるソフト・ロックや産業ロックはポピュラリティを獲得しますが、ハードロックは、より硬質・高速なスラッシュメタルや独自のファッションをパロディ化したようなヘアー・メタルへと変化適応してゆきます。
こういう音楽には一定の需要があるので、ムーブメントの後押しが無くても、あるところで下げ止まり、マーケットは維持されました。
ハードロックという概念は、パンクよりも柔軟で包容力があるのです。
そうした厳しい状況の中で、実は名曲、名盤、スーパー・ミュージシャンが登場していました。

プログレ界隈の力作 5

1.Marillion – Script for a Jester’s Tear

完全に時代錯誤なバンドでしたが、密かに多くのリスナーに喜ばれていました。
ママリオンのデビュー・アルバム「独り芝居の道化師」は、音楽からジャケットから何からなにまで、プログレのシアトリカルな面を現代に蘇らせてくれたからです。
ジェネシスのコピー・バンドのようですが、今では彼らの個性として確立されています。
ベテランのプログレ・バンドが為しえなかった、プログレッシブ・ロックであることでこの時代のリスナーを獲得した傑作アルバムです。

2.Genesis – Genesis

自らのバンド名を冠したというよりは、他にタイトルが思いつかなかったのではないかと思ってしまう、まとまりの無いアルバム。
でも、「ママ」「ザッツ・オール」「イリーガル・エイリアン」「オール・トゥ・ハード」の4曲がヒットして、バンドにとっては売れたアルバムとなりました。
ドラムの音がカッコイイ作品。

3.PINK FLOYD – The Final Cut

「THE WALL」を制作することで肥大化したロジャー・ウォータースの自我は、ピンクフロイドを離れてまでも創作意欲をかき立てます。好き嫌いは別として、アーティストとして凄いことだと思います。
ロジャー・ウォータースのソロとしては良い出来で、個人的には好きなアルバムです。
これはシアトリカル(演劇的)なのではなく、アジテーション(扇動的)なので、プログレっぽくないのでしょう。

4.ELO – Secret Messages

1970年代に大ヒットを連発して、老若男女、辛口評論家までトリコにした音楽オタク・バンドの実質的なラスト/アルバム。
ELOは、エレクトロニクスを活用しながらニューウェイブのような薄っぺらなサウンドにならず、ダンス・ビートに逃げず、退屈な反復をよしとしませんでした。(全部、やってますが。)
そこにはポップ・ミュージックへの偏執的な愛とも取れるようなこだわりが感じられ、メロディやリズム、音色などの細部にまで緻密に練り上げられていました。
このアルバムは、エレクトリックな響きは抑えめで、上質なポップ・ロックが楽しめます。

5.Asia – Alpha

元プログレの一流プレイヤーが奏でる産業ロックです。
これだけ素晴らしいメンバーなのにプログレッシブでは無いという一点において認めたくない気持ちが残るのですが、音楽は最高級で否定できないのです。
大仰で気恥ずかしい作品ですが、もう「スーパー歌舞伎」のような気持ちで受け止められれば楽しめます。

これが選外?!

Peter Gabriel – Plays Live
名盤ですが、ライブだったので仕方なく選外。

Emerson, Lake & Powell – Emerson, Lake & Powell
カール・パーマーがエイジアで稼いでいたので、コージー・パウエルを呼んでみたらエイジアっぽくなって、どう評価したらいいか分りませんでした。
「火星-戦争をもたらすもの」では、バンドとしてのポテンシャルが感じられますが、全体的にはコージー・パウエルの良さにばかり耳が行きます。

The Moody Blues – The Present
ムーディ・ブルースも産業ロックへ舵取りをしたベテラン・バンドでした。
とは言っても、以前から歌心のあるサイケデリック・ロック、ソフト・ロックという感じでしたから、そんなに変わった感じはしませんでした。
リズムが強めだった1981年の「ボイジャー/海王星」がヒットしたので同じ路線かと思ったら、思いのほか初期のムーディ・ブルースのような優しい楽曲が並んでいて、これでは地味すぎでした。

Steve Hackett – Bay of Kings
リアル・タイムでは聴かなかったので、この時代とリンクしないのですが、今、むしろ良い感じです。

Barclay James Harvest – Ring of Changes
1970年代の音楽ばかりが評価されて、80年代はいなかったような扱いを受けていますが、このアルバムは悪くありません。
というか、80年代の作品は最高では無いものの、普通に良い音楽だと思うのです。

Patrick Moraz & Bill Bruford – Music for Piano and Drums
これも後になって聴いたので、1983年という感じがしないのです。
世に溢れた1983年のヒット曲が陳腐化して時代遅れになっているのに対して、この音楽は今聴いても素晴らしい音楽として楽しめます。
本来ならランクインです。なんであの頃、話題になってなかったのだろう。

Anthony Phillips : Invisible Men
ジェネシスの初代ギタリストのソロ。牧歌的なアコースティックを期待したら裏切られました。

プログレには厳しい時期でした。
そうした中で、マリリオンの登場は明るいニュースでした。
基本的に洋盤だけをセレクトすることにしているのですが、確かこの頃、日本ではNOVELA「サンクチュアリ」や美狂乱「パララックス」というプログレの名盤がリリースされていました。

アバンギャルド、インダストリアル、環境音楽などサブカル系 5

1.Psychic TV – Dreams Less Sweet

謎の宗教団体を組織したり、人体整形をしたり、音楽以外の面でも存在そのものがアンダーグラウンドでオルタナティブだったバンドのセカンド・アルバムです。
日本で入手できる情報は僅かしか無く貴重だったのですが、恐ろしいことにファースト・アルバムは日本盤「テンプルの豫言」がありました。(持ってます!)
このアルバムは輸入盤で入手したと思います。
延々と恐怖映画のBGMのような音が鳴っていて、よく分らなかったのですが、そんな分からなさを凄さのように感じていました。
そんな中でふとメロディを奏でる音楽的なものに出会うと、その時間は特別に美しいものと認識されて、折伏(しゃくぶく)されてしまうのでした。
ファーストとセカンドはよく聴きました。
洗脳されているようで恐くて美しい音楽です。

2.ART ZOYD – Les espaces inquiets 

管弦楽器を取り入れた室内楽(チェンバー)要素を特徴とする、フランスの前衛ロック・バンド。
この時期、Henry CowやART BEARS、UNIVERS ZERO、SLAPP HAPPYなんかは、輸入レコード店で見つけられれば買っていました。
このアルバムは、前年に出た2枚組「Phase Ⅳ」に続く作品で、だいぶ聴きやすくなっています。
(私がこういう音楽に慣れてきたせいかもしれません。)
それでも、生の楽器を人が演奏している身体的な面と、ノイズをコラージュするなどのデジタルな面、さらに音楽的には不協和音や変拍子が織り混ざりながら迫ってくる音楽は圧倒的です。
キング・クリムゾンでプログレの沼に落ちた私でしたが、さらに暗くて深い底なしの沼を見つけてしまったような感覚でした。
ロックの深淵に触れることができます。

Spotifyを見たら、1987年の作品になっていましたが、これは「Phase Ⅳ」と「Les espaces inquiets」の編集盤ですね、きっと。

3.Einstürzende Neubauten‐Zeichnungen des Patienten O. T.

アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンという名前の、ドイツのノイズ・ミュージック・バンドです。
エレクトリックなバンドの形を取っていますが、この頃は自作の楽器(モノを投げるとか金属を叩くとか)を即興的に演奏するパフォーマンス集団のようでもありました。
タイトルは「患者O.T.のスケッチ」。
O.T.とは、オズワルド・チルトナーという精神疾患の患者で、治療のために描いた絵が、いわゆるアウトサイダー・アート(美術教育を受けていない人のアート)として注目された人のことです。
現実音を音楽として取り入れる概念は、ジョン・ケージより前に、イタリア未来派のルイジ・ルッソロやフランスのエドガー・ヴァーレーズ、ピエール・シェフェールなどの試みがありました。
実際、未来派のマリネッティはその宣言の中で「うなりをあげて走る自動車はサモトラケのニケより美しい」と唱い上げ、人工物の轟音を賛美しました。(「未来派宣言」(1909年)は、ちょっと凄いですよ。)
ノイバウテンは異質で恐ろしいバンドでしたが、革新的な破壊者というよりは、こうしたミュージック・コンクレート(具体音楽)の流れを汲む、現代音楽集団でもあるわけです。
このアルバムでは、ノイズや声が様々にコラージュされていて、全く心地よくありません。
自分の中にある音楽という概念を再考させられる問題作です。

4.Philip Glass – Koyaanisqatsi

日本でも公開された映画『コヤニスカッツィ』の音楽。
映画は無声で、自然と人間に迫った映像は、人類が自然とどう共存するべきかを考えさせる示唆に富んだ内容でした。確か、六本木にあったWAVEの映画館で観たような・・・。
今また改めて観るべき作品でしょう。
タイトルの意味はアメリカインディアンの言葉で「バランスを失った世界」を表していました。
フィリップ・グラスは基本的には現代音楽の作曲家でしたが、この前年に出した「グラス・ワークス」によって、アンビエントやミニマム・ミュージックを好むロック系のリスナーにも知られることになります。
多作な方ですが、まず聴いて欲しいのは「グラス・ワークス」です。
「コヤニスカッツィ」は、45分程度に編集されたものと80分弱のものがありますが、聴くなら長い方です。

5.Brian Eno – Apollo: Atmospheres and Soundtracks


イーノが提唱している“アンビエント・ミュージック“の中では少々意外な位置づけの作品。
楽曲としてではなく、風や波の音のように、聴くことも無視することもできる音楽というコンセプトから、これまでの作品には演奏者の恣意的なものは排除されていました。
しかし、ここでは演奏者の存在が見え隠れしまうのです。
だからこそ聴きやすいロマンチックな作品とも言えますが、よくあるヒーリング系のBGMになってしまったと感じるところもあり、難しいところです。
それでも、フィリップ・グラスの「コヤニスカッツィ」よりは多く聴きました。

5+1.Annette Peacock – Been in the Streets Too Long

彼女のことは1970年代後半のアルバムで初めて知って、それ以来、見逃してはいけない才能のような気がしていました。
本当に理解しているのか、本心から好きなのかは今でも分らないのですが、知的好奇心もあって、アートな気分に浸りながら聴いていました。
ローリー・アンダーソンやビヨークが現れる前に、すでにこういう女性がいたのです。

これが選外?!

Sonic Youth – Confusion Is Sex
ソニック・ユースは選外にしてはいけないアーティストだとは思うものの、他が強くて・・・。
グランジの父のような評価をされていますが、この頃は完全にアンダーグラウンドなオルタナです。

Rip Rig & PANIC Attitude 
アバンギャルド・ジャズや第三世界の音楽をミックスした無国籍な音楽が新鮮だったバンドのラスト・アルバム。
前2作のインパクトが大きかったせいで選外にしてしまいましたが、得体の知れないパワーを持ったバンドでした。

DNA – LAST LIVE AT CBGB
アート・リンゼイのいた、ニューヨークの変態バンド。
これはライブ盤ですが、狂ってます。

SWANS – Filth
アメリカのノイズ・ミュージック・シーンに現れた驚異の新人でした。
今も尖ったまま活動しています。
このアルバムは、アート・ワークが嫌で買いたくありませんでした。

Cabaret Voltaire The Crackdown
インダストリアル系ではダークでアンダーグラウンドな立ち位置にいたキャバレー・ヴォルテールの5作目。
バンドのことは気になっていましたが、このアルバムには惹かれませんでした。

Tangerine Dream – Hyperborea
ドイツのシンセサイザー・ミュージックと言えば最初に名前があがるほどのバンドですが、これは東洋趣味を入れたり音楽的な作りで聴きやすくしたのでしょうが、私としてはリスナーに迎合したような感じがしてダメでした。

ジャズ・フュージョン・ファンク・ワールドミュージック 10

1.Herbie Hancock – Future Shock

ジャズ・ピアニストのハービー・ハンコックは、70年代にはエレクトリックなキーボードを使ったアプローチをしていましたが、それでもこのアルバムは世間を騒がせました。
個人的には、音楽としての先進性や楽曲としての良さは感じていませんでしたが、ビル・ラズウェルが協力していたことが興味深かったですし、ジャズ・プレイヤーが打ち込みのドラムとシンセ・サウンドにスクラッチを組み込んで近未来ファンクを展開する大胆さに感心しました。
「Rockit」「Future Shock」はシングル・ヒットしました。

2.John McLaughlin – Music Spoken Here

偉大なギタリストと言えば名前があがる名ギタリストが、マハヴィシュヌ・オーケストラとは別に発表した前衛的なソロ・アルバム。
エレクトリックな音も用いながら、縦横無尽に高速フレーズを弾きまくります。

3.Al Di Meola – Scenario

ジョン・マクラフリンだけでなく、アル・ディ・メオラもソロを出した年でした。
ヤン・ハマー、フィル・コリンズ、ビル・ブルーフォード、トニー・レヴィンなど、ロック好きな人も気になるアーティストが参加しています。
超絶プレイをそうと感じさせずにサラリとやってのけている感じで余裕が感じられます。
ヤン・ハマーのプレイを許せるかどうかですね。

4.Miles Davis – Star People

ジャズの帝王、マイルス・ディビスが、腕利きのミュージシャンと繰り広げる前衛ロックの世界。
おそらくマイルス好きには辛い点数が付けられてしまうかもしれませんが、若いノー・ウェイブ系の連中を凌ぐ破壊力と音楽性がります。
ちなみに他のメンバーは、ジョン・スコフィールド、マーカス・ミラー、ビル・エヴァンスなどです。
これが名盤として挙がらないなんて、マイルスはいったいどんだけ凄いんだって話しです。

5.6.Keith Jarrett – Standards, Vol. 1-Vol.2

キース・ジャレットがトリオで出した傑作2連作。
全ての音が美しくて、胸がキュンとなります。
レビュー不要の、名盤です。
ポストパンクなんて、どうでも良くなってしまいます。

7.Weather Report – Processio

歴代のメンバーを挙げるだけでビビってしまうほどのスーパージャズ・フュージョンバンドの12作目。
名手ジャコ・パストリアスに代わったヴィクター・ベイリーのプレイはジャコの穴を埋めたというレベルではなく素晴らしいものでしたし、ピーター・アースキンに代わって入ったオマー・ハキムのドラムもエレクトリックなジャズに合っていました。
ウェザー・リポートの作品は全てが名盤ですが、このアルバムでも素晴らしい音楽を体験できます。
ホントに前衛ロックとかより、ずっとハラハラ・ドキドキします。

8.Wynton Marsalis – Think of One

けっこう聴きました。
エレクトリック系のジャズやファンク、フュージョンに対して、これぞジャズという感じがして、大人を感じていましたが、実は私と同世代で、このときは若干22歳でした。
技術をアピールするかのようなプレイも勢いがあって素晴らしいです。

9.Ryuichi Sakamoto – Merry Christmas, Mr. Lawrence

デヴィッド・ボウイが出演しているのに、ボウイでは無くデヴィッド・シルヴィアンが「禁じられた色彩」を歌っていて、それがまた最高にマッチしています。
表題曲と「禁じられた色彩」だけでもランクインできそうですが、他の曲も前衛音楽として十分魅力的です。
どうしても映画のインパクトが強くて、音楽的な評価をしにくい作品にはなってしまいました。

10.George Benson – In Your Eyes

中学生の時に、「ブリージン」を友人の家で聴いて気に入ったアーティストでしたが、レコードを購入する優先順位には組み込まれていませんでした。
歌うようになってブラック・コンテンポラリーの重要人物となると、ディスコ・ブームに乗ってヒットに恵まれます。
このアルバムは、ノリノリだった時にフュージョンやAOR系の一流ミュージシャンを集めて作られただけあって、非常にお洒落で上質な出来で好きでした。

これが選外?!

UB40 – Labour of Love
こういうのは80年代っぽいですね。
あの時代に流行ったカフェ・バーとかで「レッド・レッド・ワイン」は良くかかっていました。
懐かしいですが、カバー・アルバムですし、他が強すぎるので選外でした。

Larry Carlton – Friends
リアル・タイムで聴いた時はスルーしてしまい印象に残っていなかったのですが、あらためて聴くと超一流のメンバーを揃えているのに力まず自由にやっている感じは心地よいです。
このレベルでも、及第点になっちゃうのですから、他が凄すぎ。

Milton Nascimento – Ao Vivo
ミルトン・ナシメントのベスト盤的なライブ。
ガル・コスタとのデュエットは聴きどころです。
リアルタイムではなく、随分あとになってから聴いたこともあり選外でした。

40年前の名盤との再会

40年前の1983年は、様々な音楽が大量生産されては消費されている時代でした。
廃れてゆく音楽ジャンルがある一方で、新しい潮流も数多く生まれました。
ジャンルを越境し、国や文化や時代も超えてクロスオーバーする音楽を、若い私たちはファッション的に受け入れました。
大きな流れとしては、アメリカのダンス・ミュージック、イギリスのニューウェイブがあり、いずれもテクノロジーの進化がカギを握っていました。
アーティストが個性を競いあうように、プロデューサーの音作りや音楽レーベルのセレクションも特徴的なものがありました。

今、40年前を振り返ると、当時は先鋭的であったものが時代を経て古臭くなっていたり、今でもカッコ良かったり、当時は良いと思わなかったものが今では逆に素晴らしく思えたりするから面白いです。

あの当時、個人的に思入れが強いのは、アバンギャルドとネオアコでした。
アバンギャルド系は、さすがに今は聴かないですが、アンビエントは今もかけますし、ジャズ系はむしろ今の方が聴くくらいです。

セレクトにあたっては、CDラックからピックアップしたあとに、Spotifyでリリース年を確認しながら進めました。当時はレコードがメインでしたので、CDとして買い直していないものも多く、それらは記憶に頼りました。
本当はランキングに入れたかったものが、1982年や1984年だったり、実は全然前だったり後だったということもありました。

実際には50選ではなく、10以上オーバーしているのでタイトル詐称です。スイマセン。

50周年、30周年をセレクトした時と明らかに違うのは、聴いている量でした。
大量に、幅広いジャンルの音楽を聴いていました。
ミュージック・ビデオが作られるようになり、「MTV」や「ベストヒットUSA」で洋楽に触れることが一般的になりましたし、街にも洋楽が溢れていました。
代々木や渋谷の輸入レコード店をよくはしごしていましたが、HMVなどのレコードショップが海外のマイナーなレーベルを紹介するようなこともありました。
僅かな期間ながら、アルバイトで雑誌のレコード・レビューを書くなんてこともさせてもらいました。
報酬はレビュー用に録音されたカセットだけでしたが、それでもタダで誰よりも早く音楽を聴けるのは嬉しいと感じていました。

このセレクトは楽しい時間でしたが、けっこう時間がかかってしまったので来年もやるかどうかは思案中です。。。

投稿 2023.12.23
編集 2023.12.25

Photo by miguel sousa – unsplash

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