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『BRUTAL YOUTH』 ELVIS COSTELLO

音楽

『ブルータル・ユース』 エルビス・コステロ 199年

エルビス・コステロのアルバムについて触れたここ2回のコラムで、ポスト・パンクやミスチルのワードを出してしまいましたが、そうなると思い出すのがこの「ブルータル・ユース」です。

もう、1曲目の出だしから桜井さんかというヴォーカルが唸っています。
こうなってくると、もうエルビス・コステロの方がミスチルを聴いているに違いないと思えてきます。

前年に制作された「ジュリエット・レターズ」(名義は、ELVIS COSTELLO & Brodsky Quartet)が、著名な弦楽四重奏楽団の演奏に合わせて「ロミオとジュリエット」をテーマに歌うという問題作でしたので、その反動はあったのではないかと思えます。
(私は嫌いではありませんでしたが、コステロでなくても良かったとは思います。コステロでなかったら聴いていない、とも言えますが・・・。)
この「ブルータル・ユース」は、アトラクションズでバンド・サウンドを展開していた頃のような、勢いを感じさせてくれる作品です。

オリジナル・アルバムとしては15作目で、この頃、彼は40歳前後でした。
デビュー当時のような若々しいバンド演奏を展開する一方で、しっとりとしたスロー・ナンバーも織り交ぜてくるあたり流石です。
歌詞の中には、恋人ではなく子供に語り掛けるものがみられました。

ポスト・パンクの流れで、世の中の欺瞞に怒りを表して、同世代の評価を獲得してきた彼が今、若いころに反抗していた大人達と同じ世代になって何を歌うのか。
やはり、社会に対する問題提起をするのか、ロックを聴かなくなった若い世代へ小言をぶつけるのか、老いが近づいている命に関心が移るのか・・・。

このアルバムは、ファンが待ち望んだサウンドで作られてはいます。
楽曲の出来も、演奏も、歌も申し分ありません。
全てが高いクオリティを維持していると思います。
中盤のバラードなどはメロディの切なさに胸が痛みます。

にもかかわらず、私にはどこかアルバムとしてのまとまりの悪さを感じてしまいます。
単純にバンドで演奏している曲とそうでない曲のイメージが違い過ぎるからなのか、もっと内面的な理由なのかはっきりしませんが、なんとなく彼がロック・アーティストとして岐路に立っている中途半端さを感じてしまったのです。

若いころに犯した過ちや傷つけてしまった人の思い出は、美しい過去になどならずに、初老になろうかという私の心を今も苦い痛みで満たします。
かつて残忍なる若さを生きた世代は、今若さを謳歌する者に何を語ることがあるでしょうか。
願わくば、まだ私自身の中に燃え残る残忍な若きロック・スピリットは失われませんように。

Spotifyでは、ELVIS COSTELLO で検索するのと ELVIS COSTELLO & ATTRACTIONS もしくは ELVIS COSTELLO & THE IMPOSTERS  ELVIS COSTELLO & Brodsky Quartet で検索するのでは、内容が変わってしまいますのでご注意を。

投稿:2020.6.27
編集:2023.11.4
 

Photo by juan pablo rodriguez – Unsplash

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