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『To The Faithful Departed』The Cranberries

音楽

『トゥ・ザ・フェイスフル・ディパーテッド~追憶と旅立ち』 ザ・クランベリーズ 1996年

シンプルなエレキギターのアルペジオから一転、意外なほど重い低音を効かせたコード・ストロークで幕を開ける1曲目の『Hollywood』。
デビュー・ヒットした『Dreams』や『Linger』をイメージしていると、いきなり驚かされます。
サビ部分のドロレス・オリオーダンのボーカルは、がなり立てているような荒々しさです。

魅力的な女性ボーカルを擁するバンドは往々にして、ソロ歌手とサポート・メンバーのようになってしまいがちですが、クランベリーズはバンドとしてのバランスが良く、とてもまとまっている感じがします。

このアルバムでは、そうしたバンドとしての音を聴かせてもらえます。
激しいロックからキャッチ―なポップ、アンビエントな雰囲気さえ漂わせるスロー・ナンバーまで、1枚のアルバムの中に様々な曲が違和感なく並び、曲の良さと演奏の確かさ、そして曲に合わせて変化するボーカルが楽しめます。
中には「ちょっとやり過ぎかな」と思えた部分もありましたが、それも含めてバンドの個性でしょう。

この時代は、マライア・キャリーセリーヌ・ディオンホイットニー・ヒューストンなどの、ディーヴァと呼ばれるような強力な歌姫たちが大活躍していました。
この時代の女性ボーカルをリアル・タイムで聴いていた私としては、正直なところドロレスよりもアラニス・モリセットシェリル・クロウの方が気になっていました。

ドロレスのボーカルが好きかどうかで、バンドへの評価が分かれるのは仕方がありません。
しかし、同時代の個性的な女性ボーカリストがソロ・アーティストとして光を放っていたのに対して、クランベリーズはあくまでバンドとしての魅力を失わずに活動できていたと思えます。

このアルバムからはヒット・シングルは生まれませんでしたが、『Salvation』『Warchild』『I Just Shot John Lennon』『Bosnia』などで社会的・政治的な問題意識を歌ったことは物議をかもしました。
もちろん前作『No Need To Argue』収録の『Zombie』(動く死体ではなく、暴力的な思考や行動をする者たち、のような意味)が賛否を巻き起こし、一定の評価を得たことは大きかったでしょう。
ぜひクランベリーズは歌詞にも関心を持っていただけると良いと思います。

今、改めてクランベリーズを聴いて、その音楽の豊かさを再発見したように思います。
2018年にドロレスが亡くなったことで、クランベリーズはその活動に幕を下ろします。
バンドにとっては、余人をもって代えがたいボーカリストでありました。
R.I.P.

投稿:2020.4.25 
編集:2023.10.28

Photo by jed villejo – unsplash

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