『月影の騎士』 ジェネシス 1973年
CDは持っていたものの、ジャケットがモヤモヤしていてあまり好みでは無かったせいで、ちゃんと聴いたのはずいぶん大人になってからでした。
若い時に気付けていなかったのは残念でした。気づけていたら、これが私にとってのジェネシス・ベスト・アルバムになっていたかもしれません。
バンドとしては5枚目のアルバムで、これまでのどの作品よりも個々の曲や演奏のクオリティが高く、今の耳でも聴きやすいです。
上手くなったという言い方をすると、なんだか褒めていないように聞こえてしまうかもしれませんが、抒情性も演劇性も成長が感じられます。
それでもなんとなく前2作よりも印象が薄いのは、バンドとしてのまとまりが良くなった半面、ピータ・ガブリエル(Vo)の個性が薄まったように感じられるせいでしょうか。
または、アルバム全体を貫くコンセプトが無く、怪奇性が薄まったからかもしれません。
音楽的には、ピーター・ガブリエルの素晴らしさは言い尽くされているので置いておくとして、ここへきて、フィル・コリンズ(Dr)の貢献が顕著になってきたように思えます。
スティーブ・ハケットのギターは相変わらず美しいです。
そして、そんなバンドとしての完成度の高まりを感じる中にあっても白眉なのは、トニー・バンクスのキーボードではないでしょうか。超絶技巧のスーパープレイをやってのけるということではないのですが、選ばれた音のひとつひとつ、メロディの連なりが心に響いてきます。
初期ジェネシスのアルバムで、聴き終えた時に最も心に残ったのがピータ・ガブリエルのボーカルでは無かったというのは、このアルバムだけです。
それほどに『The Cinema Show』のキーボード・ソロにはやられました。
アルバムとしては思い入れが少なかった『月影の騎士』ですが、改めて聴いてみると素晴らしい傑作でした。
ジェネシス『月影の騎士』は、シアトリカルな魅力で他のバンドと差別化されたポジションを確立したひとつの完成形であると同時に、毒気のある演劇性を嫌う人にとっても聴きやすいプログレ・アルバムと言えそうです。
投稿:2020.3.28
修正: 2024.6.7
Photo by Lance Grandahl – Unsplash
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