『ハート・ミー』 ジョニー・サンダース 1984年
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを継承するバンドとして、テレビジョンやトーキング・ヘッズは思い浮かぶのですが、私の中でニューヨーク・ドールズは挙がりません。
これはおそらく、私の中でニューヨーク・ドールズは「病んでない」と感じているからです。
タイプこそ違えど、テレビジョンもトーキング・ヘッズも、世の中の人とチューニングが合わなくて心を壊してしまうような不器用さを感じます。
社会不適合な自分を恥じ、本当の自分を隠しながら生きているのに、音楽から狂気が漏れ出してしまっている。
この、多くの人が行き交う都会だからこその孤独と、何かのきっかけで目覚めてしまいそうな気弱な狂気は、ヴェルヴェッツを継ぐ者には必須な要素だと、勝手に思っていたわけです。
一方で、ニューヨーク・ドールズのぶっ壊れ感は確信犯な匂いがするのです。
病気だとしたら仮病です。
おかしな恰好はしていても、実は社交的で世渡りだって上手い方です、きっと。
音楽についても、私の中では、スレイドやゲイリー・グリッターのおバカ系グラム・ロックとかパーティ・ロックに分類されています。
テレビジョンがデビューした年には解散していましたし、その後のザ・ハートブレーカーズはロンドンが活動拠点でしたから、ニューヨークでもなく・・・。
あの時代に実際のライブを経験したら、違った印象を持つのかもしれませんが、あまり情報が無かった時代でもあり、私の中のニューヨーク・ドールズは、ヴェルヴェッツとは意識の中で分類が違っていました。
ひょっとしたら、ラモーンズやテレビジョンにとって、ニューヨーク・ドールズは、破天荒なロックン・ローラーとして憧れの存在だったかもしれません。
でも、不器用で社交性のない連中は、あんなキラキラしたスターにはなれないのです。
教師とも仲良くやれてしまう不良と、クラスで同級生からも孤立するオタクみたいなものでしょうか・・・。
ただ、私はグラム・ロックが大好きですし、ニューヨーク・ドールズ も ザ・ハートブレーカーズ も大好きです。
それにしても、ジョニー・サンダースはニューヨーク・ドールズで女装まがいの格好をしてグラム・ロックっぽいことをやっていたのに、ロンドンでパンク・バンドを始めてヒット曲まで出してしまえたのは、なんだか不思議です。
当時のイギリスのパンク・ファンは、否定的に捉えなかったのでしょうか・・・?
ジョニー・サンダースは、おそらく生粋のミュージシャンで、ギタリストで、ロック・スターだったのでしょう。
ステージがカッコ良ければ全て良し、だったのではないかと。
このへん、詳しくないので改めてCDラックを見てみたのですが、「ジョニー・サンダーズ&ザ・ハートブレーカーズ」のCDが見つかりませんでした。
訳知り顔で書いてきましたが、どうやらパンク系のコンピレーションもののCDで聴いていただけのようです。
代わりに出てきたのが、ジョニー・サンダースのソロ「ハート・ミー」です。(前置きが長すぎですね。ホント、スイマセン。)
全19曲、1時間弱のボリュームを、アコースティック・ギターの弾き語りだけでやり切っています。
ボブ・ディランの曲を2曲歌っていますが、基本的には自身の曲で構成されています。
選曲にはこだわりがあったようで、キャリアのヒット曲をアコースティック・アレンジにして稼ごうというものにはなっていません。
ただ、本当に地味に弾き語っているだけなので、なかなかなファンでないと、集中力が切れて聴き流してしまいそうです。
1曲目の「サッド・ヴァケイション」は、
親しかったセックス・ピストルズのシド・ビシャスのことを歌っているそうです。
歌い出しの
「I’m sorry I didn’t have more to say
Oh Maybe! I could’ve changed your fate
Oh You were so misunderstood
Oh You could’ve been anything you wanted to」
という歌詞は、英語力の無い私でも泣けてきます。
こんな歌を歌った彼も、38歳の若さでこの世を去ります。
もしも興味を持っていただけたなら、この音楽と向き合える時間をなんとか確保していただき、バーボンなんかも用意して、歌詞カードを片手にゆっくり楽しんでみてください。
CDが終わりに近づくころには、いい感じで酔えていると思います。
Spotifyでも聴けます。
なぜか、曲数が増えていて、アコースティックではない曲も入っています。
読み返して思ったのですが、これって、ジョニー・サンダースが、もとはニューヨーク・ドールズのギターとヴォーカルをやっていて、その後にロンドンへ渡ってパンク・バンドに転身したっていう情報の下地が無いと、読んでても意味が分からないですよね。
あのニューヨーク・ドールズの! あのハート・ブレイカーズの! あのジョニー・サンダースが、なんとアコースティックの弾き語りアルバムを出した! ってことが、まず最初にセンセーショナルな情報だったのに、全く触れないまま書き終えてしまいました。
文中に入れるのは、大変なので、ここで補足しておきます。
まったく、不親切ですね。スイマセン。
投稿:2020.6.11
編集:2023.11.15
Photo by Mitchell Hollander – unsplash
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