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『RAMONES』 RAMONES

音楽

『ラモーンズ』 ラモーンズ 1976年

やったもん勝ちである。そして、やり切ったもん勝ちなのである。

ラモーンズがデビューする前年の1975年、ベトナム戦争が終結しました。
時代は複雑さを増し、価値観が混沌とする中にあった多くのアメリカ人は、3つのコードをかき鳴らすシンプルでストレートなラモーンズのパンク・サウンドに心を刺激されました。
その単純明快な刺激はとても強かったので、当時の人々は、熱狂するか徹底的に拒否するか、どちらかだったことでしょう。

ラモーンズは、このアルバムでデビューしてから約20年の活動期間で、14枚のスタジオ・アルバムを出しています。
「ロックの殿堂」入りしているだけでなく、「歴史上最も偉大なロック・アーティスト」にも選出されるような凄いバンドです。

しかし正直に打ち明ければ、ティーン・エイジャーだった私には、何が良いやらさっぱり分かりませんでした。
いや、これほど高い評価を得ているバンドが悪いわけはありません。
これは聴く側の私に何か問題があるに違いありません。

彼らがデビューした頃、私は田舎の砂利道を歩いて通学する小学生でした。
ラジオでは「コッキー・ポップ」という番組で中島みゆきが「時代」を歌い、学校では「泳げたいやきくん」体操なるものを踊らされていました。
アメリカのパンク・バンドのことなど知る由もありません。

高校生になって、セックス・ピストルズからの流れでラモーンズを知ることになるわけですが、ファッションも演奏もキャラクターも、セックス・ピストルズの方に軍配が上がります。
ツンツンと逆立てたモヒカンにラバー・ソウル、安全ピンを顔に突き刺したロンドン・パンクに対して、反抗のファッションとしてジーンズと革ジャンではダサすぎです。
あの頃の日本で、そんなカッコをしているのは、横浜銀蝿くらいです。
ラモーンズって、パンクとかって言って悪そうにしてるけれど、実は良い人たちなんじゃないの疑惑が沸き起こります。

アルバム・ジャケットのアート・ワークも、好みではありませんでした。
ファースト・アルバムのジャケットは、一部ではカッコいいと思われていただけに恐ろしいです。

唯一、可愛いと思えたのは、メンバーの名前を全員、なんとかラモーンにしていた点です。
「僕、ジョーイ・ラモーン。私は、ジョニー・ラモーン。おいらは、ディー・ディー・ラモーン。そして俺様はトミー・ラモーン。4人合わせて、ラモーンズでーす。」という、これは今でも通用しそうなアイデアです。

そんなわけで、ラモーンズは、ロンドン・パンクよりもダサくて、ニューヨーク・オルタナティブのヴェルヴェット・アンダーグラウンドよりも良識人というレッテルが私の中で貼られてしまったのでした。

全て私の勝手な思い込みであり、あの頃は正しくラモーンズを聴いていなかったことを認め、今、改めて自分の持っているアルバムを聴き直すことにしました。

まず、80年代最初に出た「End of the Century」は、バンドとしての成長が感じられ、楽曲の出来が良かったアルバムでした。
このアルバムはとても売れたそうです。
でも、中にはアイドル・ポップまがいの曲まであって、ラモーンズは終わったと思わせられたのを思い出しました。
今聴いても、どういうコンセプトなのか分かりません。

次に、80年代最後の「Brain Drain」は、なんだか恐ろし気なイラストのジャケットで、ダイナソーJr.みたいだなと興味がわいて購入したのですが、肝心の中身は全く覚えていませんでした。
改めて聴いてみると、ギターがアルペジオを弾いたり、メンバーがコーラスしたりしていて、メロディを大切にするハードロック・バンドのようでした。

そして 90年代の「Adios Amigo」(実質、ラスト・アルバム)は、私の好きな画家のマーク・コスタビがアルバム・ジャケットをデザインしていましたので(音楽とはマッチしてませんが)、食指が動きました。
音楽的には、シンプルなパンクが復活した上に、演奏が上手くなり、サウンドは垢抜けて、小綺麗になっていました。
結果、パンクっぽさは薄まっているのですが、聴きやすいことは間違いありません。

他は聴いていないので何とも言えませんが、時代とともに、その道のプロが音に手を加えて、出来のいいアルバムが作られたようです。
ただ、基本的に難しいことはできないので、演奏はシンプルなパンク・スタイルを貫いていた、という姿が見えてきました。
やっぱり、悪そうにしていても、根は良い人達なのです、きっと。

今の耳には、新しいアルバムの方が聴きやすいですし、音楽的にもクオリティが高いと思えます。
しかし、彼らは上手さで評価されるバンドではありません。
彼らのスピリットが最もパワフルで純粋に輝いていたのが、このファースト・アルバムであることは疑いようがありません。

ダサいほどに単純で、真っすぐで、飾らない楽曲。
下手だけど、決して不真面目ではない演奏。
どれを聴いても同じに聴こえるほど、ブレないスピリット。
これぞアメリカン・パンク。
(やっぱり、いじってるやんか・・・。)

あの時代にアメリカでラモーンズを体験することができなかった私としては、周辺情報をかき集めて、想像して、改めて自分に問うてみます。
ラモーンズが好きなのか、好きではないのか。
もう音楽の話しでは無く、生き様の問題のような気がしてきました。
彼らは、やり切ってますから。

投稿:2020.6.8
編集:2023.11.15 

Photo by Reid Zura – unsplash

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