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『THE DARK SIDE OF THE MOON REDUX』Roger Waters

音楽

『ザ・ダーク・サイド・オブ・ザ・ムーン リデュクス』ロジャー・ウォータース 2023年

50周年にあたって最も大きな話題である、ロジャー・ウォーターズによる再解釈版『THE DARK SIDE OF THE MOON REDUX』がリリースされました。

私の人生において、最も影響を受けた音楽のひとつは、ピンクフロイドが1973年にリリースした『THE DARK SIDE OF THE MOON/狂気』でした。
衝撃でした。

しかし、実はリリースから50周年を迎える今年、いろいろなイベントが催されたりしていますが、それらにはあまり関心はありません。
あの頃と同じような感動をもたらしてはくれないことは、もう分っています。
私自身も年を重ねて、感受性も昔と同じではありません。

ロジャー・ウォータースが脱退して以降、デヴィッド・ギルモアが率いて活動していたピンク・フロイドは、高いクオリティのアルバム制作とライブを行っていたと思います。
しかし、私としては2017年の「LIVE AT POMPEII」以外は、あまり思い入れを持てずにいました。

一方で、ニック・メイスンが郷愁にかられて行っていたサイケデリック時代のピンクフロイドを演る「ニック・メイスンズ・ソーサ―フル・オブ・シークレッツ」には面白さを感じていました。

そして、思想の全てに共感ができなくても、日本が嫌いでも、ロジャー・ウォーターズのクリエイティビティには期待し続けていました。
実際に、2017年のアルバム「Is This the Life We Really Want?」は良い出来でしたし、2022年からのツアー「THIS IS NOT A DRILL」は最新の表現技術を駆使したアーティスティックなショウで、規制される(?)前はYoutubeでいろいろと観て凄さを感じていました。

ロジャー・ウォーターズが『THE DARK SIDE OF THE MOON』を再録音するという話しは、けっこう前から噂になっていました。
コロナでステイ・ホームだった時期に、リモートで過去曲をセッションしていて、この出来がなかなか良かったのです。
この試みは、若いアーティストとの化学反応を感じると共に、彼自身の内省を深めることにもなったことでしょう。

『THE DARK SIDE OF THE MOON』を再録音しようと考えた経緯などについては、彼自身が語っているものが出ていると思いますので、ここでは触れません。
あくまで作品として『THE DARK SIDE OF THE MOON REDUX』を聴いて感じたことを書きたいと思います。

彼は今年(2023年)、80歳になりました。
人生を総括する上で、30歳の時に提示した『THE DARK SIDE OF THE MOON』を改めて解釈したくなったということであれば、ファンは注目せずにはいられません。

『THE DARK SIDE OF THE MOON』は偉大な作品過ぎて、それを本人が作り直すというのは、パンドラの箱を開けるようなものでもあります。
単なるリマスターでは肩透かしですし、作り直すと言うからには過去作とは違う解釈が与えられないと意味がありません。
オリジナルのサウンドの要であった リック・ライト や デヴィッド・ギルモア の”らしさ”は絶対に持ち込まないでしょう。
おそらく、新しくても新しさが無くても、何をやっても賞賛と批判の両方を浴びてしまうでしょうが、多くのオールド・ファンは過去を否定して欲しくは無いというところに本音があるでしょう。

私にとってオリジナルから受けた衝撃と感動がとてつもなく深かったことは間違いなく、再びそうした音楽体験ができることを期待したい気持ちはあります。
ですが、ここでは過去作に囚われるのはやめましょう。
先入観や方向性の定まらない期待など、持つべきではありません。

そしてついにアルバム『THE DARK SIDE OF THE MOON REDUX』はリリースされました。
昔、箱買いして取っておいたワインを開けて飲みながら聴こうと準備は万端です。

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最初に聴いた時は、失望しました。
「これは、ポエトリー・リーディングだ」「自己満足もここまで来たら、人に聴かせる価値はない」「哲学的であるかもしれないが、これは音楽的ではない」などの言葉が頭に浮かびました。

ジャケットのデザインからして、ちょっと違うなという感じです。

コロナ時期のリモート・セッションや、それをアルバム化した「THE LOCKDOWN SESSIONS」のような感じになるのではないかと想像はしていましたが、実際にはそれ以上でした。
これが老境に達したということでしょうか。
もう、脂っこいものは胃もたれするし、味付けの濃いものは口に合わないのでしょう。
それにしても、ここまで削ぎ落せるというのは、彼がオリジナルの制作者だったからこそでしょう。
他の人がやったら、袋叩きにあいそうです。

私がワインを飲みながら聴きたかったのは、こういうのでは無くて、もっと情緒を刺激するようなものだったようです。
どうやら、過去作に囚われていたのは私自身でした。


少し間をおいて、何度か落ち着いた時間に聴き直してみました。
すると、最初の印象は少しずつ変化してゆきました。
意外と、しっくりくるシーンがあるのです。
だんだんと悪くないと思えてきました。

時間の流れは弛緩し、ピッチは下がり、音数はミニマム。
その代わり、思慮深く、丁寧に奏でられた音が、自然音のように鳴っています。
かつて、感情をかき乱し、深い感動を与えてくれた音楽は、今、静的でフラットなものに生まれ変わりました。

ミニマル・ミュージックや環境音楽などと比べれば、作家の作為は明確にあり、十分に音楽的です。
英語が聞き取れないのもちょうど良かったかもしれません。
何度も何度も聴いてきた音楽ですから、そのフレーズひとつひとつに、心が反応します。
なんだが、聴く度に感傷的な気分が深まってきました。

だからと言って、純粋に今の若い人がコレを聴いて共感することは無いと思います。
タイトルにREDUXとあるように、あくまでオリジナルがあった上での再解釈版です。

オリジナルを味がなくなるまで噛みしめたファンにとっては、やっぱりこれはアリです。
今後は、オリジナルよりもこっちを聴くことが多くなる気さえします。

投稿:2023.10.23

Photo by antonio lapa – unsplash


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