『幻の映像』 P.F.M. 1973年
P.F.M.と言えばコレというアルバムです。
プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ (Premiata Forneria Marconi)というのが正式名称ですが、世界的にピー・エフ・エムで通っているらしいのでイタリア名で覚えなくても大丈夫です。
私が中学生の頃、洋楽と言えばイギリスかアメリカのもので、他の国にロックがあるなんて、ましてそれぞれの国によって違った魅力があるなんて、考えが及んでいませんでした。
せいぜい、「実はABBAはスェーデンのグループなんだぜ」というくらいのものです。
その後、ヨーロッパっていうバンドもスェーデン出身だとか、UFOのマイケルジェンカ―はドイツ人だとかいう頃には、さすがに英米以外にもロックがあるのは分かっていましたが、まだまだイタリアは遠い国でした。
昔、レコードを買うというのは、ちょっとした賭けでした。
何せ情報がありません。
レコード・ショップに視聴機なんていうものは無く、テレビやラジオで見聞きしたことがあるならまだしも、日本で紹介されることの少ないバンドは、音楽雑誌からの情報やレコードについている解説、そしてジャケットのセンスが頼りだったわけです。
プログレの場合、メンバーが移動することで、前にいたバンドや移ったバンドに興味を持つということはけっこうありました。
ただ、キング・クリムゾンのピート・シンフィールドが英語の歌詞を書いたとか、ELPのマンティコア・レーベルからリリースされたとかという程度では、まだP.F.M.は情報不足で推しが弱かったのでしょう。
当時は少ない軍資金の中で他に優先して手に入れなければならないレコードがあり、このアルバムを手に入れたのはCD化されてからでした。
実際に聴くまでは、ずいぶん時間が経ってしまいましたが、もっと早くに出会っていたら、間違いなくその瞬間に恋に落ちていただろうに、と思わずにいられません。
P.F.M.は、イタリアのロックを語るうえで最重要バンドのひとつです。
改めてCDを聴き直して、「やはり世の音楽ファンの評価は間違っていないんだな」と思えました。
曲は複雑な展開を見せても構成がしっかりしていて破綻せず、抒情的なメロディが感情を刺激し、何より鳴っている音が美しいです。
この『幻の映像』は、イタリアで注目され始めた彼らを世界に売り出すために、初期2作を編集して1枚ものにすると同時に、いくつかの曲を英語に直してリリースされました。
正確には、前作『Per Un Amico/友よ』からは、曲順は変わっていますが全5曲が採用されています。
さらにその前の『Storia Di Un Minuto/幻想物語』から1曲、インストの新曲1曲という内容です。
1曲目の『人生は川のようなもの』は、アコースティックな入りから急にバンド・サウンドに変化する展開です。
こういう曲なのかと思いきや歌パートで雰囲気を変え、さらにさらにと目まぐるしい展開をみせます。永遠に鳴っていて欲しいと思うようなメロトロンの調べに浸っていると、ちょっとあっけない感じで曲が終了します。
この曲はアルバムの最後にして、ラストももっと余韻を楽しめるようにしてくれたら、というのは余計な感想ですね。名曲です。
どの曲も素晴らしい内容なのですが、もう1曲お勧めするとしたら、5曲目の『il banchetto/晩餐会の三人の客』を聴いていただけたらと思います。
タイトルからも分かる通り、この曲だけイタリア語のまま歌われていて、イタリアン・プログレが堪能できます。
P.F.M.の『幻の映像』は、リリースから半世紀が経つ今においても心に切なく響く美しい音楽であり、プログレ好きにはたまらない必聴の名盤です。
最後にこんなことを言うのもどうかとは思いますが、イタリア語が良いです。
この世界観が気に入る方は、ぜひ前2作の『Storia Di Un Minuto/幻想物語』『Per Un Amico/友よ』も聴いてみてください。
イタリアン・プログレには、P.F.M.以外にも良いバンドや名盤がありますので、またご紹介できたらと思います。
投稿:2020.3.28
修正:2023.2.19
Photo by Annie Spratt – Unsplash
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