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『THE STEVE HOWE ALBUM』 STEVE HOWE

音楽

『ザ・スティーブ・ハウ・アルバム』 スティーブ・ハウ 1979年

スティーブ・ハウが、31歳くらいのときの作品。
イエスが1978年に『TOMATO/トーマト』と1980年に『DRAMA/ドラマ』を出す間にリリースされました。
バンドが大きな変革を行ってゆく中、自己を見つめ直すために作られた自己修復療法アルバムと勝手に解釈しています。


事業改革を訴える創業者、退職者と人員補充が繰り返され、声の大きな人ばかりが評価されるような会社で、「お仕事はちゃんとやりますから、自分のやりたいことは副業でやらせていただきます」と宣言した感じでしょうか。
このアルバムには、彼の音楽的趣味嗜好がバラエティ豊かに閉じ込められています。

非常にプライベートな作りで、聴く人に声高に迫ってくるような迫力はありません。
エレキ・ギターは使われていますが、コードをガチャガチャとかき鳴らしたり、シンプルなリフを何度も繰り返すようなこともしていません。
1曲目「優勝旗」は激しめのスタートを切りますが、あっという間に伸びやかなスライドギターで緊張は緩和されます。ロックっぽいのはこの曲だけなのに、オラオラと弾き切った感はありません。
その後はカントリー風だったりクラシック風だったり、彼の引き出しをいろいろ開けて覗かせてくれるような楽しさが続きます。
ほぼ全曲インストなのは、歌っていた前作の『Beginings/ビギニングス』よりもむしろ好感が持てます。

このアルバムを聴き進めて行くのは、家を建てた友人に招かれて各部屋を案内されるような感じです。
主人の一貫した好みは反映されているものの、それぞれの用途に合わせて各部屋には工夫が施されている。
取り立てて珍しいものでなくても、大切にされているような装飾品があり、そこそこセンスの良さも感じられる。
「いいお家ですね」と納得感を持って微笑ましく伝えることができる。
(まあ、私が住むわけではありませんし。)
ソロ作品というのは、こういうものだという納得感があります。

彼はイエスの音楽的な軸ですので、イエスっぽいと言えばイエスっぽいところはあります。
ただ、舞台映えしないというか、垢抜けないというか、薄味で盛り付けは地味です。
これはタイトルの通り、スティーブ・ハウスティーブ・ハウのために作ったアルバムなのだと感じます。
私は彼の友達では無いので知りませんが、親しい人が聴いたら「あいつらしいよな、はっはっ」とか言いそうです。
そんなところも全部ひっくるめて、純粋にギターを愛しているひとりの男の私小説として楽しめばよいでしょう。

投稿:2020.3.30  
修正:2023.10.27

Photo by Damian Markutt – Unsplash

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