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『最後にして最初の人類』 ~ 種としての内省

映画・動画

2023年のGWに観たアマゾン・プライム・ビデオ

このGWは自室に籠って過ごします。
プライム・ビデオの「ウォッチリスト」に溜めたまま、観られないでいたものを観るのです。
もうすでに最新作や話題作では無くなってしまったものもありますが、観て良かったものについてコメントしておこうと思います。
鑑賞を検討されている方に、少しでも参考になればと思います。

最後にして最初の人類
天才作曲家ヨハン・ヨハンソンが人類に託した最後のメッセージ。全編16mmフィルム撮影された旧ユーゴスラビアに点在する巨大な戦争記念碑スポメニックの美しい映像とヨハンソンが奏でるサウンドが、観客を時空を...

『最後にして最初の人類』2021年公開されたアイスランド映画

優れたSF作品は、それがSF(空想科学小説)であることを忘れさせます。
この映画の原作は、1800年代に生まれたイギリスの小説家、オラフ・ステープルドンが1930年に書いた『Last and First Men: A Story of the Near and Far Future』。初版から、まもなく100年になろうかという本です。
でも、この映画を観た後では驚きません。
わずか100年程度のことです。

映画は、ヨハン・ヨハンソンが監督・脚本・音楽を担当したとされていますが、もともとは劇場用ではなく、映像に合わせてコンサート形式で演奏と朗読がされていたそうです。

ヨハン・ヨハンセンは、現代音楽の作家としてよりも映画音楽の作家として知られているかもしれません。
同じくSFで異星人との対話がテーマとなっていた『メッセージ(Arrival)』(89回アカデミー賞では多くの部門でノミネートされ、音響編集賞を受賞)の音楽を担当されていたのが印象深いですね。
残念ながら2018年に48歳の若さで亡くなっています。
なので、この劇場用映画は彼の没後に作られた作品となります。

興行成績や制作費、セレブ俳優の名前や派手なプロモーションなどとは無縁ですが、これは全人類が観る価値のある映画だと思えます。

以下、ネタバレも含みます。

白黒の構造物と淡白な声

映画は、20憶年先の人類から過去の人類へ宛てられたメッセージに沿って映像があてられているという形で進行します。全編、ほぼそれだけです。

20憶年先の人類から届いたメッセージを読み上げているのは、女優のティルダ・スウィントン。
人という種が到達した美の頂点のひとりである(と私が勝手に思っている)彼女が語る超未来人の言葉は、クールでありながら人間性を完全に失ってはおらず、この映画においてパーフェクトな演技となっています。

映像は白黒で、人間は登場せず、ただ巨大な建造物が映し出されます。
これは共産主義下の旧ユーゴスラビア圏に建てられた「スポメニック(記念碑)」という建造物で、戦争の犠牲者を追悼するものでした。
造形的にはロシア構成主義やダダイズム、未来派などの影響を感じさせる作品が多く、未来志向なのかと思いきや、共産主義のプロパガンダ的な目的もあったそうです。
物凄く興味深いです。

未来都市の廃墟のような映像には生命感が無く、そこへ向けて遥か未来からの声は語り続けます。

『2001年宇宙の旅』における”モノリス”は、人類が進化を遂げるゲート(扉であり鍵)であると私は理解しているのですが、この『最後にして最初の人類』における構造物は、人類が消滅へ至る”モノリス”のようにも見えてきました。
映画『コヤニスカッティ』や『サクリファイス』を観た時のような気持ちも呼び覚まされます。

未来から過去へ向けられたメッセージ

時折挿入される緑色のライトは人工的な光でしょうか。
デジタルな光にもかかわらず、そこに生命を感じます。

未来からの声の主は、環境に合わせて何世代もの進化を経て姿かたちも変わった最後の人類です。
彼らは今、種の滅亡の危機に瀕しています。
そして、過去へ向けてメッセージを発するのです。
未来へ向けてではなく、過去へ向けてです。

映画は70分。上映が始まって4分の3ほどが過ぎた残り26分ほどのところで、重要なメッセージが発せられます。

人類は戦争をし、環境を破壊し、自らの命の拠り所である世界を顧みることなく私利私欲に生き、それを発展と呼んでいます。
この映画のようなメッセージを少し先の人類が受けられるかどうかさえ疑わしいほど、現在の人類は自死の道を選んでいるようです。

そして、この時期を乗り越えることができたとしても、いつか人類は滅びるでしょう。
壮大な人類史というドラマでさえ、宇宙規模でとらえれば刹那なことなのかもしれません。

その圧倒的な儚さの中で、私たちができることは何でしょう。
映画を構成する、文学、建造物、音楽、映像、テクノロジーは、人類が生み出したものです。
この映画を通して、人間の精神性や芸術に触れ、敬虔な気持ちで思考してみたいと思います。

100年前に書かれ10年前に映画化された、20億年後からのメッセージに接し、わずか60年を生きた私の内省はどこまで届くことでしょう。

エンドロールでは、メッセージを発していたグリーンのライトが心臓の鼓動のように点滅し、そして消えます。

すべての人が、人生の中でこの70分を経験してもらいたいと思える作品でした。

最後にして最初の人類
天才作曲家ヨハン・ヨハンソンが人類に託した最後のメッセージ。全編16mmフィルム撮影された旧ユーゴスラビアに点在する巨大な戦争記念碑スポメニックの美しい映像とヨハンソンが奏でるサウンドが、観客を時空を...

メッセージ

2001年宇宙の旅

コヤニスカッティ

サクリファイス

2023.5.4

Photo by valentin salja on unsplash

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