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『エール!』 ~ 障がい者バイアスの先を描く

映画・動画

2023年のGWに観たアマゾン・プライム・ビデオ

このGWは自室に籠って過ごします。
プライム・ビデオの「ウォッチリスト」に溜めたまま、観られないでいたものを観るのです。
もうすでに最新作や話題作では無くなってしまったものもありますが、観て良かったものについてコメントしておこうと思います。
鑑賞を検討されている方に、少しでも参考になればと思います。

エール!(字幕版)
フランスの田舎町。酪農を営むベリエ家は、高校生のポーラ以外、父も母も弟も全員耳が聴こえない。美しく陽気な母、熱血漢な父とおませな弟。一家の合い言葉は、“家族はひとつ”。オープンで明るく、仲のいい家族だ...

『エール!』2014年公開されたフランス映画

聾唖の家族の中で唯一の健常者である主人公の少女が、家族を支えつつも自らの才能を試すチャレンジに挑むにあたって直面する、現実的な問題と葛藤を描いた作品です。

2021年に映画館で『コーダ あいのうた』を観ました。
そして、実はこの映画には元になった映画があったということを知りました。
それが『エール!』です。

『コーダ』が素晴らしい出来だったので、このオリジナルをいつか観たいと思っていました。
しかし、これは失敗だったかもしれません。

2つの作品を比べるのは無粋ですが、どうしてもそういう観方になってしまいます。
舞台や登場人物の設定に若干の違いはあるものの、『コーダ』はちゃんと『エール!』を尊重して作られていました。
キャラクター設定、キャスティング、カメラワーク、画面構成、編集のテンポ、台本、映画作りの全てがブラッシュ・アップされていました。
そして何よりも重要な楽曲や歌唱のクオリティまで、リメイク版はオリジナルを凌いでいました。

もちろん、そうでなければリメイクを作る意味はないわけですが、観た順番が逆であったことと、リメイクでは超えられないオリジナルの持つ凄さを感じられなかったのは残念でした。

さて、でももう少し『エール!』について書こうと思います。
以下、ネタバレを含みます。

聾唖の家に生まれた健常者の少女

舞台はフランスの田舎町。
家族は農業をしながら牛を飼い、チーズを売って生計を立てています。
両親と弟の4人家族は、長女のポーラを除く全員が聾唖者です。
彼女が幼い時はどうしていたのか分かりませんが、市場で販売をするにも必要なものを仕入れたり交渉をするにも、健常者であるポーラの存在は家族にとって大切なものでした。
ポーラは自分の置かれた境遇を悲観したり誰かのせいにしたりせず、受け入れています。
悪態をつくことがあっても、家族を思う気持ちには確かなものがあります。

ポーラが歌うきっかけは、意中の男子がコーラス部に入ったからというものでした。
しかし、そこで彼女は歌の才能を認められ、パリの音楽学校の入学試験に挑戦するチャンスを得ます。
当然、厳しいレッスンが必要になりますが、家族の生活を支えているポーラには自由になる時間がありません。
一方で、父親は村長選への出馬を決め、家族は大忙しに。
ポーラの存在の大きさを痛感すると同時に、すれ違いも大きくなってゆきます。
同世代の友人は助けてくれます。
しかし障がい者との関係作りは簡単にはいかず、トラブルも起こります。
ポーラは家族のために献身的に働きますが、本来彼女の世代は恋や遊びに夢中な世代なのです。
そして何よりも、彼女の家族は決してお行儀のよいタイプではなく、偏屈で自分勝手な人たちなのですから困ったものです。
さらに困ったことは、ポーラは家族を愛していて、家族もまたポーラを本心から愛していることです。

物語の本質は障がいの有無では無く家族愛

この映画の素晴らしいところは、ここまでの状況が丁寧に描かれたうえで、ポーラの夢への挑戦を皆が応援してゆく後半にあります。

最初のクライマックスは、学校の発表会。
ここで映画ならではの演出があるのですが、これだけは伏せておこうと思います。

そして続くクライマックスは、粗野な父がポーラの歌を”聴く”シーンです。
耳の聞こえない彼が彼女の歌を聴いたことは、物語を動かす大きな力となります。

さらに続くクライマックスが、入学試験の歌唱です。
これまでいまひとつ乗れなかった歌唱でしたが、ここは見事でした。
歌われた歌はおそらく原曲通りなのでしょうが、この曲を知らない私としては、歌詞を少し変えても良かった気がしました。
それでも最後に試験官が言う「いい選曲だったね」に深く同意しました。

障がい者バイアスを廃した設定

この映画の中で、ポーラの両親を含む障がい者を変に美化せずに、他と変わらない個性を持つ人間として描かれていた点は、高く評価されるべきだと思います。
障がい者に対して差別的な言動をする人もいますが、陰でコソコソとではなく、衝突してケンカができるような態度です。
そして障がいを持つ側も、卑屈にならずに堂々と自分を主張します。
このあたりは、個人を尊重するフランス人らしさと言えるのかもしれません。

ですが、ことさらに強調される下品さや性愛にオープンな文化には馴染めませんでした。
子供が学校で歌うべき歌とは思えない歌詞や、家族とはいっても敬意を欠いた振る舞いなど、私の感覚で許容できない部分があり、良くない印象に繋がってしまいました。

『エール!』が素晴らしい映画だという評価を得ているのは、おそらく後半の幸福感にあります。
映画の宣伝コピーにある通り、感動作であることは間違いありません。
もしもこれから『コーダ』と両方を観ようと思っているのであれば、こちらを先にご覧になることをお勧めします。

エール!(字幕版)
フランスの田舎町。酪農を営むベリエ家は、高校生のポーラ以外、父も母も弟も全員耳が聴こえない。美しく陽気な母、熱血漢な父とおませな弟。一家の合い言葉は、“家族はひとつ”。オープンで明るく、仲のいい家族だ...

2023.5.5

Photo bymike scheid on unsplash

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