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『LEON』 ~ 暴力の世界で交錯する純粋な心

映画・動画

スティングの曲に導かれて

この映画は公開されたときに観ました。
ジャン・レノがカッコイイとか、ナタリー・ポートマンがカワイイとか、切なくて泣けたとか、とにかく名作だったという、雑で曖昧な感想だけが残っていて、実のところ物語は忘れていました。
ふとしたことから、スティングの『Shape of My Heart』を聴いて、この映画を思い出したのがきっかけで観直すことにしました。
アマゾンプライムで観られなかったので、NETFLIXです。
以下、ネタバレ含みますが、鑑賞を検討されている方に少しでも参考になればと思います。

腐敗したニューヨーク

舞台はニューヨーク。
若い時にイタリアで事件を起こして逃げてきた男は、この街でプロの殺し屋になっていました。
仕事の依頼主は街で料理店を営むイタリア系マフィアですが、そのメイン・クライアントは麻薬密売の組織でした。
さらにこの麻薬密売組織を裏でコントロールしているのが、警察の麻薬取締役局だということが事態を難しくします。
物語の冒頭、殺し屋と同じアパートに住むある家族を襲撃する連中の言動に違和感を感じたのですが、彼らが本当に麻薬取締局だとすれば納得がいきます。
襲撃から生き延びた少女を助けたことで何かが変わり始める殺し屋。
少女が命をかけて復讐を果たそうとする相手は、長年彼を雇っていたクライアントであること。
物語は、取り返しがつかない事態に突入してゆきます。

映画を動かしているのは、ここで紹介した4人です。
プロの殺し屋(レオン)、復讐に燃える少女(マチルダ)、殺し屋を育て利用しているマフィア(トニー)、麻薬取締役局の管理職(スタン)。
このキャラクター設定とキャスティングが見事にハマっています。
シナリオや映像も素晴らしいのですが、何よりもこの配役が『LEON』を心に残る名作にしたと言えるでしょう。

生きる実感の無い殺し屋

物語の主人公は、タイトルにもなっている掃除人(殺し屋)レオンです。

過去の罪に苛まれながら、異国で殺人を生業として暮らすレオンには生きる夢や目的がありません。
幸福を望むことさえ悪であるかのように、ただ誰かを殺すために生きています。
生きるために誰かを殺すのではなく、殺すためにだけいるのです。

19歳でイタリアを出た設定になっていますが、その時点で貧しく学が無かったからというだけでなく、大人になってからの言動には発達障害的なものが感じられます。
単に外国の小さな都市で誰とも交流せずに成長したため、とも取れますが、この幼稚さがキャラクターを特別なものにしています。

昔観た時には、ニューヨークはこういう人たちがいる街なんだと思っていましたが、今回は、そうではなくて境遇が彼をこうしてしまったのだと思って観ることができました。
クールでカッコイイ、一匹狼の殺し屋、なんていう設定では無かったのです。

行き場を無くして外国に来た少年は殺し屋として育てられ、人を殺すことと自分の身を守ること以外は何も学ぶことができずに中年に差し掛かっています。
ところが偶然、彼の人生に割り込んできた少女によって、冷たく凍って固まっていた心は溶け始め、動き始めます。
作中で「私はもう大人。あとは年を取るだけ」というマチルダに、レノンは「俺は年だけは取ったが、大人にはこれからなる」と言います。
この会話は、マチルダに内緒で彼女の復讐を果たそうと動いていた時のもので、19歳の傷ついた少年のまま止まっていた時間が動き出し、過去を清算して新しく生き直そうとしていることを表しています。
地味なシーンでしたが、今回の視聴では印象に残りました。

レノンは少女と出会ったことで初めて「もしも、こうなったら」と未来について考えることを始め、大切なもののために自分の持っている全てを捧げようとします。
それは自分の金もスキルも人脈も、そして命もです。

見た目には中年ですが精神的には成熟していないレオンの純愛物語だった、というと陳腐になってしまいますが、暴力と薬物と不正に汚れた世界の物語を美しいものにしていたのは、レオンとマチルダの幼さと純粋さであったことは間違いありません。

この人生を失敗していた男を、ジャン・レノが演じています。
もう完璧に雰囲気ができているので、演技が上手いとか下手だというレベルでは無く、レオンそのものでした。

復讐心と愛に葛藤する幼い少女

もの映画のヒロインは、家族からの愛を受けられず施設に入れられるも逃亡する不良娘マチルダです。

本人はレオンに「18歳だ」と言いますが、他のキャラが言うように実際は12歳くらいの設定でしょう。
レオンと同じく環境に恵まれなかった彼女は、逆に大人びた態度を身につけます。
機転が利き行動力もある彼女が魅力的で、その表情、動き、言葉に耳も目も釘付けになります。再

父に虐待を受け、まま母や義理の姉からのイジメにあいながらも施設から脱走して家に帰るのは、義理の弟への愛情からでした。
そして、その弟を失った悲しみが彼女を復讐へと駆り立てます。
これまでの人生に絶望していた彼女にとって、唯一の愛すべき存在を失った今、もう生きる意味は復讐にしかありません。
彼女はレオンに付け入り、目的を果たそうとします。
しかしレオンと同じ時間を過ごすうちに、彼女の心に変化が生まれます。
最初は使える親切な大人として、やがて頼れる保護者のようになり、いつしか愛情にも似た気持ちになります。
二人の距離が縮まるにつれて、反抗的な態度や感情をあらわにするシーンも描かれます。
この描写が、大人同士のようであったり、大人と子供であったり、子供同士のようでもあって、上手いなと思わせます。
脚本や演出が良いからなのは当然として、これを見事に演じていた役者の二人が本当に素晴らしい仕事をしています。

大人びた態度と子供らしさを行き来する姿は魅力的で、映画の中の彼女をロリータ的に見てしまう人がいるのは、否めないと思います。
しかし、映画の登場人物は誰もそのように彼女を扱ってはいません。
彼女はどんなに大人として振舞っても、純粋さを失っていない子供として描かれていて、そのことがラストシーンでの救いにもつながります。
この出来事を通して確実に大人へのステップ歩み始めた彼女には、未来があるのです。

あまりにもマチルダが魅力的過ぎるせいで、彼女が主人公だと言ってもいいくらいです。
彼女を演じたのは当時役柄と同じく13歳くらいだった天才子役、ナタリー・ポートマンでした。
いやもう、ホント、天才だって思います。

善良な悪人とサイコパス

この映画には、あと二人、重要な人物がいます。

ひとりは、レオンを孤独な殺し屋に育てたイタリアン・マフィアのトニー。
もうひとりは麻薬取締局で働きながら麻薬取引を組織的に行っているスタンです。
トニーがニューヨークで縄張りを持てているのは、麻薬取締局のスタンの汚れ仕事を請け負っているからです。
レオンがマチルダの敵討ちをすることは、クライアントに楯突くことになるわけです。

トニーは明らかにレオンを利用して稼ぎをかすめ取っていますが、レオンは彼を信頼していますし恩義もあります。
レオンに感情移入して観ているとトニーに腹が立ってきますが、映画のラストで顔を腫らしたトニーを見ると、スタンに逆らえなかったニューヨークで暮らす落ちぶれマフィアだったことが分かります。

二人とも良い役どころを演じていて、物語を支えています。
ただ、主役を喰う勢いで存在感を示していたのは、麻薬取引局のスタンを演じた、ゲイリー・オールドマンでした。
この映画での演技が評価されて次の仕事へつながったということもあるでしょう。
この時期のゲイリー・オールドマンは多くの作品に引っ張りだこで、どの作品でも異彩を放っていました。

名演を支えている制作陣

今回、改めて見直して、細かい点でも感心するようなとことがいくつも見つかりました。
象徴的な存在としての観葉植物ですが、レオンが不在の間も大切に世話をするマチルダと、そうしていたことに気づいて少しうれしいレオンは、良い感じでした。
英語の読み書きをレオンに教えるマチルダのシーンは、手紙を読むシーンに繋がっていました。
お酒は上手く注げないのに、牛乳を注ぐのは上手くなるマチルダの様子も微笑ましいシーンでした。
今回、ラストシーンを知っているだけに、僅かながらも幸福な時間を過ごす二人のシーンには心が痛みました。

今回見直してもちょっと分からなかったのは、マチルダがなりきり連想ゲームをするときに用意されていた衣装についてでした。
サービス・カットくらいな感じでとらえればいいかなとは思っていますが、なんであんなものがあったんでしょう?何か見落としてるかな。
あと、レオンが中国系マフィアと麻薬取締役局員を殺害した時に残したセリフは誰が聞いてた(生き残りがいた)のか、というのもシンプルに疑問でした。
マチルダがレオンの秘密の行動に気づく重要なシーンなだけに、疑問を持たない方が楽しめたなと思ってしまいまいました。
そもそも、ラストのアパートへの突入計画が杜撰すぎるので、こういうことは気にせずに映画として楽しめばいいかなと思うことにします。

何よりも残念だったのは、NETFLIXではエンドロールを最後まで流してくれないことです。
スティングの『Shape of My Heart』を聴いたことが映画を観直したきっかけだったのに、曲が流れだした途中で終わってしまうなんて・・・。

Shape of My Heart

映画を観終えて、あらためて、この曲を聴き直して感慨にふけっています。

歌詞の冒頭は、こんな感じです。

He deals the cards as a meditation
And those he plays never suspect
He doesn’t play for the money he wins
He doesn’t play for respect

これはカジノのディーラーのことだと理解していました。
映画を観た後だと、

彼は金のためでも名誉のためでもなく、ただ無表情に暗殺を行う

と取れます。

繰り返されるサビのフレーズは、こうです。

I know that the spades are the swords of a soldier
I know that the clubs are weapons of war
I know that diamonds mean money for this art
But that’s not the shape of my heart

カードの意味と自分の立ち位置のギャップを感じる歌詞ですが、これも映画の後だと

ナイフも銃も使い方を知っている。
人殺しで金を稼いでいることも分かっている。
ただ、本当の自分はコレじゃないんだ。

と聴こえてきます。
この映画と歌詞の適合性はさておいても、他の部分も映画からの深読みができます。

そしてまあ、何と言っても、ドミニク・ミラーのギターが美しくて切なくてたまりません。

以前観た時は気に留めなかったのですが、作中にビヨークの『Venus As A Boy』が流れますね。

映画は壮絶なエンディングを迎え、ラストは哀しくも穏やかに終わります。
カメラは遠景からニューヨークの街に迫って、どんどん細部に入り込み、最後は遠く引いて見守って終わります。ありがちなフレームですが、何も文句はありません。

それぞれの事情を抱えながら純粋な魂を持って惹かれ合った二人でしたが、男女の関係は築けず、親子なのか、親友なのか、ビジネス・パートナーなのかも曖昧なまま別れが訪れます。
でも、この出会いによって二人の人生は大きく変わりました。
ひとりでいた時には感じなかった孤独を、大切な存在ができたとたんに感じてしまうように、切ない出会いと別れでした。
恋愛としては描かれなかった二人の関係でしたが、これは愛の物語でしょう。
最後の会話にあった言葉は間違いなく二人の真実でした。

名作です。

『Shape of My Heart』は、やっぱ泣けるなぁ。。。

2023.5.19

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