『ライブ・ベイビー・ライブ』 インエクセス 1991年
ライブ盤の名作選というのがあるとしたら、必ずベスト100には入るんじゃないでしょうか。
1991年、絶頂期のインエクセスが、ロンドンのウェンブリー・スタジアムで行った巨大コンサートのライブです。
インエクセスは、1980年代を駆け抜けたオーストラリアを代表するロック・バンド。
ヴォーカルのマイケル・ハッチェンスのスター性が半端なく、バックを支えるファリス3兄弟(キーボード、ドラムス、ギター)の堅実なプレイと見事にマッチしていました。
70年代の終わりに登場したシックというダンス・ミュージック・バンドでギターを弾いていたナイル・ロジャースの音に痺れたアーティストは、その後、こぞって彼にプロデュースを依頼します。
ファンキーなビートとギターのカッティング・サウンドは、ダンス・ミュージックはもちろん、ロック、ポップスなどにも取り入れられて巷に溢れました。
ロック系では、ディヴィッド・ボウイ「Let’s Dance」やデュラン・デュラン「The Reflex」が有名でしょうが、インエクセスもナイル・ロジャースのおかげで大ヒット曲「Original Sin」を得ます。
(プロモーションビデオに、なぜか日本のデコトラを使っていて、めちゃダサい。)
これが彼らの人気を爆発させるきっかけになり、その後のスター街道を驀進するわけです。
インエクセスは、色気のあるロック・バンドだったと思います。
同じオーストラリア出身でも、AC/DCのような女の子を誘ってライブに行きにくいバンドとは違います。
ロックの激しさを持つと同時にファッショナブルでもあり、男らしさはあってもマッチョじゃない。
踊れてエネルギーを発散させられる解放感も、ほどほどにちょうどいい。
若いリスナーにとっても、巨大化する音楽産業にあっても、あるべき姿のような成功モデルです。
最近の日本の「踊れるロック」のベースは意外とココかも、と思ったりして。
人気、お金、美女、、、絵に描いたようなスーパー・スターとしての成功を手に入れたマイケル・ハッチェンスは、これまたドラマの筋書きのように37歳で自らの命を絶ちます。
これは残念でした。
バンドはファリス兄弟を中心に活動を継続させようとしますが、マイケル・ハッチェンスのカリスマ性は余人をもって代えがたいものでした。
調子づいて強気な人というのは、いけ好かない空気を纏うと同時に、多くの人を引き付ける魅力のフェロモンも発しているものです。
この「LIVE BABY LIVE」(バイク・カワサキ・バイクみたいだな)は、まさにバンドとしてノリノリの自信に満ち溢れていた時期の演奏が、しっかりと納められています。
マイケル・ハッチェンスの歌声はヴォーカリストとしてのピークだったと思えるほどの充実ぶりで、大会場のオーディエンスを見事に魅了しているように感じられます。
演奏はファンキーでグルーヴィーながら、ダンス・ミュージックではなく、しっかりロック・バンドとしてのパワーを発揮しています。
序盤の「New Sensation」でテンションを高めたり、中盤で中だるみさせないように「What you Need」を配置するなど、ヒット曲もうまく使っています。
ライブならではの楽曲のアレンジや長いインプロビゼーションが無いのが物足りないというファンがいるかもしれませんが、私はそこまでのファンではありませんので、原曲を崩さない演奏で満足です。
これで、スタンダード・ナンバーになるようなバラード曲でもあれば、と思うのは望みすぎでしょうか。
インエクセスは、約25年の活動期間内に12枚ほどのオリジナル・アルバムを発表しています。
全部を聴いたわけではありませんが、おそらく彼らの作品の中で最高の一枚は、この「LIVE BABY LIVE」でしょう。
それにしても、ライブ・アルバムがバンドの最高傑作って、カッコ良くないですか。
今から買うなら、間違いなく2020年リマスター・バージョンがお薦めです。
投稿:2020.7.21
編集:2023.11.4
Photo by Yvette de Wit – Unsplash
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