『ミラー トゥ ザ スカイ』イエス 2023年
イエスが、前作『The Quest』から1年半というインターバルを置いて新作をリリースしました。
2023年の初夏の頃、リリースされて間もなく聴いたのですが、その時はあまりピンと来ませんでした。
評価の高かった前作も、個人的には高評価を付けることができないまま聴くことは無くなっていましたので、なんとなくそんな流れになって、「もうイエスは過去作だけ聴けばいいかな」くらいな感じでした。
ただ最近、ローリング・ストーンズをはじめとして、いろいろベテランの作品の出来が良かったので、コレを思い出して再視聴したというところです。
私がロックを聴くようになった最初の頃に好きになったバンドのひとつがイエスでした。
やはり70年代の作品に思い入れが強いのですが、それでも、その後の作品や派生バンドの作品、ソロ作
なども追いかけずにはいられないほどには、ずっと好きでした。
ですので、出れば聴くわけです。
そして、「それもそろそろお仕舞いにしていいのかなぁ」というのが今作の感想です。
作品の出来は良いです。
2000年代以降の作品の中では、1番かもしれません。
それぞれの曲に、なんとなく過去作を思い出させるフレーズや音色が隠れていて、ニヤリとさせられるのも楽しいですし、タイトル曲の『Mirror To The Sky』はオーケストラとの共演が気持ちよく、スティーブ・ハウのギターはかつてのような響きを聴かせてくれています。
続くラストの『Circles of Time』のギターの音も、オールド・ファンには響くのではないでしょうか。
バンドのアンサンブルは練られていて、イエスらしさが発揮されています。
独特のグルーヴ感は、なんだか遅く感じることもありますが、まあ私も年を取ったので丁度良いところです。
最近ではテクニカルなバンドが沢山ありますので、技術的な凄さみたいなものでは評価を上げにくいのですが、各メンバーの力量は高く、安心感があります。
逆に、鬼気迫る緊迫感のようなものはありません。平均年齢67歳のベテラン・バンドですから、そういうものでしょう。
ヴォーカルはどうしてもジョン・アンダーソンに似ている、似ていない、という耳で聴いてしまいますが、これはもう仕方ありません。
今作ではジョン・デイヴィソンが主に歌っているようですが、決して悪くはありません。
おそらく、今の80歳近いジョン・アンダーソンが歌うよりもクオリティは高いでしょう。
曲調は明るめで、聴くシーンを選ばないものが多く、聴きやすい作りになっています。
オリジナリティのあるバンドですので、こうしたクオリティの高い作品が出ることで、若い人が過去のイエスを聴くきっかけになるかもしれません。
全体的に作品を評価しながら個人的な思いが乗ってこないのは、バンドのせいではなく私の方に問題があるのですから、もう仕方ないのかもしれません。
ただ、これは聴き直して評価が高まりました。
若い人には、70年代のイエスを勧める前に、この『Mirror To The Sky』を勧めても良いように思えます。
「これでお仕舞いでいい」と思ったのは、この作品に失望したからでは無く、ある意味で到達点に達したと思えたからです。
きっと自作が出れば聴きますし、彼らはさらに上を目指して良いものを作ることでしょう。
ロジャー・ウォーターズがしたような、『Close to the Edge Redux』なんていうのは有り得ない、現役バリバリのベテランがやって見せてくれた良作です。
投稿:2023.10.23
Photo by ian chen – unsplash
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