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『Please Don’t Touch』STEVE HACKETT

音楽

『プリーズ・ドント・タッチ』 スティーブ・ハケット 1978年

ジェネシスがコアなファンに愛されていた新人バンドからプログレを代表するグループへと駆け上がる、最も魅力に満ちた時期にギターを担当していたのが、スティーブ・ハケットです。
このアルバムは、彼がジェネシスを脱退した後、比較的早いテンポで出されたソロ作で、随所にジェネシスらしさを感じることができます。

彼がジェネシスに在籍したのは、『Nursery Cryme』(1971年)から『Seconds Out』(1977年)までの黄金期で、ピーター・ガブリエル脱退後もしばらくは残ってバンドを支えていました。
彼のギターがバンドに与えていたものは大きく、彼が抜けてからのジェネシスはグローバルなスーパー・バンド化して、どこか英国の抒情性が失われた印象になってゆきます。

このアルバムでは、そうしたスティーブ・ハケットの個性が発揮され、”失われたジェネシス”を聴くことができます。
また意外なことに、この後アメリカ市場で受け入れられるようになるジェネシスの変化を先取りするような試みもされています。

1曲目の『Narnia』(日本盤CDでは「ナーニア」と表記)は、児童文学の「ナルニア国物語」をテーマにした曲ですし、2曲目の『Carry On Up The Vicarage』では、人形が動き出すようなSEに続いて展開される少々不気味な曲展開に、ジェネシスの演劇性を感じることができます。
その後の曲で聴けるアコースティック・ギターの調べではヨーロッパの田舎の風景が思い浮かび、うっとりとするような優しい時間に浸ることができます。
最後の曲は、比較的激しいサウンドですが演奏はしっかりしていて、様々に曲調が変わっても聴いていて安心感があります。ここで印象的なメロディを奏でているのは、ギター・シンセサイザーなのでしょうか。聴きごたえがあります。

ドラムのチェスター・トンプソンは、ジャズ・フュージョンからロックまで、このころ引っ張りだこの強者ですし、ヴァンダ―グラフ・ジェネレータ―グラハム・スミス(バイオリン)の参加も興味深いです。
また、ボーカルにカンサススティーブ・ウォルシュがいますし、ちょっとジャンル違いのランディ・クロフォードまで名を連ねています。ランディ・クロフォードの起用はかなり異質に感じますが、アルバムのアクセントになっていて印象は悪くありません。

ランディ・クロフォードチェスター・トンプソンクルセイダーズで『Street Life』を演るのは、このアルバムの翌年(1979年)なのですね。『Street Life』は、高校生の頃好きでよく聴いていました。
聴いた時期で言うと、実はこの『Please Don’t Touch』の方が後だったので、すでにランディ・クロフォードを知っていただけに驚きましたが、、、。

自分らしさへのこだわり、意識しないではいられない以前のバンド、ポップさを求める音楽のトレンド、などが混じり合って、抒情的で演劇的ながら親しみやすいアルバムになりました。
スティーブ・ハケットの音楽性とジェネシスへの貢献を感じることのできる、一聴の価値あるアルバムです。

投稿:2020.4.8 
編集:2023.10.26

photo by Hietaparta – Pixabay

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