『スターズ』 ザ・クランベリーズ 2002年
ドロレス・オリオーダンという魅力的な女性ボーカリストによって世界的な成功を収めた、アイルランド出身のロックバンドです。
2018年、彼女の死去によりバンド活動は終了しました。
アイルランド出身の女性ボーカリストと言えば、シンニード・オコナ―やエンヤが有名です。ザ・コアーズも女性ボーカルが印象的な、ポップセンスに溢れるバンドでした。
バンドでは、なんと言ってもU2がいますし、ブームタウン・ラッツやスノウ・パトロール、ストライプスなどもアイルランド出身ですね。
地理的なものが音楽に影響を与えるということは、実際のところは分かりませんが、やはりあるような気がします。
北欧系ロックは、他の国のロックよりも温度感が低くかったり、内省的で人との距離感が少し遠い感じがするのです。
また、ドロレスの歌声にケルティックな響きの魅力があると感じるのは私だけでしょうか。
このアルバムは、バンドのデビューから一時活動休止に入る前までに発表された5枚のアルバムからのベスト盤です。
いつものようにCDを聴きながらこれを書いているのですが、同時にアルバムの冊子を見て、やっぱりドロレスに魅かれてしまいます。
いい面構えです。
どの写真を見ても、目線は相手を見下すか、睨みつけるか、無関心であるようによそを向いています。
口は生意気そうに半開きだったり、多くの場合はへの字に曲がっています。
ファッションやヘアースタイルからは、女性的な色香が感じられません。
前の世代で言えばアニー・レノックス、今ならビリー・アイリッシュにも通じるようなエッジです。
このスタイルで恋愛から政治的な内容の歌まで、激しく、優しく、感情をさらけ出すように歌うのですから、これはもう「惚れてまうやろ」となるわけです。
バンドの演奏は派手さこそありませんが安定感があり、しっかり彼女の個性をひきたてています。
彼らのデビュー曲『Dreams』は、日本でもヒットしました。
松嶋菜々子を起用した飲料のCMソングとして使われたり、映画『恋する惑星』でフェイ・ウォンが『夢中人』のタイトルでカバーしたりしたので、耳にすることは多かったでしょう。
ただ、確かに『Dreams』は良い曲でクランベリーズの一面を表すものではありますが、これが全てではありません。
そのポップで美しいメロディが気に入ってファースト・アルバムを買った人は、全体を覆う意外なダークさに離れてしまったでしょうし、硬派なロック・ファンからはオシャレ系ポップ・バンドと誤解されて聴かれもしなかったかもしれません。
これは実に勿体ない。
このベスト・アルバムは、彼らの活動の良い時期が上手く総括されています。
ヒットしたデビュー曲はもちろん、初めてのひとにも親しみやすい曲が選曲されていると思います。
個人的には、暗い雰囲気の中にキラリと輝く『Dreams』『Linger』の2曲が入ったファースト・アルバム『Everybody Else Is Doing It So Why Can’t We』がお薦めですが、『Zombie』の入っている『No Need To Argue』も捨てがたい。
バンドの個性があらわれている『To the Faithful Departed』や充実期の『Bury The Hatchet』のクオリティの高い楽曲も聴いてもらいたいですし、ベスト・アルバム以降に発表された胸に沁みる『Roses』の良さも知って欲しい。
ドロレスの死後、2019年に、彼女の歌うデモ・テープをもとにバンドとしてまとめた、『In The End』というアルバムが発表されました。
そのジャケットでは、楽器を手にした少年たちの中央で笑顔の少女が手を振っています。
ベスト盤の冊子の写真を見ても分かる通り、デビューからソロ作品も含めて、笑顔で正面を向くドロレスはいないのです。そういうアーティストだったのです。
あの面構えの彼女とバンドメンバーたちが重なって、涙がこぼれそうになります。
オリジナル・アルバムは8枚しか無いので、できればベスト盤を聴いた後からでも、それぞれのアルバムを歌詞を見ながら聴いて欲しいアーティストです。
投稿:2020.4.25
編集:2023.10.28
Photo by jed villejo – unsplash
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