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『don’t belive the truth』 oasis

音楽

『ドント・ビリーヴ・ザ・トゥルース』 オアシス 2005年

手持ちのCDを処分するにあたって、何かコメントを残してみようと思って書き始めたコラムですが、CDラックに収まっている順番に書いていると、どうしても同じアーティストや同じジャンルに偏ってしまいます。
オアシスは所有しているCDも多いですが、それでも思い入れのあるものとそうでもないものがあります。
そして思い入れの強いものほど、コンパクトに文章化しにくかったりして難しいですね。

『don’t belive the truth』はオアシスの6作目。難産だった作品です。
賛否両論、好みが分かれた作品だったようですが、私自身は、あまり発売当時の印象がありません。「ライラ」という曲がヒットして、それが入っているアルバム、くらいの認識でいました。
今回、改めて聴いてみて、私は賛否で言えば「賛」、好き嫌いで言えば「好き」な方でした。

どんなアーティストも、成功を手にする中で、ファン層が拡大するということが起こります。
世の中の評価やヒット曲によって新しく入ってきた数の多い新しいファンたちの求めるものと、古くからのファンの大切にしたいもののベクトルにギャップが生じたり、アーティスト自身も現代を生きる人間ですから、自分自身の成長や環境変化、音楽トレンドなどに影響を受けます。
こうした様々な流れを大きなうねりとしてまとめ上げられるかどうかが、大ヒットした後に突き付けられるわけです。
長いキャリアを持つバンドのファンの方なら、こうした変化にうまく対応したバンドも、うまくできなかったバンドも思い浮かぶのではないでしょうか。

前作の時点でモンスター・バンドとなっていたオアシスは、ステージの巨大化や贅沢な音作りが可能になったことの反動なのか、もしくは大きくなったビジネスの不安から逃れるためなのか、音を詰め込みます。
独裁体制からチームプレイ重視になったりするのも、成長なのか逃げなのか難しいところです。(この辺は、また今度、別のアルバムの時に。)

前作を経て、さらに試行錯誤を繰り返した答えが、この「ドント・ビリーヴ・ザ・トゥルース(真実を信じるな)」です。

イギリスの労働者階級の想いをメロディに乗せていただけでは、もう世の中は納得しない。
今やオアシス・ビジネスを支えているのは、裕福なアメリカのリスナーだ。
だとしたら、自分の音楽とは何なのか。

熱烈なファンからのメッセージはもちろん、音楽に関してもビジネスの面でも、多くの優れた知見を持つ人たちの言葉が耳に入り、気が狂うような思いだったことでしょう。

さらに不幸なことは、こうした苦悩は彼らだけが経験したことではなく、既に多くのアーティストが通ってきた道だということです。
こうした稀有な人生でさえ、凡庸なストーリーのひとつなのだとしたら、これは更にシンドイ。
誰にも理解できないと閉じこもったり、精神を病んだり、酒や薬に溺れることは、すでに先人がやっていて、それらに対する評価さえ自分は知っているのです。

かつて労働者階級の不良少年が金持ちの成功者たちに向けて吐いた唾は、今自分たちに降りかかります。
何をやっても大金が入り込み、何をやっても批判される状況の中で、どんな音楽を届けられるでしょう。
そしてその歌は、かつての労働者階級の不良少年だった自分に届く真実の歌であり得るでしょうか。

大人になり成功も手に入れて、真実というものが無数にあることに気づいた今、「真実を信じるな」というタイトルにはどういう意味が込められているのでしょう。
「自分に都合の良い真実をうまく使いこなせ」なのか「間違っているかもしれなくても自分を信じろ」なのか、その逆で「何よりも自分自身を疑え」なのか、さもなければ「何も信じなくていいからやり続けろ」なのか・・・。

なんだか、CDの楽曲について触れてきませんでしたが、長くなってきましたので、そろそろ止めにします。

このアルバムでは、意外なことにシンプルでストレートなロック・サウンドが聴けます。
こうした悩みの果てに、非西洋圏の音楽や古い楽器、または逆に最新のテクノロジーやクラブ・サウンドなどに傾倒するというのはありがちですが、彼らはフラットな感覚でプレイしたようです。

アルバム制作にあたっては、多くの曲が作られ、多くがボツになったそうです。
それらの中には、上記のようなものもあったかもしれません。
しかし、アルバムに収められたのは、潔いロック・チューンでした。
これは歓迎すべきことでしょう。
また、サウンドから伝わるのは絶望感ではありませんでした。
まだ何者かに抗うエネルギーは失っていないオアシスが聴けたのを、嬉しく思います。

ギャラガー兄弟の衝動と才能で生み出されたというよりも、多くの優秀なプロの手によって作られたという感は否めません。
残念に感じるとしたらそんなことくらいですが、この段階では当然と言えば当然のことですし、そのおかげで、アルバム全体のクオリティは非常に高いと思えます。
「ライラ」はシングルヒットしただけあって良い曲ですが、それ以外も相変わらず良い曲ばかりです。ただ、名曲を期待しすぎてはいけません。

個人的には、ボーナストラックの13曲目は不要でした。
12曲目は、シューゲイザーのように、狂気の爆音の中で、この歌詞「I Can See It Now!」を歌って終わってくれたら、私にとっての名盤になったのですが。
12曲目と13曲目で、ルー・リード「ベルリン」を思い起こさせられるところが加点ポイントでもあり、減点ポイントにもなりました。

オアシスをよく理解したプロのミュージシャンたちによる、みんなで作ったハイ・クオリティなオアシスです。

投稿:2020.5.11
編集:2023.10.30 

Photo by Ryan Parker – Unsplash

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