『イン・ザ・スピリット・オブ・シングス』 カンサス 1988年
カンサスはプログレの文脈で紹介されることも多いバンドですが、どちらかと言えばヨーロッパ的な情緒ではなく、アメリカンな雰囲気が強いバンドでした。
私の中では、プログレというよりも産業ロックの先駆け的な印象なのです。
カンサスの11枚目のスタジオアルバムです。
70年代に成功をつかんだ多くのバンドがそうであったように、80年代に入って自らの成功作を超えることができずに迷走した結果、過去のヒット曲だけを演奏する懐かしバンドになってゆく・・・。
70年代の名盤で評価を得ていたカンサスも、そんな危機を迎えていました。
しかし、彼らは80年代半ばからスティーヴ・モーズというギタリストを迎えて再起を図ります。
そうして制作された前作『パワー』に続いてリリースされたのが、このアルバムでした。
80年代のロックは、覚えやすいリフ、激しいリズムと歪んだサウンド、さらに美しいメロディを組み合わせるという技で、市場受けする曲がたくさん作られました。
そうした傾向を揶揄して”産業ロック”と呼ばれることもありますが、それは決して音楽のクオリティが低かったということでは無いと私は思っています。
残念なのは、それにも関わらず、産業ロックが盛り上がっている時期に評価がともなわなかったことです。
曲は悪くないですし、歌も演奏もうまいです。
リアルな現場感が無いので何とも言えませんが、メンバーの年齢とかビジュアルとかステージの演出とかプロモーション戦略とか、複合的な理由があったのでしょうか。
このアルバムのリリースがあと5年早かったら、この路線でASIAのようなヒット曲だって出せていたかもしれません。
かつての輝きを期待するファンと、新たなハード・ロックを求める層、さらにロック・バンドという形式が魅力を失ってゆくトレンドの中、このアルバム発表後、またカンサスは迷いの時期を過ごすことになってしまいます。
上手いし、アメリカ受けしそうな泥臭さもあるし、知的な面もあるのに、なんでもできるせいで個性が弱くなってしまったのでしょうか。
もっとバンドとして突出した個性があったらなあ、と惜しまずにいられません。
ただ逆に、今の年齢で改めて聴くと、これくらいの味付けの方が受け入れやすく感じたりもします。
ここは繰り返しますが、今になってみて、かなり気に入りました。
ボストンやジャーニー、スティックスあたりが好きだった方は、一度聴いてみても良いかもです。
あまり知られていないかもしれない、ある意味、貴重盤です。
投稿:2023.2.17
Photo by nathan dumlao – unsplash
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