『グレイとピンクの地』 キャラバン 1971年
キャラバンは 1960年代の終わり頃に活動したバンドで、よくカンタベリー派の代表格として紹介されています。
カンタベリー派というのは何をもってカンタベリー派なのか、ちょっと捉えにくいところがあります。
イギリスのカンタベリー地方出身でジャズの要素を取り入れた1960年代後半のロック・バンド、というのが一般的な理解だと思いますが、個人的には、ヒッピー思想をベースにサイケデリックな楽曲を展開するものの、熱くなり過ぎないクールなヨーロッパのロックという感じでとらえています。
自由で感性のおもむくままというマインドだったのか、プログレのように緻密な作り込みをするというよりは、ラフなポップだったり即興演奏への志向性が強いように思えます。
また、シャウトしないボーカルの落ち着きに、そこはかとないインテリ感があったりもします。
カンタベリー派として紹介されるバンドやミュージシャンにはこの時代の重要人物が挙がるので、気にしてみてもよいかもしれません。
博多ロックや渋谷系みたいな括り方なので、音楽のカテゴリーとしては曖昧ですね。
さて、『灰色とピンク色の世界』です。
ジャケットはまさに原タイトル通りのイラストで、「指輪物語」の世界がピンク色に染まったような風景が描かれています。
タイトル曲までの前半4曲は、肩の力の抜けたポップな曲が続きます。
改めて聴いてみても”いいね!”ボタンを押す程度には良いですが、人生に影響を及ぼすようなものではありません。
ただ、この空気感が好きな人には、やたらと感情を表に出してくるタイプの音楽はセンスが無いものとして一蹴されそうです。
このフリーな感覚こそが、はまると居心地の良いカンタベリー派の魅力なのでしょう。
最後の曲『Nine Feet Underground』は、レコードだとB面全部を使っていた約23分もの大曲です。
かなりの部分は歌の無いインストゥルメンタルですが、演奏はしっかりとしてバランスが良く、メロディアスで退屈させません。
カンタベリー派は、クールさが魅力と書きましたが、ここで聴ける演奏は抒情性が強く、緊張と緩和の作り方もジャズ・ロックというよりはプログレのそれです。
淡白なボーカルも、ここでは非常に効果的で、胸を締め付けます。
キャラバンは、この後も活動を続け、後に続く作品も良質なものなので、もっと評価されても良いのですが、日本では一部の音楽ファンにしか聴かれていないようで勿体なく思います。
キャラバンから1枚を選ぶとなると、実はもう少し後の作品の方がお勧めかもしれません。
しかし、このアルバムは、この時代のひとつの音楽潮流を代表する、貴重な作品であることは間違いありません。
若い方で、音楽を聴く中で”カンタベリー派”というワードにたどり着いたら、まずはこのアルバムを聴いてみてもらえたらと思います。
投稿:2020.4.4
編集:2023.3.26
Photo by kordula vahle – Pixabay
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