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『On An Island』DAVID GILMOUR

音楽

『オン・アン・アイランド』 デヴィッド・ギルモア 2006年

全体に静かなアルバムです。
人生の終盤に向けて、ささくれだったものを納めて、穏やかさを取り戻す。
ピンク・フロイドや自分のギターのファンに向けてというよりも、自分自身のために作られたような抑制された楽曲が並びます。

彼自身は、もうお金や生活の心配は無いでしょうし、自分の人生を振り返って達成感もあることでしょう。
特に挑戦的なことをここでやる必要性も無く、ただありのままに自分の想いを紡ぎ出すだけで、クオリティの高いものを生み出すだけのセンスとスキルを備えています。
この音楽を否定することはできません。
ピンク・フロイドを長く愛してきたオールド・ファンもまた、年齢を重ねてこの音楽と自然体で寄り添える人が多くいることでしょう。

しかしながら、自分は少々違いました。
曲や演奏が悪いわけではありません。
ただ、聴いていて正直なところ、聴きどころのない退屈でつまらないアルバムだと思ってしまったのでした。
(心細くなったので、Amazonのレビューをみたら、高評価ばかりでした。)
自分の現在の精神状態が、こうした幸福感に満ちた音を受け付けなかっただけで、いつかこのアルバムをしみじみと聞けたら良いなと心から思います。

袂を分かった、かつての盟友ロジャー・ウォーターズは、デヴィッド・ギルモアよりも3歳年上ながら、この10年後に、怒りに満ちたアルバム『Is This the Life We Really Want?』(これが私達が本当に望んだ人生なのか)を発表しました。
老境に入った二人の作品から、人間の幸せとは何なのかを考えさせられます。

アルバムを通して、ドキドキ・ハラハラして血圧が上がるようなことはありません。
ワクワクするような期待感や、ウキウキするような高揚感もありません。
多少のロックっぽさや抒情性を感じる曲はあるものの、感情が高ぶるようなことは起こらず、落ち着きのある肯定感に満ちています。
安定と静寂。スローなテンポ。優しく、愛に満ちた歌声とギター。
初期のピンク・フロイドで聴くことができた幻想的なトリップ感とは違い、あくまでも地に足が付いている大人のサウンドです。

素晴らしい作品なのですが、若く性急な心には老いて衰えた音楽ともとられかねず、万人にお薦めできるわけではありません。
彼がこのアルバムを制作した年齢に私もなってしまいましたが、まだまだこの境地には遠そうです。

投稿:2020.4.12 
編集:2023.10.23

Photo by Luca Bravo on Unsplash

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