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『TALK』 YES

音楽

『トーク』イエス 1994年

イエスは長い歴史を持つバンドで、メンバーチェンジは頻繁にあり、音楽性も変化させてきました。
ですから、「イエスが好き」というだけで自分と一緒だと思ってはいけなかったりします。
70年代のイエスと80年代のイエス、90年代以降のイエスでは、かなり趣が異なるからです。


やっかいなのは、ジョン・アンダーソンの存在です。唯一無二の神々しい声を持つ彼の存在感はとてつもなく大きくて、どんなに音楽性が変わっても、この歌声が聞こえたらそこはイエスだと感じてしまうのです。くわばたおはらがおったら、そこはもう大阪なのですから仕方ありません。

このアルバムを前作『UNION/結晶』よりも高く評価する声があるのは、トレバー・ラビンが頑張って良い仕事をしたからでしょう。
つまり、大ヒットした『ロンリー・ハート』きっかけで(もしくはそれ以降に)イエスのファンになった人にとっては、これぞイエス・サウンドの集大成なのかもしれません。

ただ、私のような爺さんにとっては思い入れのあるアルバムでは無く、これはイエスではなくて、トレバー・ラビンのソロ・プロジェクトにイエスのメンバーが参加したようなものだと感じてしまうわけです。
ビル・ブルーフォードスティーブ・ハウリック・ウェイクマンは参加していません。

顕著なのは5曲目の『WALLS』。ここではスーパー・トランプロジャー・ホジソンがボーカルを担当しています。そして、ここにイエスらしさは微塵もありません。

アルバム全体を通して、歪んだギターの激しさと、美しいキーボードの優しい調べがバランスしています。曲調も、重くなり過ぎず、軽くなり過ぎず、ほどよくポップで耳に優しく、集中して聴くこともBGMとして無視することもできます。
アルバムの最終曲『ENDLESS DREAM』は、シリアスで少々重たい部分もありますが、16分弱という長尺曲を見事にまとめ上げ、起伏に富んだ演奏を聴かせてくれます。お見事です。

行きつけだった定食屋を久しぶりに訪れてみたら、いつもの親父は健在だったものの、いつしか息子さんに厨房を任せるようになっていて、お客さんもそこそこ入って繁盛していて、良かったなと思って注文してみたら、味が落ちたとは言わないけれど「これじゃないんだよ」と思ってしまうような感じでしょうか。
これはこれで旨いので、否定はできないわけです。看板さえ違っていたら、高評価するかもしれないという出来です。

トレバー・ラビンの優秀さが光るアルバムではありますが、私にとってのイエスはこれではありませんでした。

投稿:2020.3.28  
修正: 2023.2.28

Photo by Markus Spiske on Unsplash

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