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『Argus』 Wishbone Ash

音楽

『百眼の巨人アーガス』 ウィッシュボーン・アッシュ 1972年

ウィッシュボーン・アッシュは、1969年にデビューして以来、長年にわたって活動し、多くのアルバムを世に出しています。

しかし日本で話題になるのは、ほぼこの『百眼の巨人アーガス』に限られるのではないでしょうか。
というのは、他のアルバムに良いものが無いからというわけではなく、このアルバムが突出して良いからです。
このアルバムで繰り広げられる音世界は独自の物語性を感じさせ、ツィン・リード・ギターは個性的でした。

この時期のバンド・メンバーが、プログレを志向していたのかどうかは分かりません。
ただ、アルバムの作りはトータル・コンセプトの組曲で、まさにプログレな作りです。

私の手元にある『30周年記念エディション』(20年前⁉)では、オリジナルの7曲にプラスして3曲のボーナストラックが付いているのですが、その全10曲でトータル・コンセプトになっているかのようなまとめ方がされています。

1曲目の『Time Was/時は昔』で自問自答し、2曲目『Sometime World/いつか世界は』で世界が変わって見えて、3曲目『Blowin’ Free/ブローイン・フリー』で甘い思いに浸っていると、4曲目『The King Will Come/キング・ウィル・カム』で戦いが避けられなくなり、5曲目『Leaf and Stream/木の葉と小川』で日常に別れを告げ、6曲目の『Warrior/戦士』で遂に戦士として覚醒し、7曲目では早くも戦いが終わって『Throw Down the Sword/剣を捨てろ』となります。
ここまでがオリジナルです。

さらに30周年エディションでは、8曲目にセカンド・アルバムに入っている『Jail Bait/ジェイル・ベイト』が入り、ここで戦いの虚しさに心を拘束され、9曲目で『The Pilgrim/巡礼』(これもセカンド・アルバムの曲)の旅に出て、10曲目の『Phoenix/フェニックス』(これはファースト・アルバムの曲)で自己を取り戻す、という流れを日本のレコード会社が作ったわけです。(実際のところは知りませんが。)

正確には、ボーナストラックの3曲は、アルバムからではなくライブ・バージョンです。
セカンド・アルバムでは、「ピルグリム」の後に「ジェイル・ベイト」という流れなのですが、ここを逆にして、さらにラストをファースト・アルバムからの「フェニックス」で締めるあたり、30周年エディション編集者の並々ならぬ熱を感じます。悪くありません。

この流れは、Spotifyでは『Argus(Expanded Edition)』で聴くことができます。

ちなみに『Argus(Deluxe Edition)』の方では、8曲目の『ジェイル・ベイト』が、4枚目のアルバム『Wishbone Four』からの『No Easy Road』に差し変わっていました。

改めてこの有名なアルバムを聴いてみると、バンドとしてはプログレでは無いと思えてきました。
ギターはフライングVですし。(これは偏見ですね。)
この時代には、長いソロを演奏するロック・バンドは多くあり、そこでは実験的な音楽が繰り広げられることも珍しくありませんでした。
ひょっとしたら、バンド演奏が好きなロック少年たちが時流に合わせて演奏してたら凄いのができちゃった、という感じだったのかもしれません。

必聴なのは、オリジナルアルバムでは最後を飾る『剣を捨てよ』。
誰もが称賛するツイン・リード・ギターが、これでもかと迫ってきます。
ツィン・リードと言っても、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」のような統制の取れたものではありません。
最後の数分は「あとは曲終わりまでお好きに演ってください」という感じで、こちらは音に身を任せるしかありません。
できるなら大きな音で聴きましょう。

どうしても、このアルバム『百眼の巨人アーガス』ばかりが取り上げられてしまうウィッシュボーン・アッシュですが、他のアルバムも聴きごたえがあります。
(実は80年代以降は、あまり聴いていないのですが・・・。)
プログレ好きで無くても、70年代のロックを良いと思っていただける方なら、今からでも是非聴いてみて欲しいバンドです。


投稿:2020.3.28  
修正: 2023.10.27

Photo by Nik Shuliahin – Unsplash

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