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『ワイルドサイドをほっつき歩け』 プレディみかこ

本・漫画

『ワイルドサイドをほっつき歩け 』 著者:プレディみかこ 2020年

軽妙な語り口が心地よくて、文字を追うのが苦手な私でも、ストレスなく読み進めることができます。
著者のお人柄と文章力のなせる技でしょう。

様々な世代の人が、それぞれの視点で関心を持って読むことができると思いますが、特に私のようなシニアと呼ばれる世代には共感できるところの多いエッセイでした。

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主な登場人物は、著者の旦那さんと周辺の方々。
著者は私より少し若い1965年生まれの日本人で、旦那さんは私より少し年上のイギリス人。
お二人の暮らすブライトンがどのような街なのか、イギリスに土地勘があるわけもなく、「クィーンの曲に『ブライトン・ロック』ってあったな」と思うくらいなのですが、旦那さんのような、いわゆるベビーブーマーの白人労働者階級の方が多く住む街のようです。
地図で見ると、イギリスの南端で、スコットランドや北アイルランドからは最も離れています。
ロンドンからは遠くないこの港町で大人になり、初老を迎えている人たちが登場人物です。

世の中はEU離脱だの政策転換だの、いろいろと変化が激しく、そうした影響はモロかぶり。
それでも出会いがあり別れがある。この年になると、出会いと別れは、恋人のことだけではないのです。
さらにいい年をして、失恋もするし、時には失業の目にもあう。
人それぞれに価値観や哲学やこだわりがあるけれど、場合によっては、性格や生活がちょっと変わったりすることもある。
そんな人間らしさが、切なく愛おしくコミカルに描かれています。

私にとっては、同時代の音楽のことが少しだけですが出てくるのは、リアルな感情と結びついて楽しい味付けでした。

政策や国民感情的なところの情報も分かりやすく、日本にあてはめて考えることもでき、勉強になります。
ただ、政治や経済を語ったからと言って、専門の論文や記事ではありません。
政策に翻弄されたり、自分なりのやり方で立ち向かったり、態度を変えたり、という市井の人々のリアルさこそがポイントなのです。
そして、そうした人々を描くにあたって、同じ時代を同じ場所で過ごさなかった著者だからこその、ちょっと間のある視点が読みものとしての面白さとなり、読者をひきつけているのだと思えました。

日本にあてはめてしまうと、「東京郊外の町で好き勝手してきたオッサンが、大企業優先のアベノミクスに翻弄されながらも、やらかしてしまった色恋やお酒にまつわるよもやま話し」という感じで、誰も読む気にならなそうですが、これがイギリスを舞台に、しっかり読ませる話しになっていてお見事でした。

余談ですが、最近、プリテンダーズの新しい動画を見ました。
クリッシー・ハインドは、しっかり年を取っていましたが、その佇まいやパフォーマンスは昔と変わらず、溌溂としたものでした。

この本を読んだ後に、現役のベテラン・アーティスの活躍を目にして、昔のシニアと今のシニアは違うんだぜと、自分に言い聞かせるのでした。

photo by evgeny-klimenchenko – unsplash


投稿:2020.8.1
編集:2023.11.2

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