『戦争は女の顔をしていない/コミック』 作画:小梅けいと
原作:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 2017年
2015年にノーベル文学賞を受賞したベラルーシのジャーナリスト、スヴェトラーナ・アレクサンドロヴナ・アレクシエーヴィッチさんの作品の漫画版です。
(ノーベル文学賞と言えば、この翌年はボブ・ディランさん、翌々年はカズオ・イシグロさんが受賞して話題になりました。)
いつかは読まないといけないような気がしていたものの、その内容のヘビーさになかなか手が伸びなかったのですが、漫画版が出ていると知って、早速購入。
続けて二回読んで、翌日の朝にもう一度読みました。
内容は、第二次世界大戦に従軍した女性への取材レポートです。
過酷な状況下で、死と向き合う恐怖や諦念、年頃の少女としての恥じらいや淡い恋心などが、リアルな身体性を持って描かれています。
私の読解力不足のためか、漫画表現によるものなのか、それとも原作そのものの要因なのか、少々分かり難い部分もありました。
基本的には聞き取りした内容が綴られているのですが、ドキュメンタリーということもあり、物語としての起伏や、まとまりが悪い部分はあります。
戦争によって傷を負った人が、若いインタビュアーの前で本当のことだけを筋道立てて話せていたかどうかは分かりませんし、ひょっとしたら脚色や歪曲があったかもしれません。
でも、そうした点も含めて作家は素のままあらわしていたようで、それが難しさにつながったのかもしれません。
柔らかで優しい画風ながら、服装や背景などは、細部に渡って正確に描き出されていたようです。
こうした点は漫画表現の優れたところだと思えます。
厳しい状況を描くにあたって、文字を重ねるのでは無く絵で表現するという難しさに挑戦されていて、その分、読み手の感情が刺激されたり、逆にショックが和らいだりということが起こります。
原作との比較はできませんが、この漫画版でも、そこで語られているどうしようもないリアルさに圧倒させられます。
原作で読むには、さらに強い覚悟が必要かもしれません。
戦争の残酷さを経験したのは、日本人だけではなく、兵士だけでも男だけでもありませんでした。
この漫画版の前半に短く描かれた原作者の独白、
「何か理解できるのではと覗き込んでしまったら、そこは底なしの淵だったのだ」
という言葉が重く響きます。
原作の文庫版は、こちら。
今も世界は戦争を止めません。
せめて若い世代はこうしたレポートを読んで、未来を変えて欲しい。
本当に読むべきは、権力を持った年寄りの男たちですが。
投稿:2020.8.8
編集:2023.11.5
Photo by krakenimages – Unsplash
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