『タイム・フライズ…1994-2009』 オアシス 2020年
90年代の音楽シーンを代表したバンドの、活動を総括するベスト・アルバムです。
オアシスは全ての曲が素晴らしいので、ベスト選曲をするのは難しいのですが、このアルバムには彼らのシングル曲がほぼすべて網羅されています。名曲揃いです。
80年代前半の第2次ブリティッシュ・インヴェンションから80年代後半の北米グランジを経て、90年代に入るとまたイギリスの音楽が面白くなっていました。
いわゆるブリット・ポップというムーブメントです。
ここからは、数多くの魅力的なアーティストが世に出ました。名前を上げればきりがありませんが、どのバンドも、いかにもイギリスらしい個性を誇っていたように思います。
そうしたキラ星の中で、話題性が高く、商業的な成功も手に入れ、何よりも音楽が素晴らしかったのがオアシスです。
オアシスは、労働者階級の出身である点や口汚い言動から、かつてのパンク・ロック的なアナーキーさが取りざたされました。
ただ、そのスタイルは髪を逆立て安全ピンを顔に刺した攻撃的なものでは無く、ドレス・ダウンしたラフなものでした。
直接の関連はありませんが、漫画「AKIRA」の中で主人公の所属する暴走族が、いわゆる不良のスタイルでは無く普段着であったことによって日常の中にある暴力性を描き出していたような、身近な怖さのようなものを感じました。
一方で、そのサウンドは耳馴染みの良いミドル・テンポのポップ・ロックで、楽曲はビートルズとの類似性が指摘される通り、非常に質の高いものでした。
オアシスの歌は一過性のファッションや虚構のエンターテインメントでは無く、自分たちと共にある日常に寄り添っていると受け入れられました。
我々の日常がたとえ移ろい行くものだとしても、ここには普遍的なメッセージがあると心に響いたのです。
オアシスの作る楽曲は、かつてのパンク世代の大人にも若い世代にも刺さり、結果として彼らは商業的な成功を手にします。
安物の普段着だったパーカーはファッション・トレンドになり、高額で流通されるようになります。
そうして、よくある物語のようにバンドは役割を終えてしまいます。
最後まで仲の悪かった兄弟喧嘩や汚い言葉で人を傷つけるスタイルは、もう現代の価値観には合わなくなっていました。
ただ、それでも今、改めてオアシスの音楽を聴くと感動してしまいます。
ビートルズを初めて聴いてから50年が経っても、その音楽が色あせたりするどころか逆に価値が高まって聞こえることさえあるように、ここにも時代を超える本物のポップ・ロックがあります。
これから接する人は、全ての曲が単独で素晴らしいので、いちばん最後に出たこのベスト盤で聴くのがお薦めです。
あなたが今20歳なら、50歳になった時に改めて聴いても感動できるはずです。
デビュー時からのファンとしては他にも入れて欲しい曲があり、特に「シャンパン・スーパーノヴァ」は入れて欲しかったですが入っていませんでした。
興味が沸いた方は、ファーストから順番に聴いてください。
投稿:2020.5.8
編集:2023.10.30
Photo by Andrew Petrischev – Unsplash
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