『オールウェイズ・ウィズ・ユー』 リック・ウェイクマン 2010年
積み上げられたキーボードに向き合うプラチナ・ブロンドのストレート・ロング・ヘアー。
背筋の伸びた肩にはキラキラ輝くゴールドのマント。
その神々しい姿を目にして以来、自分の中では特別なミュージシャンとしてフィルターがかかってしまったリック・ウェイクマン。
残念なことに神と見紛っていた魔法はけっこう早くに解けて、太った髭オヤジな姿に幻滅したのですが、それでもピアノの音は一聴して彼のものであることが分かる個性を放っていました。
リック・ウェイクマンと言えば、イエスのキーボーディストとして語られることが常ですが、実は活動のメインはソロだと言えます。
イエスに加入する前からデヴィッド・ボウイや数々のバンドのレコーディングに参加し、イエス脱退後も様々なバンドで演奏したり、アレンジをしたりしているものの、決して匿名のスタジオ・ミュージシャンではなく、アーティストとしての個性を際立たせています。
また、ソロ・アルバムでのヒットや映画音楽での実績を持ち、かなりの多作でもあります。
それでもイエスのキーボ―ディストと言われてしまうのは、それほどまでにイエスの『Fragile』『Close to the Edge』『Going for the One』での演奏が素晴らしかったからなので仕方ありません。
イエスでの成功は彼の創作意欲に火をつけたのか、脱退後は『The Six Wives of Henry VIII(ヘンリー8世と6人の妻)』『Journey to the Centre of the Earth(地底探検)』『The Myths and Legends of King Arthur and the Knights of the Round Table(アーサー王と円卓の騎士たち)』『Lisztomania(リストマニア)』『No Earthly Connection(神秘への旅路)』『Rick Wakeman’s Criminal Record(罪なる舞踏)』という、アイデアに満ちた優れたアルバムを毎年発表していました。
ご存知のように、リック・ウェイクマンはイエスの周辺で常に気になる存在であり続け、何度も加入しては脱退します。
彼は「鍵盤の魔術師」と称えられるように、様々なキーボードを同時に弾きこなしていました。
アコースティックなピアノから最先端のシンセサイザーまで見事に使い分けて演奏する姿は、まさに魔術師のようでした。
クラシカルで手数の多い演奏が持ち味ですが、楽曲に彩りをもたらす装飾的なプレイには特別なものがありました。
これは、各アーティストが超人的なプレイを繰り広げるイエスのようなバンドにあっては、特に輝きをみせました。
彼のソロ作品に何か物足りないものを感じるとすると、その点だと思えます。
彼の作り出す音の美しさは、他の優れたアーティストと一緒になることでさらに輝きを増すのです。
このアルバムは全曲ピアノの単独演奏で構成されていて、彼のピアノ弾きとしての魅力が詰め込まれた一枚となっています。
シューベルトの『Ave Maria』、ヘンデルの「Glory」の他、ハレルヤ・コーラスやバッハ、グリークなど、誰もが聴いたことのある有名なクラシック曲を、いかにもリック・ウェイクマンなタッチで聴くことができます。
ただ、アルバムのタイトル曲は彼のオリジナルです。
そしてさらにレッド・ツェッペリンの「天国への階段」をピアノ・アレンジで収録するという選曲には、ロック・ファンもニヤリとしてしまいそうです。
アルバムを通して、メロディアスで感情を込めた演奏を、相変わらずやりすぎなくらい手数の多いアレンジで聴かせてくれます。
かつての鍵盤の魔術師でも気難しい芸術家でもなく、ロマンチックなピアニストとしてのリック・ウェイクマンに触れられるアルバムです。
ジャケットの写真は、髭を剃ってこざっぱりしたように見えます。
Spotifyに、このアルバムはありませんでした。
Amazonでも品切れですね・・・。
投稿:2020.4.16
編集:2023.10.31
Photo by alsterkoralle – Pixabay
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