『死滅遊戯』 ロジャー・ウォーターズ 1992年
音楽を聴く前に「よくこの日本語タイトルにしたな」と思ったのが最初の感想でした。
ブルース・リーの映画「死亡遊戯」(原題は「Game of Death」)の黄色いウェアとヌンチャク・アクションが思い出されて良いことは無いと思うわけです。
私の手元にあるCDのジャケットは、サルがテレビを見ています。その後、リマスターされて、ジャケットも変わったのですね。
前作『RADIO K.A.O.S』と比較して、評価の高かったアルバムです。
このアルバムを気に入るかどうかは、ジェフ・ベックの活躍をどうとるか、というところかもしれません。
ジェフベックを使ってしまったら、良くも悪くも耳を持っていかれてしまうのは仕方がないです。
1曲目こそ静かな調子で弾いていますが、アタックの強さから、ジェフベックが指ピッキングしている姿が浮かんでしまいます。
続く2曲目『What Got Wants,PartⅠ』はじめ、随所で彼のギターが聴こえてくると耳を奪われてしまうのですから、凄い個性です。
自分の番組にゲストを呼んだら、そのタレントに喰われてしまったみたいな感じでしょうか。
(実は、ジェフ・ベック以外にも豪華なミュージシャンが参加しているようなのですが、聴いただけでは分かりませんでした。)
アルバムは、例によってトータルのコンセプトがあり、現状に対する問題提起が行われているロック・オペラです。
SEは素晴らしい効果をもたらしていますし、女性ボーカルにソウルフルな歌い方をさせるなどの得意技は、しっかり駆使されています。
囁くような歌から1拍おいてシャウトするボーカルは、感動を作り出す発明品の域です。
ロジャー・ウォーターズの声も、この方法にマッチしています。
ピンク・フロイドのアルバムで聴こえたような音が所々で響くので、その度にハッとさせられたりもします。
ロジャー・ウォーターズに期待するところは、ほぼ全て詰め込んでくれているのではないでしょうか。
繰り返しになってしまいますが、これほどまでに自我の強いロジャー・ウォーターズの作品にあっても、ジェフベックは存在感を示すのですから、只者ではありません。
ロジャー・ウォーターズは、『THE WALL – LIVE IN BERLIN』をはじめ、その他の自分のライブでも様々な著名アーティストを招聘しています。
ロジャー・ウォーターズだけだと同じ味に飽きてくるということはあるでしょうし、自分と別のアーティストとの化学反応で何かが起こることを期待しているのかもしれません。
ピンク・フロイドとは別の新たなファンを獲得するために、戦略的に行っていたとも考えられます。
しかし、ロジャー・ウォーターズの世界にどっぷりと浸りたいファンには、余計な付け合わせに感じられてしまったというのも、否めなかったのではないでしょうか。
やっぱり、良い戦略のもとで良いコンセプトを立てて、良い演奏を良いアレンジで展開しても、良い楽曲を作らないと成果を得るのは難しいのです。
それでも前のソロ作に失望していたファンにとっては、やっと期待に応えてもらえた力作といえるように思います。
投稿:2020.4.10
編集:2023.10.24
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