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『IN THE CITY OF ANGELS』 JON ANDERSON

音楽

『イン・ザ・シティ・オブ・エンジェルズ』 ジョン・アンダーソン 1988年

1980年代は、誰もが音楽を楽しむようになった時代だと思います。
いや、年代に限らず誰もが音楽には親しんでいたと言われればそうなのですが、この時期、音楽はファッションや様々な文化と結びついて、非常に親しみやすい形で日常に入り込んだと思うのです。
その代わりに哲学性の強い長尺の作品や自己満足度の高いソロ・バトルや実験的な挑戦は影を潜めて、耳障りの良い、適度に明るく、適度に感傷的な名曲が街に溢れました。

それまで音楽を消費財ととらえる気持ちは無かったのですが、この時期には音楽にも生産者と消費者がいるのだなという気にさせられたものです。
アーティストは芸術的な発露として音を紡ぎだす創作者から、リスナーが喜ぶものを提供する生産者に変わり、評価はマーケットに委ねられました。
マーケティングっぽく言うと、チャネル・キャプテンがアーティストから視聴者に移ったという感じでしょうか。

数が質を担保する、ということが起こったのか、音楽もマーケティングで良いサービスが提供できるんだ、ということだったのか、この時代には沢山の名曲(駄作も)や素晴らしいミュージック・ビデオ(退屈なものも)が作られました。

この流れでアルバムを語るのもなんですが、改めて聴いてみて、1988年発表らしい音が鳴っていたので、つい「そんな時代だったんだな」と思ってしまったわけです。
ジョンは悪くありません。時代のせいなのです。

私はよく「ジョン・アンダーソンが歌っていれば、そこはもうイエスや」と言いがちなのですが、これイエスっぽくはありません。
アメリカ西海岸っぽい洗練された演奏は、ボーカルを立てて抑制が効いています。
ドラムとベースがゴリゴリ前に出てきたり、歌よりも目立つソロを弾くギタリストやキーボード・プレーヤーは、ここにはいません。
品が良くて、余裕のある大人なポップスです。

ジョン・アンダーソンのボーカルが好きなら、何の問題も無いはずなのです。
そもそも、ここでイエスっぽい音が鳴っていたら、それはそれで批判的に受け止めた可能性だってあります。
ただ、前年に発表されたイエスの『BIG GENERATOR』に何の感慨も持てなかった私としては、ちょっとした期待があったのです。
そして、それは裏切られました。
イエスの『BIG GENERATOR』が産業ロックなら、ソロの『IN THE CITY OF ANGELS』はAORじゃんかと。
昔好きだった子の今付き合っている相手が気に入らなくて拗ねているようですが、そう思ってしまったのですから仕方ありません。

このソロアルバムを作るくらいなら、いっそ、ジョン・アンダーソンTOTOに入ってしまえばよかったのに、なんて憎まれ口をたたいてしまいそうです。
(アルバムのクレジットにTOTOのメンバーの名前が見られるからと言って、ちょっとコレは無いでしょうが。)

80年代を思わせるオシャレな音がところどころで鳴ってしまうせいで、オヤジ・リスナーとしては逆に古さを感じて、今聴きたいとは思えません。
個人的には評価していないアルバムなのに、長々と書いてしまいました。

AORっぽいというのは、私の期待を裏切るものではありましたが、結果として曲が悪かったわけではありません。
改めて聴き直したら、そこまでAORでも無かったですし・・・。
ジョン・アンダーソンへの変な思い入れ無しで聴ける人には、心地よいポップスが楽しめるアルバムです。

投稿:2020.3.29  
修正:2023.10.27

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