『マルアジャスティッド』 モリッシー 1997年
社会不適応。それがアルバムのタイトル。
モリッシー自身がそうであり、アーティストの多くがそうであり、おそらく私やあなたもそうかもしれない。
だから耳をそばだてて聴く。
このアルバムでのモリッシーは、若かった頃のように声高に世の不正義を糾弾するのではなく、この世界にうまくアジャストできない者たちの物語を抑制をきかせて静かに歌う。
痛ましい出来事、思うようにいかない現実、運から見放された人たちの人生が、ただ見守られたままメロディに乗せられて耳に届いてくる。
だから耳をそばだてて聴く。
すると、歌詞の中の 彼女 や 彼ら と 私 や あなた は、お互いの哀しみを共有し、せめてもの優しさを分け合うことができる。
歌われている状況はシリアスでも、歌を聴くという行為を通じて、お互いが浄化されるような、そんな幻想に浸ることができるアルバムです。
前作で聴けたようなロック・サウンドを期待していると、その気持ちは裏切られてしまいます。
哀しさとシリアスさが全体を支配していることもあり、セールス的には良くなかったそうです。
でも、吟遊詩人モリッシーを味わうなら、このアルバムはおススメです。
40代を前にして大人になった彼の強味が十分に発揮されています。
実は、このアルバムから次のアルバムまでは、なんと7年のインターバルがあきます。
今となっては、後に活動を再開することは分かっているわけですが、当時は、これがラスト・アルバムだと納得させられているようにも感じました。
Spotifyにあるのは、ジャケット・デザインも含めて、2009年に再発売された時のものです。
収録曲が異なっていて、差としては、オリジナルCDでしか聴けない曲が2曲、再発盤でしか聴けない曲が6曲あります。
オリジナルのジャケットは、銀色の背景の上にしゃがみこむモリッシーが切り抜かれている、どうしようもないデザインでした。
アルバムタイトルのフォントも色も、全然良くなくて、せっかくの内容が台無しでした。所有欲が失せてしまう・・・。
(再発のアート・ワークも全くよくありませんが。。。)
ジャケットのことは置いておくとして、激しく体制を批判する彼らしさはありませんが、深く沁みるアルバムで、個人的には彼のキャリアの中でも大好きなアルバムの一枚です。
できることなら、歌詞を確認しながら聴くことをお勧めします。
投稿:2020.8.10
編集:2023.11.3
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