『ヘンリー八世の六人の妻』 リック・ウェイクマン 1973年
リック・ウェイクマンは若い頃に良く聴きました。
と言っても「ヘンリー8世」(1973年)から「罪なる舞踏」(1977年)までの5枚に限ってですが。
彼は非常に多作なアーティストで、とても全ての作品を追いきることはできません。
実際のところ、日本盤が出ていなかったり、輸入盤でも手に入らないものが多かったので、聴いてないアルバムがあっても、あまり気にすることはなくて済みました。
今、Spotifyで見てみると、持っているアルバムが上がっていなかったり、逆に全く知らなかったものが沢山あったりしました。
つまみ食い的にいくつかを聴いてみましたが、どこを切ってもリック・ウェイクマンでした。
彼は若い時から優れたキーボード・プレーヤーであり、デイヴィッド・ボウイの「スペース・オディテイ」をはじめとして様々なレコーディングに参加していましたが、なんと言ってもその名を世に知らさしめたのは、イエスに加入して発表された「こわれもの」「危機」「イエスソングス」「海洋地形学の物語」での演奏でしょう。
周囲を沢山のキーボードに囲まれて、長いストレートの金髪に金色のマント姿で立ったまま演奏する姿は、発せられる音と相まって神々しくさえありました。
イエスのメンバーとしての活躍で名前を売ったリック・ウェイクマンですが、もともとソロでの仕事をしていたこともあり、バンドマンというよりは、独立した音楽家という意識が高かったのではないかと思われます。
この「ヘンリー八世の六人の妻」が発売されたのは1973年。
イエスの「危機」(1972年)と制作時期がかぶっているようで、参加メンバーの中にはクリス・スクワイヤやアラン・ホワイト、ビル・ブルフォードの名前も見られます。
大人気バンドで演奏していても、逆にソロの制作に活かしてしまうあたり、曲者です。
レコード会社も便乗して、レコードの帯には「リックウェイクマン+イエス」と書いてしまう始末です。
「ヘンリー八世の六人の妻」は、彼が自分名義のオリジナル作品としてソロ活動を行った最初のアルバムでした。
この後、彼の長いキャリアの中で数多くのアルバムが制作されるわけですが、今改めて聴き直してみても、このアルバムがベストなのではないかと思います。(彼の全作品を聴いたわけではありませんが。)
楽曲の良さ、演奏技術、ゲスト・ミュージシャンの使い方、そしてリック・ウェイクマンという個性の表出、それらが全て良い方向でまとまっています。
ピアノの音は美しくセンチメンタルなメロディを奏で、エレクトリックな音は刺激や幻想性を彩っています。
キーボ―ディストのソロとして、見事な完成度と言ってよいでしょう。
キャリアを積んだ彼の作品に、(事実かどうかはさておき)どこか安直な作りを感じてしまう私としては、若いころに繰り返し聴いたということも含めて、初期の5作(「リストマニア」を加えて6作)こそがリック・ウェイクマンであり、やっぱりこの「ヘンリー八世の六人の妻」がベストなのです。
投稿:2020.9.10
編集:2023.10.31
Photo by Alice Alinari
コメント