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『W』Gacharic Spin #2

音楽

『W』 ガチャリック スピン 2023年 (その2)

2023年夏にリリースされた ガチャリック・スピン のアルバム『W』について書こうと思ったのですが、前段が長くなりすぎてしまったので、その続きです。

(その1)は、こちら。

最大の魅力はキャッチーさ

ガチャリック・スピン の音楽は、様々なジャンルのエッセンスを取り入れながら、ポップに仕上げているところが最大の魅力です。
楽しく笑顔で演奏していながら、実は個々の演奏もバンドのアンサンブルも相当な難易度で、曲の構成が複雑なところも独自性があります。
過去の音楽をコラージュして再構成している手法なのかというと、それだけではなく、そこにメンバーのキャラクターがしっかり反映されていて、見事なオリジナリティを発揮しているのです。
「あのサウンドに似ている」というところはあっても、「あの曲に似ている」ということはありません。
それなのに、聴いていて安心感や懐かしさ、親しみやすさがあるのです。
このキャッチーさは、世界中を見渡しても彼女たちが飛び抜けています。

『W』に至る全2作あたりから、「演奏できるアイドル」というコンセプトではなく、リアルな自分達の音楽を届けるバンドに方向チェンジしたようで、これは大正解だと思えます。

過去作にも名曲はあるのですが、若くて容姿が良い点を強みだと思っていたのか、リスナーはそういうのを求めていると思い込んでいたのか、売れたい戦術が透けて見えて、過去の映像などを拝見する限り、その当時のバンドに対しては厳しい評価にならざるを得ません。
しかし、今、ここに到達できたのも、こうした試行錯誤を前向きに行い、音楽を止めずに続けてきた成果でしょう。

キャリアの最高地点

現在の ガチャリック・スピン は、15年近いキャリアの最高地点にあるように思えます。
心配なのは、今がピークなのではないかと思えてしまうところです。
なにしろ、ここ数年の楽曲制作やライブ・パフォーマンスは、それほどの充実ぶりなのです。
もちろん、ここからさらなる高みへと飛躍することも十分期待できます。

ガチャリック・スピン のメンバーは皆それぞれに個性が際立っていて、「音楽性の違い」を理由に解散してもおかしくないくらい方向性も様々です。
さらに、技術的には、どこのバンドでもスタジオでも、仕事に困ることは無さそうな高い演奏技術のある方々ばかりです。
しかし、こうしたメンバーの個性を活かして、上手く機能させることに長けた誰かがいるか、メンバーの総意があるのでしょう。

そうした中、特別な輝きを放っているのが、2019年から加入したマイク・パフォーマーの アンジェリーナ1/3さん です。
彼女のキャラクターは、バンドを一気に若返らせてくれました。

CDのジャケット・ワークからも、彼女をバンドのフロントに据えるという意思表示のようなものが感じられるようになりました。
カリスマ性の強いフロント・メンバーがいると、その個性を打ち出す方が売り出しやすくなりますし、他のメンバーからすれば負担が減ります。
それでも決して アンジェリーナ1/3さん とそのバック・バンドにはなっていません。
ちゃんと、彼女を機能させることでバンドとしての魅力が増大しているのです。

そうしたお姉様方のおかげで(?)、アンジェリーナ1/3さん は個性を発揮して、バンドに絶大な貢献をしています。そして、そうさせている他のメンバーの方々もまた素晴らしいと思えます。

2023年 最新アルバム『W』

さて、『W』です。
人間には 2つの異なる面があることを表しているのか、女性(ウーマン)のことなのか、驚異(ワンダー)を表しているのか、もろもろ全部なのか、様々に想像するのも楽しい意味深なタイトルです。

レプリカ

1曲目の『レプリカ』から、ガチャリック・スピン の魅力は全開。
作曲、演奏、アレンジ、録音、歌詞、全てが秀逸で、ミュージック・ビデオも良くできています。
楽器の各パートを褒めていくとキリがありませんが、歌詞に合わせて瞬時にキャラを変える アンジェリーナ1/3さん の特別な能力が惜しげ無く披露されています。
録音も、ヴォーカルが立っていて歌詞が良く聞こえます。
ラストに向かって思いが積み重なって混沌としてゆくシリアスな曲で、前作の『MindSet』と並ぶ、バンドの代表曲となることでしょう。
海外のYoutuberがリアクションしている動画も複数あがっていて、高く評価されていました。
そんなものも見ていたので、この1ヶ月で最も繰り返し聴いた曲となりました。

The Come Up Chapter

2曲目は『The Come Up Chapter』。
ここでも アンジェリーナ1/3さん の魅力が爆上がりしています。
ベースはバッチンバッチン叩かれていますし、ギターは高速なリフに加えてツィン・リード、80年代っぽい音色のキーボードが全体のカラーを彩っている激しいロック・ナンバーです。
各楽器のアンサンブルは、いかにもバンドっぽく練られていますし、4人が歌える強みも発揮されています。4つの声を楽器のアンサンブルのように構成して組み立てる作り方は、このバンドでなければ味わえない魅力のひとつでしょう。
3分弱の短い曲で、疾走感が半端ないです。

カチカチ山

3曲目は、『カチカチ山』。
女性バンドというバイアスを逆手に取ることに長けた、したたかな彼女たちの持ち味がフルに発揮された名曲です。
演奏だけ切り出したら、どれだけハイテクなバンドなんだと驚いてしまうでしょうが、それをこういう曲に仕上げてしまうわけです。
ミュージック・ビデオでは、中盤以降、はなさん がドラムを叩き始めますが、これはライブでもツィン・ドラムになるのでしょうか。
海外Youtuberさんたちが理解に苦しんだ歌詞も、よく練れています。
「自分を成長させる宝物」ではなく「宝箱」と歌っていたり、「そこ桃太郎じゃねぇんだぁ」のTOMO-ZOさんに和みます。

rabbithole

ここまで一気に ガチャリック・スピン の強みを畳みかけてこられて圧倒されていると、4曲目は印象が変わる『rabbithole』。
ここでも アンジェリーナ1/3さん の歌唱が光りますが、後ろで鳴っているギターがかっこ良くて、アルバムの流れとしては、高揚した気分を一旦、落ち着かせてくれます。
椎名林檎さんとかが好きな方にも喜ばれそうな、少し大人なミディアム・ナンバーです。
私はすっかりバンドのラビット・ホールに落とされました。

ロンリーマート

5曲目は、バラードの『ロンリーマート』。
こういう曲が少ないバンドですが、良い流れです。
コンビニに立ち寄って自分の分だけの買い物をして、ひとりで空を見上げながら「月が綺麗」だと感じる歌詞には、夏目漱石の意味が重なってしんみりしてしまいます。
それでも中盤からテンポがあがり、バンドがドライブし始めると、ガチャリック・スピン らしさが全開になってきます。
特に好きなのは、歌と同じメロディをベースが並奏する部分。
これは、他にもギターが単音で歌に寄り添う曲があったりして、彼女たちの得意技なのかと思いますが、ちゃんと効きます。
主人公を見つめる前半、寄り添う中盤、そして後半へかけて後ろを押すように演奏されるアレンジに、物語を感じます。
アンジェリーナ1/3さん の表現力も素晴らしく、言葉を尽くした後に発せられる「あぁー」は、私の中では 、YOASOBIの「群青」と並ぶトップ2の「あぁー」です。泣けます。

KIRAKIRAI

6曲目は、『KIRAKIRAI』。
思いとは裏腹に煮え切らない関係。相手を思えばキラキラとしたシーンが浮かぶものの、相手をキライだと思うことで整理を付けようとしているのでしょう。
もしかすると、気持ちを引きずっている自分の不甲斐なさのようなものもキライなのかもしれません。
繰り返されるフレーズがキャッチーな曲です。
楽曲にコンセプトやメッセージを感じることが増えた中では、ストレートな世界観のポップ・ロック。

Voice

7曲目は、『Voice』。
複雑な展開や個性的な曲の中が多い ガチャリック・スピン の中では地味めな曲。
前の『ロンリーマート』もそうでしたが、キーボードで作ったと感じさせる歌メロがしっかりした曲。
中盤に歌に寄り添うベースが入ったり、後半に向けて盛り上がったりする展開も似てると言えば似ています。
抒情的なテーマなのにドラムがガンガン叩いているのが印象的ですが、アンジェリーナ1/3さん の歌唱はパワー溢れるバンドの演奏に負けない強いエネルギーを発しています。
ノーメイクで迫真のボーカルを聴かせてくれるショート動画には泣きました。

Live Every Moment~ヒトヨバナ~

8曲目は、『Live Every Moment~ヒトヨバナ~』。
ギター・ロックが好きな人には嬉しい曲でしょう。テクニカルでパワフルなギターが聴けます。
古くからのファンの方には、ガチャリック・スピン らしさのようなものも感じられるのではないでしょうか。
キーボードが目立つと80年代ロックっぽくなっちゃう気がするので、ツィン・ギターをもっと出してくれてもよかったかもしれません。
はなさん は、昔はラウドな曲も歌っていましたが、本来はこういう可愛らしい歌声が持ち味なのでしょう。
演奏は良いのですが、普通のロック・バンドみたいな作りなので、最近ファンになった私としては面白みに欠ける曲でした。
ライブでは盛り上がりそう。

ナンマイダ

9曲目の『ナンマイダ』は、ガチャリック・スピン でなければ作れないだろうと思える個性的な曲。
ガチャガチャしていて、複雑でもキャッチーで、シリアスでもハッピー。
バンドの皆が手を抜かないで演奏して、歌っています。
全てを聞き取るのは難しいけれど、歌詞も練られています。
このバンドの本音なのだとしたら、グッと胸に刺さります。
天才集団ですな。

リバースサイコリジー

10曲目、アルバムの最後を締めるのはポスト・ハードコアな『リバースサイコリジー』。
タイトルは、マーケティングで「カリギュラ効果」なんて言われる、ダメと言われると余計に気になる、みたいな意味でしょうか。
テーマは恋愛なので、『レプリカ』と比べると深刻では無いのですが、楽曲はヘビーでダーク。
スクリーモまで披露していて、リンキンパークかという迫力です。
リンキンパークよりもテクニカルなのは間違いなさそうですが、何よりも はなさん の歌声が女性らしい切なさを伴っていて素敵です。
このギャップが受け入れられるかどうかは、ガチャリック・スピン を好きになれるかどうかの試金石になるかもしれません。

オッサン世代に刺さる多彩な音楽性

全10曲を一気に走り抜ける、全く隙の無い濃密な40分でした。

ハードな曲からコミカルな曲、心に沁みるバラードまで、バラエティ感が発揮されていています。
基本的なスペックの高さに加えて、各メンバーを活かす演奏のバランスも素晴らしいです。
それぞれの曲の展開やアレンジ、歌や演奏のクオリティ、エフェクトや録音などから、総合的な音楽能力の高さを感じます。
どの曲でも、いろいろなところで、いろいろなことが同時進行していて、全ての瞬間に「聴きどころ」があるのです。
現在活動しているバンドの中でも、ひときわ輝いている充実の時期を迎えているのではないでしょうか。

バンドが音楽を続ける喜びに満ちているのが伝わってきて、こんなオッサンでもずっと聴いていられます。
いやー、いいもん見つけた。


投稿:2023.10.22

Photo by Mikola-topic on Unsplash

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